「夜の帳が下りる」という慣用句をご存知でしょうか?
小説や歌詞、和歌などにも使われている古くからある言葉です。しかし、実際には使うことも少なく親しみがある言葉だとは言いがたいでしょう。
そこで今回は、「夜の帳が下りる」の意味や使い方、類語・英語などを詳しく解説しました。
夜の帳が下りるの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【夜の帳が下りる(よるのとばりがおりる)】
⇒夜になる。夜になって暗くなるさまを、垂れ絹が下りたことにたとえたもの。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「夜の帳が下りる」は「よるのとばりがおりる」と読みます。
意味は「夜になって、暗くなる様子」を表したものです。単に「夜になる」という現象を表すだけでなく、感情や趣を含んだような使い方をすることが多いです。
例えば、自分の大切な友人と外で楽しく過ごす日があったとします。そして楽しい時間はあっという間に過ぎ、家に着いたのは辺りが暗くなる夕方でした。
さっきまでの楽しかった時間とは対照的に、夜になり暗くなっているという一種の寂しさも感じます。このような場面では、「家に着いたのは、夜の帳が下りる頃だった」などのように用いることがあります。
これが仮に、「家に着いたのは、夜になる頃だった」という文であれば、何も趣のようなものは感じられません。しかし、「夜の帳が下りる」と表現することで、その人の寂しさのような感情も含まれた表現になるということです。
なお、「夜の帳」の使われ方は「下りる」だけではありません。例を挙げますと、「夜の帳に包まれる」「夜の帳に覆われる」などです。言い方は異なりますが、同じように「夜になること」を詩的に表した言葉だと考えて下さい。
夜の帳が下りるの語源・由来
「夜の帳が下りる」の「帳(とばり)」とは、「物を隠すために垂らす布」のことを指します。
周りのすべてが夜の闇に包まれる様子を、「帳」が下りた状態に例えています。辺りが徐々に暗くなり、やがて闇に覆われ見えなくなってしまう景色が、まるで「帳」で物を隠しているようだということです。
また、「帳」には「室内と外を隔てるために垂らす布」という意味もあります。現在で言う「カーテン」のようなものです。
私たちが夜になるとカーテンを閉めるように、昔の人たちも夜になると「帳」を下ろしていました。この「帳を下ろす」という行為が、「夜になったこと」を示しているという考え方もできます。
いずれにせよ、「夜の帳が下りる」は、昼間の明るい光を帳で覆い隠すことによって生まれた言葉ということになります。
夜の帳が下りるの類義語
続いて、「夜の帳が下りる」の類義語をご紹介します。
類義語は基本的に、「太陽が沈んで夜になり始める頃」を表した言葉となります。
古くから日本語には時間を表す言葉が多くあり、その上、細かく繊細に分類されています。一言で「夜」と言っても、日が沈んですぐなのか?夜の深い時間なのか?はたまた明け方に近い夜なのか?など様々です。
微妙な時間の違いを表す類義語が多くあるのは、日本人の豊かな心のたまものだと言えるでしょう。
夜の帳が下りるの対義語
逆に、「対義語」としては次の言葉があります。
対義語は、闇夜の黒とは反対に、あたりが白く明るんでいく様子を表した言葉となります。その他には、「朝になる」「朝を迎える」「夜明けを迎える」なども反対語に含まれます。
夜の帳が下りるの英語訳
「夜の帳」を表す英語には次の二つがあります。
「the shades of night(夜の帳)」
「the cope of night(夜の帳)」
「shade」は「陰・日よけ・薄い暗がり」、「cope」は「マント形の上着・覆うもの」という意味です。このように、「夜の帳」と訳される英語はいくつかあります。
他にも、「夜の帳が下りる」と表現する方法を例文でご紹介します。
Night fell on the village.(村に夜の帳が下りた。)
Darkness came down on the village.(村に夜の帳が下りた。)
前者の「fell」は「fall」の過去形で、「(暗闇などが)やってくる」という意味です。直訳すると、「村に夜がやってきた」となり、夜の帳が下りた様子を表すことができます。
また、後者の「darkness」は「暗闇」、「came down」は「come down」の過去形で「落ちてくる」という意味です。直訳すると、「村に暗闇が落ちてきた」となり、同じく「夜の帳が下りた」と言い換えることができます。
夜の帳が下りるの使い方・例文
最後に、「夜の帳が下りる」の使い方を例文で紹介しておきます。
- とても残念だが、夜の帳が下りる前に帰らなければならない。
- 夜の帳が下りる頃には、子供たちのにぎやかな声も消えていた。
- ようやく引っ越しの準備が終わったのは、夜の帳が下りる頃だった。
- 夜の帳が下りる時、雲の切れ間から光り輝く満月が顔を出し始めた。
- 夜の帳が下りると、この街は徐々に明かりが灯り始める光景となる。
- 読書に夢中になっていたが、ふと顔を上げると外はもう夜の帳が下りていた。
「夜の帳が下りる」は、夜になるという現象の説明だけでなく、感情や趣を感じさせる詩的な慣用句だと説明しました。そのため、小説文や音楽の歌詞などにおいてはよく使われる表現だと言えます。
一方で、ビジネスシーンや日常会話などで耳にすることはありません。絶対に使ってはいけないというわけではありませんが、特にビジネスシーンにおいてロマンチックな言い方は必要ないでしょう。
逆に言えば、普段の会話で耳にしない分、手紙などを書く時に使うと文学作品のような雰囲気が出て効果的かもしれません。
なお、「帳」という言葉は「夜の帳」に限らず使われることがあります。例えば、「紅葉の帳」「白い帳」などの表現です。
「紅葉の帳」は「紅葉に遮られてよく見えない様子」、「白い帳」は「感傷的な気分によって周りが見えなくなる様子」という意味です。「夜の帳」と合わせて覚えておけば、様々な使い方に発展させることができるでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「夜の帳(とばり)が下りる」=夜になって暗くなる様子。
「語源・由来」=夜になり暗くなるさまを、布が物を隠す様子に例えたことから。
「類義語」=「日が暮れる・入相・灯点し頃・宵」
「英語訳」=「the shades of night」「the cope of night」
「夜の帳が下りる」は、感情や趣を内に秘めた言葉です。あえて表に出さずに相手に伝えることで、改めて日本語の奥ゆかしさを感じさせることができるでしょう。