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殿 様 どっち 使い分け 役職 公文書 ビジネスメール

 

「殿」と「様」は、手紙やビジネスメールなどで使われている敬称です。また、公用文や公文書などの公的な文書において使われることもあります。

ただ、この場合にどちらを使えばよいのか?という問題が生じます。そこで今回は、「殿」と「様」の使い分けを、両者の由来なども含め解説しました。

「殿」の意味・由来

 

殿」は、男性が男性の同僚に対して、もしくは目上の者が目下の者に対して使う敬称です。

例えば、「山田太郎殿」「鈴木一郎殿」などのように用います。

殿」は元々、「高貴な人の住む家」という意味を持っており、後にそこに住む人を指すようになりました。

手紙の中で相手への敬称として用いられる「殿」は、平安時代の「摂政・関白の地位にある人」に付けたのが最初だと言われています。

当時の書簡集には、「図書頭殿・頭中納言殿・伊勢守殿」などのように官職名に付けて用いられています。

直接人の名前に付けた例は、鎌倉時代末には見られ、「源平盛衰記」には「熊谷次郎殿」とあります。

それまでは官職名に付けるのが普通であった「殿」を、官職名を持たない人に対して用いた例です。

このように、元々は「高貴な人の家」を指していたものの、次第に「人名」を指すようになった言葉が「殿」ということです。

「様」の意味・由来

 

一方で「」は、地位の上下や男女の区別なく、広く尊敬の意を表す際に使う敬称です。

例えば、「山田太郎様 山田花子様」などのように用います。

敬称としての「様」は、「殿」よりも後の室町時代から見え、江戸時代になるとその用例が多くなりました。

江戸時代の研究書である『貞丈雑記』には、次のような用例が残されています。

是れはただちに公方とはかり云いては、さしつけて憚(はばか)りなる故公方といふなり公方むきと云ふ心なり

出典:『貞丈雑記(ていじょうざっき)』

上記の文は、人を直接指して言うのをはばかり、「方向」の意味を表す「様」を付けて、敬意を表したものです。

また、江戸時代初めのロドリゲス『日本大文典』では、当時敬称として用いられた「殿・様・公・老」を敬意の高さ順に並べています。

順番としては、第一位に「様」、第二位に「公」、第三位に「殿」、第四位に「老」が来ると記されています。

この事から、江戸時代になると「殿」の敬意が低下し、次第に「様」の方が使われるようになったという背景が分かるかと思います。

現在でもこの流れは続いており、一般に相手の氏名に敬称の意を込める際は「様」を使うことが多いです。

「殿」と「様」の使い分け

殿 様 使い分け どちら

 

「殿」と「様」の使い分けは、「目上の人に対して使うかどうか?」という点で考えると分かりやすいです。

殿」は、基本的には目上の人に対しては使いません。例えば、部長や課長などの役職がある目上の人に対して使うのはNGです。

「殿」は同じ役職が付いている人でも、自分よりも目下の者あるいは同じ地位の人などに対して使います。

これは私的な手紙やビジネスメールにおいては、「殿」は「様」よりも敬度が低いものとされているからです。

一方で、「」は目上の人に使うことができます。もちろん、自分よりも目下の人や同じ地位の人も対象とすることができます。

「様」は、一般的な敬称として、地位の上下に関わらず用いることができるのです。

その他、「殿」の方は男性に対して使うことが多いという違いもあります。

男性が女性に対して「殿」と言ったり、女性が女性に「殿」と言ったりするケースは少ないです。

これは「殿」という言葉自体に、時代劇の「殿様」のような男性的なイメージがあるためだと考えられます。

なお、企業によってはそもそも役職名の後ろには「殿」も「様」も付けないとしているところもあるようです。

役職名には敬称が含まれていると考え、後ろには何もつけずにそのまま「○○課長」などのように表記するということです。

この辺のルールは会社によっても異なるため、社内のルールに従うのが無難だと言えます。

公用文ではどちらを使う?

殿 様 公文書 公用文 役所

 

公用文などの公的な性格の強い文書では、事情が異なります。

公用文では、一般に「殿」の方が使われています

元々、公用文や官公庁などの団体、組織関係の文書では、明治以来「殿」の使用が定着していました。

明治時代の『消息文変遷』には、次のような記述が残されています。

一、すべて横字ばかりといふにあらず、役儀に関し、役人より役人へ打合せなどする文には、いかなる目上の人へ対しても、殿の字を用ふ。殿の字書やう、大抵京都将軍の時に同じ。

出典:『消息文変遷』(明治26年)

公的な文書で「殿」の使用が慣用化した理由としては、いくつか挙げられます。

例えば、江戸時代の公家や武家の用語としての「殿」、手紙や証文などの場合に用いられる書類語としての「殿」などの影響といったものです。

しかし、はっきりとした説というのは分かっていません。

明治の後の昭和には、限定的ではあるものの、「殿」ではなく「様」を使うことが推奨されていた時期もあります。

1.「さん」を標準の形とする

2.「さま(様)」は、あらたまった場合の形また慣用語にみられるが、主として手紙のあて名に使う。

将来は、公用文の「殿」も「」に統一されることが望ましい。

出典:国語審議会建議『これからの敬語』昭和27年

ただ、現在においては公用文では一般に「殿」の方が使われています。

昭和55年に改定された『文部省公文書の書式と文例』にも、あて先の敬称には「殿」を使うことが記されています。

現在公用文で「殿」が引き続き使われている理由は、「公と私の区別が明確になる」「官職名や役職名に付けてもおかしくない」などそれなりの理由はあると考えられます。

なお、地方公共団体の中には「様」を用いるようにしているところもあるようです。

例えば、千葉県・神奈川県・静岡県・愛知県などは昭和40年頃から、文書の中の敬称をすべてまたは一部を「殿」ではなく「様」に切り替えています。

その他の団体や組織関係においても、外部の団体や一般個人にあてた文書の場合は、「様」を用いるようにしているところもあります。

まとめ

 

以上、本記事では「殿」と「様」の違いについて解説しました。

殿」=男性が男性の同僚に、もしくは目上の者が目下の者に対して使う敬称

」=地位の上下や男女の区別なく、広く尊敬の意を表す際に使う敬称

使い分け」=「殿」は目上の人には使わず、目下もしくは同じ地位の男性に使う。「」は目上や目下、男女の区別などなく幅広い対象に使う。また、「公用文」では「様」ではなく「殿」の方を用いる。

「殿」と「様」は、公用文や公文書など公的な文書に関しては、原則的に「殿」を用います。一方で、言葉の使い方というのは時代と共に変化していくため、将来的には「様」が標準化される可能性もあります。現時点では「殿」の方が推奨されている敬称ということです。

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国語力アップ.com管理人

大学卒業後、国語の講師・添削員として就職。その後、WEBライターとして独立し、現在は主に言葉の意味について記事を執筆中。 【保有資格】⇒漢字検定1級・英語検定準1級・宅地建物取引士など。

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