「伝統」と「文化」は、どちらも日本の習慣を表す時に使われている言葉です。さらに、似たような言葉で「伝承」も使われているようです。
日本人としてよく使うこれらの言葉ですが、一体どう使い分ければよいのでしょうか?さっそく、確認していきましょう。
伝統の意味
まずは、「伝統」の意味からです。
【伝統(でんとう)】
⇒ある集団・社会において、歴史的に形成・蓄積され、世代をこえて受け継がれた精神的・文化的遺産や慣習。
出典:三省堂 大辞林
「伝統」とは「ある集団や社会において、歴史的に形成され、世代を超えて受け継がれた文化的遺産や慣習」を表します。
簡単に言えば、「世代を超えて歴史的に形成されたもの」のことです。
例えば、「伝統ある和菓子屋」であれば、「100年もの歴史があるお店」「祖父の代から経営しているお店」といった意味になります。
このように、古くから時間をかけて作られ、脈々と受け継がれていくものを「伝統」と言うわけです。
ポイントは「歴史的に長い」という点です。「伝統」は、国や地域、お店など様々な対象に使うことができます。
ただ、いずれも共通しているのは古くから受け継がれて行われている点にあります。
文化の意味
続いて、「文化」の意味です。
【文化(ぶんか)】
⇒学問・芸術・宗教・道徳など、主として精神的活動から生み出されたもの。
出典:三省堂 大辞林
「文化」とは「学問・芸術・宗教・道徳など、精神的な活動から生み出されたもの」を表します。簡単に言うと「人間が作り出した精神的なものすべて」という意味です。
上の例だと、学問や芸術・宗教・道徳などはいずれも具体的な形がありません。このように、目に見えない精神的な創作物のことを「文化」と呼ぶわけです。
ポイントは「文化は精神的活動によって生み出される」という点にあります。
世の中には、形のないものは他にたくさんあります。例えば、「科学・哲学・音楽・占い」といったものです。
ところが、これらの言葉は大昔から存在していたわけではありません。
歴史を振り返っても、人間は頭の中で考えることにより様々なものを作り出してきました。
そして、思考があったからこそ人類は発展してきたとも言えます。この思考こそが文化そのものと言えるわけです。
伝統と文化の違い
ここまでの内容を整理すると、
「伝統」=世代を超えて歴史的に形成されたもの。
「文化」=人間が作り出した精神的なものすべて。
ということでした。
両者の違いを一言で言うと、「文化の中に伝統が含まれる」と定義できます。すなわち、「文化」という大枠の中に「伝統」が入るような形です。
分かりやすい例で説明しますと、私たち日本人は家に上がる時に必ずくつを脱ぎます。これは「伝統」でもあり「文化」でもあります。
なぜなら、世代を超えてずっと守られている慣習だからです。「和」というしきたりは、まさに日本人が生み出した精神的なものだと言えます。
一方で、「SNSの普及」はどうでしょうか?
最近では、Xやフェイスブックなどが当たり前のように使われるようになりました。実はこれらは「伝統」ではなく単なる「文化」です。
なぜなら、SNSは世代を超えるどころか、ここ数十年の間に普及したものだからです。そのため、「SNS」=「文化」なのです。
つまり、「文化」の中には「伝統」があるものもあれば「伝統」がないものもあるということになります。
「文化」はまず最初に、ある特定の地域や集団で生まれます。そして、文化の中でも特に次世代へと引き継がれたものが「伝統」となるのです。
伝承の意味
似たような言葉で、「伝承」があります。
【伝承(でんしょう)】
①(古くからの言い伝え・風習などを)受けついで伝えて行くこと。また、その事柄。
② 伝えきくこと。
出典:三省堂 大辞林
「伝承」とは「古くからの言い伝えや風習などを受け継いで伝えていくこと・またその事柄」という意味です。
「伝承」は、英語だと「folklore」と言います。「folklore」とは「庶民の間で伝わっている文化のこと」です。
例えば、村で行われる祭事のしきたりや風習などが挙げられます。
一方で、「伝統」は歌舞伎や茶道・日本舞踊など国の一つとしての文化を指すことが多いです。つまり、同じ伝えていくものでも「伝承」と「伝統」では文化の種類が微妙に異なることになります。
また、漢字の補足をしておくと、「伝承」の「伝」は「伝える」、「承」も同じく「引き継ぐ・伝える」という意味があります。
すわなち、「伝承」はただ伝えるだけでなく「強い意思を持って次世代へ伝える」という意味が込められていることが分かります。
民間伝承などは、まさに次世代の子供に対して強い意思を持って伝えた文化と言えるでしょう。
もちろん、「伝統」にも「後世へ伝える」という意味はありますが、「伝統」は人々の意思に関係なく自然に残ったものも含まれます。こういった点でも、「伝承」と「伝統」は異なるわけです。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【伝統の使い方】
- ベーゴマは日本の伝統的な遊びの一つである。
- 占いは、中国の伝統によって脈々と受け継がれてきた。
- そろばんを使う伝統は、現代では失われつつある。
- 伝統的な建築技術によって、建てられた家である。
- 伝統を守るためにも、森林伐採は減らすべきだ。
【文化の使い方】
- 漫画やアニメは日本を代表する文化の一つである。
- 戦後に欧米の食文化が入ってきたので、肉料理が増えた。
- 東西文化の交流により、両者の経済は発展していった。
- ダイイングテーブルで食事をするのは、日本の文化となった。
- 「着物を着る」という文化は、現在でも残りつつある。
【伝承の使い方】
- 民間伝承により、神社の祝詞を伝えていく。
- 昔の人は文献などの書物ではなく、伝承に頼っていた。
- 伝承や神話を元に、先住民の舞踊を再現する。
- 名前の由来は、各部族の伝承によるものだった。
すでに説明した通り、伝統と文化は意味が重なる部分もあるということでした。「伝統文化」という言葉もあるように、両者は同じような使い方をすることもあります。
したがって、必ずしも明確な違いが表れるわけではないということも頭に入れておきましょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「伝統」=世代を超えて歴史的に形成されたもの。
「文化」=人間が作り出した精神的なものすべて。
「伝承」=古くからある庶民の文化を伝えること。
「違い」⇒「文化」の中に「伝統」や「伝承」が含まれる。
いずれもよく使われる言葉ですが、意味自体は異なります。場面によってそれぞれを使い分けるようにしてください。