「付ける」と「着ける」は、同訓異義語として様々な場面で用いられています。
「身に付ける」「身に着ける」
両方とも「つける」と読みますが、この二つはどう使い分ければいいのでしょうか?今回は「つける」の違いについて詳しく解説しました。
付けるの意味
まずは、「付ける」の意味からです。「付ける」には「くっつける・密着させる」などの意味があります。
- 扉に金具を付ける。
- テープを貼り付ける。
- 顔に墨を付ける。
別の言い方をするならば、「離れないようにする」ということです。
また、「(何かに)所属させる・仲間にさせる」「加える・添える」などの意味もあります。
- 秘書を付ける。
- 味方に付ける。
- 利息を付ける。
- クーラーを付ける。
- ふりがなを付ける。
さらに、慣用句的な言葉の一部として使うことも可能です。
- 気を付ける。
- 目を付ける。
- 手を付ける。
- 焼き付ける。
- 近付ける。
このように、物理的な意味、所属や添加を表す意味、慣用句的な意味など様々な使い方ができるのが「付ける」だと考えて下さい。なお、「付ける」は英語だと「add」と言います。
着けるの意味
続いて、「着ける」の意味です。「着ける」には「身にまとう・着用する」などの意味があります。
- 指輪を着ける。
- お守りを着ける。
- アクセサリーを着ける。
これは「着衣・着用」などの熟語があることからも分かるでしょう。
また、「乗り物をある場所に寄せ止める」という意味もあります。
- 船を岸に着ける。
- 車を端に着ける。
さらに、「ある場所に位置させる・一定の所にいさせる」などの意味もあります。
- 定位置に着ける。
- スタートラインに着ける。
「着ける」も複数の意味として使うことができますが、一般的には衣服やアクセサリーを身にまとう時に使うことが多いです。そのため、「着ける」=「着用」のイメージで考えて問題ありません。なお、「着ける」は英語で「wear」と言います。
付けると着けるの違い
ここまでの内容を簡単に整理すると、
「付ける」=「くっつける・所属させる・加える・添える・(慣用句の一部)」
「着ける」=「身にまとう・寄せ止める・位置させる」
ということでした。
両者の違いは、二つの点から比較すると分かりやすいです。
一つ目は、「目に見えないモノにも使うかどうか」です。
「付ける」は、目に見えるモノ、目に見えないモノの両方に使うことができます。言い換えれば、広い意味を持った言葉ということです。
一方で、「着ける」の方は原則として目に見えるモノにしか使いません。別の言い方をすれば、目に見えないモノには「着ける」は使わないということです。
これはすでに説明した通り、「着」という字の本来の意味が「衣服」「アクセサリー」など目に見える物理的な物を対象としているからだと言えます。
そして二つ目は、「密着度の大きさ」です。
「付ける」は、密着度が大きい言葉だと言えます。例えば、テープで貼り付けたり、金具で止めたりといった行為は、モノとモノが接触して透き間がなくなることを意味します。
そのため、いざ付ける行為をした場合は、物理的に離すことは容易ではありません。離す時はある程度の労力を必要とします。
逆に、「着ける」の方は「付ける」よりも密着度が小さい言葉だと言えます。
着ける行為というのは、一時的な接触を表すことが多いです。例えば、衣類やアクセサリーというのは、普段から着けたり外したりすること前提で装着するものです。ずっと同じ服やアクセサリーを着けている人などまずいないでしょう。
以上の事から考えますと、両者の違いは次のように定義できることが分かります。
「付ける」=目に見えるモノ・見えないモノの両方に使い、密着度が大きい。
「着ける」=目に見えるモノに使い、密着度が「付ける」よりも小さい。
身に付けると身に着けるの違い
「つける」の前に「身に」がついて、「身に付ける」「身に着ける」などと言う場合があります。
この場合は、どちらを使っても意味自体はほぼ同じです。したがって、明確な使い分けは存在しないと考えて下さい。
元々、この言葉は「身に着ける」を使うことが一般的でした。例えば、以下のような使い方です。
- 知識を身に着ける。
- 能力を身に着ける。
- 経験を身に着ける。
これは各新聞社が、過去に決めたルールのもとでの使い分けです。
「毎日新聞」(2007年)=身に着ける。
「朝日新聞」(2005年)=身に着ける。
出典:毎日新聞・朝日新聞ハンドブック
ところが、時代が進むにつれて「身に着ける」だけではなく「身に付ける」の方も頻繁に使われるようになりました。
これはなぜかと言いますと、2014年に発表された『学習指導要領』で「身に付ける」の方を使っていることが判明したからです。「学習指導要領」というのは、教育機関のトップである文部科学省が定めているものです。
このような経緯もあり、各新聞社も以前のように「身に着ける」のみを使うのではなく「身に付ける」の方も使うようになりました。そのため、現在ではどちらも使われている現状なのです。
個人的な見解としては、どちらで書くか迷った場合は、ひらがなで「身につける」と書くのも一つの手段であると考えています。
仮に「衣服を身につける」「腕時計を身につける」などであれば、迷わず「身に着ける」を使えば問題ありません。しかし、「知識を身につける」「経験を身につける」などだと、一気に話がややこしくなってしまいます。
「身に着ける」だと、全身に知識を身にまとうイメージなので理にかなっていそうですが、「着」の本来の意味は目に見える物理的なモノを対象とするものです。
また、「付」に関しても「知識を身に付ける」だと、必要な知識を「くっつける・付け加える」となり本来のイメージと少しずれてしまいます。しかし、慣用句の一部としては「付ける」はよく使われているので、そういった理由から考えれば特に問題はありません。
以上の事から考えて、どちらを使っても間違いではないですし、どちらが正解でもないという結論になるわけです。
付ける・着けるの使い方・例文
最後に、「つける」の使い方を実際の例文で確認しておきます。
【付けるの使い方】
- 履歴書に自分の顔写真を付ける。
- 暑いので、クーラーを部屋に付けるようにした。
- あいつを味方に付けると、断然有利になるだろう。
- 悪知恵を付けるようなことはよしたほうがいい。
- 法外の利息を付ける貸付会社なので信用できない。
【着けるの使い方】
- 息子に初めてのはかまを着ける。
- 成人したので高価なアクセサリーを着けることにした。
- 飼い犬には首輪を着けるようにした方がいい。
- 車を道路の端に着けるように上手く駐車する。
- マラソン選手をスタート地点に着けるようにする。
なお、「点ける」という言い方もありますが、「点ける」は電気や電灯などをつける場合に使われます。例えば、「部屋の電気を点ける」のような使い方です。
これは「点灯(てんとう)」という熟語があることからも分かりやすいでしょう。「点ける」は「付ける」や「着ける」とは明確に異なる言葉なので注意してください。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「付ける」=「くっつける・所属させる・加える・添える」
「着ける」=「身にまとう・寄せ止める・位置させる」
「違い」⇒「付ける」は目に見えるモノ・見えないモノの両方に使い、密着度が大きい言葉。「着ける」は目に見えるモノに使い、密着度が「付ける」よりも小さい言葉。
「身につける」に関しては、明確な使い分けは存在しません。したがって、「身に付ける」「身に着ける」「身につける」、いずれも使える言葉だと認識しておきましょう。