「詩」というのは、内容によって「叙事詩」「叙情詩」「叙景詩」の3つに分けることができます。
どれも中学国語の授業などで聞く言葉です。ただ、実際には意味が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。
そこで今回は、「叙事詩」「叙情詩」「叙景詩」の違いや使い分けを簡単にわかりやすく解説しました。
叙事詩の意味と読み方
まずは「叙事詩」についてです。「叙事詩」は「じょじし」と読みます。
意味は「歴史上の人物や出来事などを書いた詩」のことです。
「叙事詩」の内容は、神話・伝説・事件・英雄の事跡などであることが多いです。
元々、「叙事詩」は古代ギリシャにおける事件や出来事などをテーマとして書かれていました。
現存する世界最古の「叙事詩」は、古代メソポタミアの文学作品である『ギルガメシュ叙事詩』だと言われています。
その後、ホメロスが作った『イリアス』や『オデュッセイア』、ダンテの『神曲』、ミルトンの『失楽園』などで世に大きく広まったという経緯があります。
日本においては、中世の『平家物語』や『太平記』、アイヌ伝説の『ユーカラ』などが「叙事詩」の特徴を持っています。
しかし、学者たちの間では、日本には元々、「叙事詩」と呼ばれる詩は存在しなかったという説も唱えられています。
日本では、「叙事詩」に近い性質を持つ詩は、歴史の流れの中でほぼ全てが小説へと移り変わっていきました。
そのため、現在書かれている詩の中で、「叙事詩」と呼ばれるものはないと言ってもいいです。
叙情詩の意味と読み方
次に、「叙情詩」です。「叙情詩」は「じょじょうし」と読みます。
意味は「作者の心情や思い・メッセージなどが込められた詩」のことです。
「叙情詩」の「情」という字は、「感情」や「心情」の「情」と同じです。
したがって、詩の内容としては、作者の悲しみや喜び、怒り、嫉妬など心の中の感情を表したものとなります。
「叙情詩」の作品としては以下のものが挙げられます。
【叙情詩の例】
東海の 小島の磯の 白砂に
われ泣きぬれて 蟹とたわむる
(読み方:とうかいの こじまのいその しらすなに われなきぬれて かにとたわむる)
出典:『一握の砂』(我を愛する歌)石川啄木
上記の詩は、有名な詩人である「石川啄木(いしかわたくぼく)」が書いたものです。
最初の広い海である「東海」から「小島」⇒「磯」⇒「白砂」と、徐々に対象の範囲が小さくなっていることが分かります。
白砂には蟹(カニ)がいて、作者である啄木は、そのカニと泣きながら戯っているということが伝わってきます。
注目すべきは、「泣きぬれて」という箇所です。
彼は海を自分の人生を切り開いていける大きな場所に例えていますが、そこへ行くのが容易ではないこと、思うようにはいかないことで涙を流しているのかもしれません。
本心は定かではありませんが、この作者から「悲しい」という感情が伝わってくるのは確かです。
このように、作者の思いや心情が込められている作品が、「叙情詩」の大きな特徴だと言えます。
なお、「叙情詩」の有名な詩人としては、他に「中原中也」「三好達治」「高村光太郎」などが挙げられます。
叙景詩の意味と読み方
最後に、「叙景詩」です。「叙景詩」は「じょけいし」と読みます。
意味は「自然の風景などをありのままに描写した詩」のことです。
「叙景詩」の特徴としては、風景や景色がどうであるかということが詳しく書かれている点が挙げられます。
つまり、作者の心情や感情というよりも、風景そのものに焦点を当てた作品ということです。例えば、以下の詩は「叙景詩」だと言えます。
【叙景詩の例】
こほろぎが ないている、 夜ふけの街の 芥箱に。
ひとつ明るい かざり窓、 青い灯に、 博多人形の 泣きぼくろ。
こほろぎが ないている、 街の夜ふけの 芥箱に。
出典:『博多人形』(金子みすゞ)
読んで分かるように、「こおろぎが泣いている夜ふけの街」「ひとつ明るいかざり窓」「青い灯に、博多人形の泣きぼくろ」など風景が所々で登場しています。
作者の心情などは登場していません。このような詩を、「叙景詩」と呼ぶのです。
ただし、風景そのものを表す言葉が登場したからといって、必ずしも「叙景詩」になるというわけではありません。
例えば、以下の詩は風景が描写されながらも作者の心情も含まれたものとなっています。
【叙景詩に見えるがそうでない例】
お宮の池の噴水は
水を吹かなくなりました。
水を吹かない亀の子は
空をみあげてさびしそう
濁った池の水の上
落ち葉がそっと散りました
出典:『噴水の亀』(金子みすゞ)
上記の詩は「御宮ノ池の噴水」「濁った池の水」など風景が書かれていますが、「さびしそう」という文言が含まれています。
また、「噴水にも関わらず水を吹かなくなった」という欠落感や、「濁った」「そっと」などの語句が作品全体の物寂しさを暗に示しています。
したがって、風景などが含まれていますが、実際には作者の心情を明示しているので「叙情詩」になるのです。
このように、一見「叙景詩」に見えても実は「叙情詩」であったということが詩の世界ではよくあります。また、場合によってはどちらの詩か明確に分けることができないようなこともあります。
どんな詩であっても、ある程度の作者の感情が入ってくることは多いです。そのため、詩によっては「叙情詩」と「叙景詩」の区別が曖昧になる場合もあるのです。
叙事詩・叙情詩・叙景詩の違い
以上の事から考えますと、それぞれの違いは次のように定義することができます。
「叙事詩」=歴史上の人物や出来事などを書いた詩。
「叙情詩」=作者の心情や思い・メッセージなどが込められた詩。
「叙景詩」=自然の風景などをありのままに描写した詩。
「叙事詩」は、歴史上の人物や出来事を書いたものなので、内容としては物語形式になることが多いです。
しかし、すでに説明したように物語形式の詩の多くは、日本では小説に変わってしまったので、現在「叙事詩」と呼ばれるものはほぼありません。
そのため、中学国語の参考書などでは「叙事詩は出題されない」と記述しているものもあります。
一方で、この中で一番作品数が多いのが「叙情詩」です。現代詩の多くが「叙情詩」だと言われています。
「叙情詩」は、恋愛などの人間関係、人生における哲学、社会を風刺した作品などとにかく幅が広いです。
そのため、国語の問題などではよく出題されやすいジャンルだと言えます。
作者の心情を書いたものであればそれは全て「叙情詩」となるので、作品としても書きやすい内容なのです。
最後の「叙景詩」は「叙情詩」ほど数は多くありませんが、問題のテーマによっては出題されることもあります。
ただし、「叙情詩」と「叙景詩」の境界が曖昧な詩もあるので、実際にはそこまで出題されるということはありません。
完全な風景だけを書いた純粋な「叙景詩」というのはごく少数だと考えて下さい。
まとめ
以上、今回のまとめとなります。
「叙事詩」=歴史上の人物・出来事を書いた詩。(神話・伝説・事件・英雄の事跡など)
「叙情詩」=作者の心情や思いを書いた詩。(作者の悲しみ・喜び、怒り、嫉妬など)
「叙景詩」=自然の風景などをありのままに描写した詩。(風景そのものに焦点を当てた作品)
「違い」=現代詩の多くが「叙情詩」。「叙事詩」はほぼなく、「叙景詩」も少ない。
現代詩で「叙事詩」と呼ばれるものはほとんどありません。一般には「叙情詩」と「叙景詩」が出題されます。そのため、まずは後者二つの詩を覚えることを推奨します。