「文化」と「文明」は、現代文や歴史、政治経済など様々な場面で使われている言葉です。ただ、具体的にどのような違いがあるのか分かりにくい言葉でもあります。
実はどちらもちゃんとした語源があるため、正確な意味を理解できれば大きな武器となります。今回は、「文化」と「文明」の違い・英語訳などを、例を交え簡単にわかりやすく解説しました。
文化の意味・定義
まず、「文化」の意味を調べると次のように書かれています。
【文化(ぶんか)】
①人間の生活様式の全体。人類がみずからの手で築き上げてきた有形・無形の成果の総体。それぞれの民族・地域・社会に固有の文化があり、学習によって伝習されるとともに、相互の交流によって発展してきた。カルチュア。
② ①のうち、特に、哲学・芸術・科学・宗教などの精神的活動、およびその所産。物質的所産は文明とよび、文化と区別される。
③世の中が開けて生活内容が高まること。文明開化。多く他の語の上に付いて、便利・モダン・新式などの意を表す。
※「文化」の英語訳⇒「culture(カルチャー)」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「文化」とは簡単に言うと「人間が作り出した全てのもの。特に精神的なもの」という意味です。
「文化」というのは、幅広い意味を持っています。広い意味では、「食生活・暮らし方・文字・言語・農業」など社会の仕組みを担うものが当てはまります。
一般的には、その中でも「特に精神的なもの」を指すことが多いです。「精神的なもの」とは、例えば以下のようなものです。
- 哲学
- 芸術
- 道徳
- 宗教
- 科学
これらの文化は、具体的な形があるわけではありません。なぜなら、すべて人間の頭の中で考えて作り出したものだからです。
このように具体的な形がない精神的なものを、特に「文化」と呼ぶわけです。
文化の語源は農業
「文化(culture)」の語源は、英語の「cultivate」だと言われています。
「cultivate」とは「(土を)耕す」という意味です。つまり、農業をすることが文化の始まりだったのです。
農業を始める前の人々は、収穫した木の実をすべて食べていました。ところが、毎回すべてを食べていては木の実がすぐになくなってしまいます。
そこで、昔の人々は「収穫した木の実を再び種として植える」というアイデアをひらめきました。
種をちゃんと植えておけば、秋の収穫時にまた木の実を食べることができます。これが「カルチャーの始まり」ということです。
「未来のために今ある木の実を食べずに土を耕す」という発想は、人間の思考なしにはできなかったはずです。
「カルチャー」は、人間の精神的な考えがあったからこそ生まれたものだったのです。
文明の意味・定義
続いて、「文明」の意味です。
【文明(ぶんめい)】
⇒人知が進んで世の中が開け、精神的、物質的に生活が豊かになった状態。特に、宗教・道徳・学問・芸術などの精神的な文化に対して、技術・機械の発達や社会制度の整備などによる経済的・物質的文化をさす。
※「文明」の英語訳⇒「civilization」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「文明」とは簡単に言うと「生活を豊かにするもの。特に物質的なもの。」という意味です。
後に解説しますが、「文明というのは文化も含んだ言葉」です。辞書の説明にもあるように、「文明」=「経済的・物質的文化」と定義することもできるのです。
「文明」というのは、歴史を振り返ると分かりやすいでしょう。例えば、有名な文明として次のようなものがあります。
- メソポタミア文明
- エジプト文明
- 石油文明
- 自動車文明
「メソポタミア文明」は、二つの川の間で水を確保することにより、豊かな農業社会を築きました。「エジプト文明」も、ナイル川の氾濫(はんらん)を利用し、豊かな農業社会を築きました。
そして「石油文明」は「石油」を採掘することにより、便利な工業社会を築きました。さらに「自動車文明」は、石油を燃料にしてエンジンを動かすことにより、人や物の移動を楽にしました。
このように、「文明」とは生活を豊かにするもの全般を指すわけです。その中でも特に「物質的なもの」を指すことが多いです。
「物質的」とは「具体的な形がある」という意味です。現代社会だと、「コンピューター」などが挙げられます。
パソコンやスマートフォンなどのコンピューターは、私たちにとって一番身近な存在でしょう。
世界中の人々がパソコンを使い、仕事やプライベートに役立てているのは、まさに「コンピュータ文明」と言えます。
誰かが作り出したものが世に広まり、物質的に生活を豊かにするものであれば、それは「文明」と呼べるのです。
文明の語源は都市国家
「文明(civilization)」の語源は、英語の「civil」だと言われています。
「civil」は「市民の・都市の」などの訳があり、ここでは「都市の」という意味で使われています。
すなわち、昔の都市国家の構成からきた言葉が「文明」ということです。
昔の都市国家は、様々な建物が建てられて成立していました。古代ローマであれば、ローマ建築が非常に有名です。
「建築」というのは、具体的な形がある家や建物などを作る技術です。そのため、「文明」は主に物質的なものを指すようになったのです。
「文明」の語源をひもとくと、発達した技術や生産力を持つ都市性というものがキーワードとして挙げられます。
また、それと同時に都市や発達した技術を持つ文明は、他の地域への影響力も大きいということが分かるでしょう。
文化と文明の違い・使い分け
ここまでの内容を整理すると、
「文化」=人間が作り出した全てのもの。特に、精神的なもの。
「文明」=生活を豊かにするもの。特に、物質的なもの。
ということでした。
両者の違いは、2つの点から比較すると分かりやすいです。
1つ目は、「精神的か物質的か」ということです。
「文化」という言葉は、主に精神的なものに対して使います。したがって、「文化」は人々の心を豊かにするものだと言えます。
一方で、「文明」という言葉は、主に物質的なものに対して使います。したがって、「文明」は人々の生活を豊かにするものだと言えるのです。
2つ目は、「広がる範囲」です。
「文化」は、特定の民族や地域などのように範囲が決められます。言い換えれば、「範囲が限定される」ということです。これは仏教やイスラム教などの宗教が分かりやすい例でしょう。
一方で、「文明」は特定の民族や地域に縛られず、範囲が限定されません。例えば、石油・車・コンピュータなどは、世界中の国や地域に広まっています。
つまり、広がる範囲が「文化」よりも広いのが「文明」なのです。
すでに説明したように、「文明」は「文化」の意味も含んだ言葉です。「文明」は、最初はある特定の地域で始まります。
ところが、その物質的な便利さが分かると、国や言語、民族などの壁を越えて広く拡散していきます。そして、その中でも特に精神的なものが「文化」となるわけです。
文化と文明の使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【文化の使い方】
- 学問・音楽・道徳など精神的生活に関わるものを、文化と呼ぶ。
- 日本固有の伝統文化を大事にしようという考えは常に伝承されてきた。
- 欧米の食文化の流入により、日本の食文化は大きく変わることとなった。
- 相撲は日本の国技であり、世界に誇れる素晴らしい文化と言えるだろう。
- イスラム教の国々では、豚肉を禁止している文化が広く浸透している。
【文明の使い方】
- 人々の経済活動や移動方法など物質的生活に関わるものを、文明と呼ぶ。
- 漢字文明は最初は中国で起こり、その後、東アジアに広まるようになった。
- インダス文明とは、紀元前3000年頃からインダス川流域に栄え始めた文明である。
- アマゾンの奥地における生活は、文化はあるが文明は発展していないと言える。
- パソコンやスマホなどのテクノロジーは、現代社会が生んだ文明の利器である。
「文化」は、人間が自ら生み出してきたものを表します。また、民族や地域と結びつくことで精神的な側面が強調されるのが特徴です。
したがって、「文化」=「個別的・精神的」といったキーワードで覚えると分かりやすいです。
一方で、「文明」は人々の生活を豊かにするものです。さらに、発達した技術や生産力を中心に他の地域へ広がっていく性質があります。
したがって、「文明」=「普遍的・物質的」といったキーワードで覚えると分かりやすいです。
なお、最後の例文の「文明の利器(ぶんめいのりき)」とは「文明がもたらした便利な道具や機械」のことです。「利器」とは「便利な道具・機械」のことを指します。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「文化」=人間が作り出した全てのもの。特に精神的なもの。(農業が語源)
「文明」=生活を豊かにするもの。特に物質的なもの。(都市国家が語源)
「違い」=「文化」は人々の心を豊かにし、「文明」は人々の生活を豊かにする。また、「文化」は広まる範囲が限定されるが、「文明」は広まる範囲が限定されない。
「文明」は「文化」も含んだ広い意味の言葉です。したがって、厳密に言うと両者には共通点も存在することになります。文章を読む時はそういったこともぜひ意識するようにしてみてください。