「対句法」と呼ばれる技法があります。短歌や俳句などの詩、音楽の歌詞、古典(古文や漢文)など様々な場面で使われているものです。
ただ、実際にはどう使えばよいか分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで本記事では、「対句法」の意味や例文、効果などをなるべく簡単に分かりやすく解説しました。
対句法の意味
まず、「対句法」の意味を辞書で引いてみます。
【対句法(ついくほう)】
⇒修辞法の一。語格・表現形式が同一または類似している二つの句を相対して並べ、対照・強調の効果を与える表現。詩歌・漢詩文などに用いられる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「対句法」とは「表現が同じもしくは似ている2つの句を並べ、対称・強調させる技法」のことです。
簡単に言えば、「同じ言葉や似た言葉を並べて、セットにさせること」だと考えてください。
例えば、以下のような文は「対句法」を使っていると言えます。
① よく食べ、よく寝て、すくすく育った子。
② 魚は水中を泳ぎ、鳥は大空を飛ぶ。
①は「よく食べ」と「よく寝て」が似たような句となっておりお互いが対応しています。
また、②も前半の「魚は水中を泳ぎ」という部分と、後半の「鳥は大空を飛ぶ」という部分が対応しています。
このように、「対になる言葉を用いて、形や意味を対応させる技法」を「対句法」と呼ぶのです。
補足すると、ここで言う「対」とは「反対の意味」を示しているわけではありません。
「対句」というのは「対になっている句」という意味なので、同じ構成で語が並んでいることが重要です。
そのため、対になっている語同士の意味が正反対であったり対称的であったりする必要はないのです。
「対句法」の「対」は、あくまで「お互いがセットになっている」という意味だと考えて下さい。
対句法の例文
「対句法」には、いくつかのパターンがあります。以下に、よく使われるものを5つ紹介しました。
①【自然の景色を表した対句法】
「青い空、白い雲。」
上の例文は、「色」+「もの(景色)」を組み合わせた一文です。
両者を並べることにより、「青い空」と「白い雲」が色鮮やかに見える様子がひしひしと伝わってきます。
これが例えば、「空は青くて、白い雲が浮かんでいる。」だと単なる景色の一文を表したものに過ぎません。
例文のように、似たような句を並べることにより、景色のコントラストさを上手く表現しているのです。
②【ことわざの一部としての対句法】
沈黙は金、雄弁は銀。(ちんもくはきん、ゆうべんはぎん)
このことわざは、「黙っている沈黙の方が、すらすらと話せる雄弁よりも大切である」という意味です。
「沈黙」を「銀」よりも高価な物質である「金」に例えることにより「黙ること」の大切さを説いたものとなっています。
具体的にどこに「対句法」が使われているかというと、「沈黙」と「雄弁」、そして「金」と「銀」です。
前者は正反対同士の言葉、後者は似た意味の言葉同士を組み合わせたものです。
先ほど、「対」は「正反対の意味を表したものではない」と述べましたが、場合によっては反対同士の言葉を対にさせることもあります。
似た意味であろうと反対であろうと、両者がセットになっていれば、それは「対句法」に含まれます。
③【昔話の中で使われた対句法】
例:むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
有名な作品である『桃太郎』の書き出し文です。
「おじいさんは山へ芝刈りに」と「おばあさんは川へ洗濯に」という箇所が一つの「対」となっています。
「誰」が「どこ」で「何」をしたという構造の文をそれぞれセットにして並べています。
このように、2つだけでなく3つ以上の箇所を対応させる技法も「対句法」に含まれるということです。
④【詩の中で使われた対句法】
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ ~
意味:雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けない 丈夫な体を持ち~
上の作品は、宮沢賢治による『雨ニモマケズ』の冒頭部分を抜き出したものです。
「雨ニモマケズ」という箇所と「風ニモマケズ」という箇所が一つのセットになって書かれています。
似たような自然現象である「雨」と「風」を対にすることで、詩にリズムを与え、かつ読者にインパクトも残した表現となっています。
短歌や俳句などを含めた「詩」においても、このように「対句法」は用いられることが多いです。
⑤【平家物語の中の対句法】
沖には平家、舟を一面に並べて見物す。陸には源氏、くつばみを並べてこれを見る。~以下略。
出典:平家物語(作者・成立年ともに未詳)
鎌倉時代に作られた『平家物語』にも「対句法」は使われています。
上の一文は、「平家」と「源氏」の対決の模様を表したものです。
「沖」すなわち「岸から離れた海の上」では、平家が海上一面に舟を並べて見物しています。
一方で、「陸の上」では源氏の方が「馬のくつばみ(手綱をつけるために馬の口にかませる金具)」を連ねて見守っています。
「沖」と「陸」、「船」と「馬」を対にさせることにより、単なる「平家」と「源氏」の対決ではないことが伝わってくるでしょう。
実際に、平家物語の結末としては、ヒーロー的存在として描かれた義経が平家を滅ぼして「めでたしめでたし」では終わらず、兄の頼朝に殺されてしまうという衝撃のラストとなっています。
対句法の効果
「対句法」にはどのような効果があるのでしょうか?以下に主なものを3つ挙げました。
①リズムを整える
「対句法」を上手く使うことにより、「リズムを整える」ことができます。
例えば、以下のような文があったとしましょう。
「空と海は広大だ。まさに自然の賜物である。」
この文自体は普通の文であり、意味・文法ともに何も問題はありません。
しかし、文としては一定のリズムや音階がないため、多少面白みに欠けているとも言えます。
そこで、「対句法」を加えた文にしてみます。
「高い空。深い海。まさに自然の賜物である。」
「高い空」という音数と「深い海」という音数が一致しているため、非常に耳に残りやすい一文だと感じるのではないでしょうか。
一般に、対となる語を2つ以上並べる場合、音数を同じにするのが原則です。そのため、対句によって語調が整えられ、文にリズム感が生まれるのです。
お笑い芸人のリズムネタなどが流行りやすいのも、これと同じ原理だと言えます。
②強調できる
「対句法」によって「強調できる」という効果も生まれます。
例えば、以下のような通常の文章だと、文のどこを強調しているのか分かりにくいです。
「ライオンはシマウマを襲う。これがサバンナである。」
そこで、同じく「対句法」によって文を作り直してみます。
【例】⇒敵を襲うライオン。敵に襲われるシマウマ。これがサバンナである。
「襲う」と「襲われる」、「ライオン」と「シマウマ」という対比により、この文章の言いたいこと、すなわち強調したい部分が分かったかと思います。
「対句法」を使うと、それぞれの似た部分と異なる部分がはっきりと分かります。ゆえに、読者としても筆者が何を強調しているか理解がしやすくなるのです。
③風情を与える
「対句法」は、文章や詩に対して「風情を与える」という効果もあります。
別の言い方をするならば、「趣(おもむき)を含んだ表現になる」と言ってもいいでしょう。
【例】⇒白い砂、青い海、赤い花。ここはまさに絶景である。
上の例文は、色の種類を表す形容詞と自然の産物を表す名詞を組み合わせることにより、文章全体として風情が感じられるものとなっています。
特に、色のコントラストを表す「白」「青」「赤」を対比させているので、色本来の持つ意味が伝わり鮮やかなものとなっています。
このように、「対句法」には文章全体に風情や趣を加え、全体として格式高いイメージを伝えることもできるのです。
もちろん、この場合は対にさせる言葉を慎重に選び、全体として均衡のとれた文にする必要があります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「対句法」=表現が同じもしくは似ている2つの句を並べ、対称・強調させる技法。
「使い方」=「自然の風景や景色・ことわざ・昔話・詩」など。
「効果」=①「リズムを整える」②「強調できる」③「風情を与える」
「対句法」は難しいイメージを持つ人もいますが、実際にはそこまでややこしい技法ではありません。文章を豊かにするためにも、今回覚えたことをぜひ使ってみてください。