「掛け値なし」という慣用句をご存知でしょうか?
主な使い方としては、「現金掛け値なし」「掛け値なしに素晴らしい」などのように用いられます。ただ、そもそも「掛け値」とは一体何だろう?と思う人も多いはずです。
そこで今回は、「掛け値なし」の意味や語源、由来、類義語などを含め分かりやすく解説しました。
掛け値なしの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【掛け値なし(かけねなし)】
①物を売るときに実際より高い値段をつけることがないこと。
②物事を誇張して言わないこと。
出典:精選版 日本国語大辞典
「掛け値なし」には、二つ意味があります。一つ目は「物を売る時に実際よりも高い値段をつけていないこと」です。
この場合は、値上げをせずにそのままの価格で商品や製品を売るような際に使われます。例えば、八百屋の店長が高い値段を付けずにそのままの価格でリンゴを売ったとすれば、「掛け値なしの値段でりんごを売った」などのように言います。
そして二つ目は、「物事を誇張して言わないこと」という意味です。「誇張(こちょう)」とは「おおげさな様子」という意味です。すなわち、大げさでなく本当である様子を強調したい時にこちらの意味を使います。
例えば、人の作った料理がおおげさではなく本当においしい場合に、「彼女の料理は掛け値なしにおいしい」などのように言います。
二つ目の意味は言う時の様子を表した言葉なので、商品や製品以外にも様々な対象に使うことができます。そのため、実際には②の意味として使われることの方が多いです。
なお、「掛け値なし」は漢字を使って「掛け値無し」と書く場合もあります。どちらを使っても意味自体は全く同じと考えて下さい。
掛け値なしの語源・由来
「掛け値なし」という言葉は、江戸時代の三井越後屋が始めた商売の方法に由来します。まず、「掛け値」とは実際の売値より高くつけた値段のことです。
現在でも売り手が買い手に対して値段を釣り上げることを「吹っ掛ける」などと言います。この事から、「掛け値」は正規の値段よりも高くつけた値段を指すのです。
元々、江戸時代の商売では商品購入後にすぐお金を払うのではなく、一定期間後に代金を払うという形が一般的でした。例えば、その年の6月に商品を買ったとしたら、年度末の12月にお金を払ったりするのが普通だったのです。
これを売り手からすると「掛け売り」、買い手からすると「掛け買い」と言います。この方法であれば、買い手からすれば、手元に現金がなくてもその場で商品を買えるというメリットがあります。
一方で、売り手からすると、代金をちゃんと払ってくれなかったり、集金の手間がかかったりというデメリットがあります。そこで、売り手側としては実際にお金を払うまでの期間の利息分を、あらかじめ代金に上乗せし、通常よりも高い値段をつけていました。この高い値段がついた価格こそが「掛け値」と呼ばれるものなのです。
ところが、その商売に目をつけたのが「三井越後屋」です。「三井越後屋」はお客に対して「うちはその場で現金でお支払いください。その代わりお安くしますから。」と打ち出しました。これが、「現金掛け値なし」商法です。
つまり、「現金をもらう代わりに、値段を高くしていない元々の価格で売る」ということです。「現金掛け値なし」は買い手からするとすぐに現金で払わないといけませんが、その分値段が安いのはお得です。そのため、三井越後屋はどんどんと商品を売り、規模が大きくなっていきました。
それが今もなお有名な三越百貨店なのです。現在では「掛け値なし」の商売は当たり前ですが、過去を振り返るとこのような歴史があったことになります。
掛け値なしの類義語
続いて、「掛け値なし」の類義語を紹介します。
- 嘘のない
- 誇張のない
- お世辞でない
- 大げさでない
- 素直に
- 正規の
- 絶対値の
- そのままの
- ありのままの
- 文句なしに
- まさしく
- 額面通り
- 文字通り
- 間違いなく
- 正味(しょうみ)の
- 正真正銘(しょうしんしょうめい)
- 尾鰭(おひれ)を付ける
※「尾鰭を付ける」とは「事実でないことを誇張を交えて話す様子」という意味です。「尾ひれ」=「余計なもの」に例えたことわざだと考えて下さい。
「掛け値なし」は様々な言い換えをすることができますが、大まかな意味としては「そのままの様子やありのままの様子」を表した言葉となります。要するに、「何も手を加えていない状態」ということです。
掛け値なしの対義語
逆に、「掛け値なし」の対義語としては以下のような言葉が挙げられます。
- 誇張した
- 大げさな
- お世辞臭い
- 軽はずみな
- 嘘の
- 仮の
- 虚飾の
- 一時しのぎの
- 暫定的の
- 間に合わせの
反対語は主に否定的な意味として使われ、何かに手を加えたりする言葉となります。ちなみに、「掛け値あり」という言葉は存在しないので注意してください。
掛け値なしの英語訳
「掛け値なし」は、英語だと次のような言い方があります。
「net(正味の)」
「truthful(本当の・正直な)」
「without exaggeration(誇張なしで)」
「net」は「巣・網」などの訳が一般的ですが、形容詞で使うと「正味の・正価の」という訳になります。また、「truthful」は「嘘を言わない様子」を表した形容詞です。最後の「without~」は「~なしで」、「exaggeration」は「誇張」という意味です。
例文だと、それぞれ以下のように用います。
The book is a net price.(その本は掛け値なしの値段だ。)
She is a truthful woman.(彼女は正直な女性である。)
He explained the plan without exaggeration.(彼はその計画を誇張なしで説明した。)
掛け値なしの使い方・例文
最後に、「掛け値なし」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 今回発売された新曲は、掛け値なしにヒットすると思います。
- 彼女の最近の行動からは、掛け値なしの思いやりを感じる。
- あいつのボランティア活動は、掛け値なしに素晴らしいと思う。
- こんなに盛大なお祝いをしてくれて、掛け値なしに嬉しいです。
- 豪華な賞品を頂き、掛け値無しにありがたいと感謝しています。
- お客さん。掛け値なしの値段なので、今がお買い得ですよ。
- 掛け値なしの愛情をもらい、すくすくと育った子供たちである。
「掛け値なし」は、様々な場面で使うことができる慣用句です。ただ、すでに説明した通り現代では「値段」の方の意味で使うことはあまりありません。多くは、「誇張のない」という意味で使います。
そのため、実際に使う際には「本当の」「素直に」「大げさでなく」「お世辞抜きに」などの言葉で言い換えると理解しやすいでしょう。上記の例文だと次のような言い換えです。
- 「大げさでなくヒットすると思う」
- 「本当のやさしさを感じる」
- 「素直に素晴らしいと思う」
- 「お世辞抜きに嬉しいです」
他にも様々な言い換えができるので、類義語と合わせてこの慣用句を覚えておくことをおすすめします。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「掛け値なし」=①「高い値段をつけていないこと」②「物事を誇張して言わないこと」
「語源・由来」=江戸時代の三井越後屋が始めた商売から。「掛け値」とは実際の売値より高くつけた値段を表す。
「類義語」=「嘘のない・誇張のない・お世辞でない・大げさでない・そのままの」
「対義語」=「誇張した・大げさな・お世辞臭い・軽はずみな・嘘の・仮の」
「英語訳」=「net」「truthful」「without exaggeration」
「掛け値なし」という言葉は、表現の幅を広げることができます。この記事をきっかけにぜひ普段の文章でも使ってみてはいかがでしょうか?