国語の文法用語で、「倒置法」と呼ばれるものがあります。普段の文章や日常会話のセリフだけでなく、小説や詩、短歌・俳句など様々な場面で用いられています。
ただ、具体的な使い方が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、「倒置法」の意味や例文、効果などを簡単に分かりやすく解説しました。
倒置法の意味を簡単に
まず、「倒置法」を辞書で引いてみます。
【倒置法(とうちほう)】
⇒文などにおいてその成分をなす語や文節を、普通の順序とは逆にする表現法。語勢を強めたり、語調をととのえたりするために用いられる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「倒置法」とは簡単に言うと「文を普通の順序とは逆にする表現のこと」を意味します。
例えば、以下のような文は「倒置法」を使っていると言えます。
「聞こえるよ、うぐいすの声が。」
通常であれば、「うぐいすの声が、聞こえるよ。」という言い方をします。
ところが、「倒置法」というのはこのような言い方はしません。あえて通常とは逆の順序で文を作るのです。
つまり、逆にすることにより、読む人に対してインパクトを与えるということです。
一般的な文であれば、「主語」→「述語」という順序で書くのが基本ですが、「倒置法」というのはこの「述語」を前に持ってきます。
「私は 勝つよ。」⇒「勝つよ 私は。」
また、「主語」→「目的語」→「述語」のように書く文は、「述語」と「目的語」を入れ替えるだけで「倒置法」になります。
「私は 絶対に 勝つよ。」⇒「私は 勝つよ 絶対に。」
「倒置法」は「倒して置く技法」と書くように、本来後ろにあるべき語句を前に倒して置きます。そのため、「語句を逆にする技法」という意味になるのです。
倒置法の例文
「倒置法」の使い方を、実際の例文で見ていきましょう。
- 進もう、僕たちが理想とする未来へ。
- ついに釣れたよ、今回捕まえたかった魚が。
- 今日はどこへ出かけるつもりなの?彼女は。
- ぜひ対戦してみたいね、チャンピオンである彼と。
- 絶対に決勝まで勝ち上がれよ、おまえたちの力で。
- いつの間にかジャングルに消えていった、一匹のトラが。
「倒置法」は相手に対してセリフを投げかけるような場面で使います。そのため、実際に使う対象としては、小説文や随筆文など文学的な作品が多いです。
逆に、事実を淡々と伝えるような文章ではほとんど使いません。例えば、評論文や新聞記事など客観的な事実を伝える文章では「倒置法」は使わないです。
現代で最も「倒置法」が使われているジャンルとしては、やはり「小説」だと考えて問題ありません。
その他には、「短歌」や「俳句」などの詩に対しても「倒置法」は使われています。
【倒置法を使った俳句】
「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」
読み:「しずかさや いわにしみいる せみのこえ」
訳:「なんて静かなのだろう。岩にしみ入るように蝉が鳴いている。」
「松尾芭蕉」が詠んだ有名な俳句です。
通常の俳句であれば、「蝉の声が」「岩にしみいるように鳴り響く」「なんで静かなのだ。」という順序になります。
しかし、「閑さや」という述語を先頭に、そして「蝉の声」を一番最後に持ってくることにより、本来の順序を逆にしているので「倒置法」と言うことができます。
【倒置法を使った短歌】
「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」
読み:ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは
訳:神の時代にも聞いたことがない。竜田川の水が紅葉であざやかな紅色にくくり染めになるなんて。
平安時代の歌人である、「在原業平(ありわらのなりひら)」が詠んだ有名な短歌です。
まず、「神の時代にも聞いたことがない」というセリフを先頭に持ってきています。
このセリフだけだと、何を聞いたことがないのかがよく分かりません。
そこで、後ろに「龍田川の鮮やかな景色」を物語る文言を持ってくることにより、「倒置法」を上手く用いた表現となっています。
倒置法の効果
「倒置法」には、主に4つの効果があります。
強調する
最も分かりやすいのが、「強調」です。
【例】⇒光っている、星が。
この場合、普通に読み進めると「じゃあ何が光るの?」と聞きたくなります。
そこで、最後に「星が」という語句を持ってくることにより、読者に強い印象を与えることができます。
単に「星が光っている」と言うよりも、「星」という言葉を数倍強めることができるのです。
意外性を与える
「倒置法」は、「意外性」も与えることができます。
【例】⇒カルシウムが豊富だ、カップラーメンは。
普通に考えれば、「カップラーメン」=「栄養があまりない」というイメージではないでしょうか。
ところが、カップ麺は実はカルシウムが豊富な食品として有名です。そのため、「意外性のある食べ物」という意味であえて後ろに持ってくるわけです。
感情を伝える
「倒置法」をうまく使えば、「感情をより伝える」ことができます。
【例】⇒僕は思わず叫んだ。やった!と
普通の言い方だと、「僕は思わず、やった!と叫んだ」などが多いです。
この場合もあえて後ろに持ってくることで、感情を伝わりやすくしています。
感情を伝える場合は、後ろにセリフや発言などが来るのが特徴と言えるでしょう。
リズムを整える
「倒置法」は、「リズムを整える」という効果もあります。これは詩や短歌・俳句などでよく使われる表現です。
【例】⇒金色の 小さき鳥の かたちして いちょう散るなり 夕日の丘に
上記の短歌は与謝野晶子の有名な作品ですが、後半の句を「夕日の丘に いちょう散るなり」としても意味は通じます。
しかし、短歌のリズムを整えるためにあえて順序を逆にしたということです。
別の言い方をするなら、「語調を整える効果がある」ということです。
以上、4つの効果を紹介しました。もちろん、複数の効果が混ざったパターンというのもあります。
したがって、実際には必ずしも一つの効果で固定されるわけでないと考えて下さい。
倒置法の注意点
「倒置法」は、確かに便利な表現ですが、使い方には十分注意する必要があります。
まず、大きく分けて次の2つの点を押さえる必要があります。
- 「事務的な文書では使わない」
- 「使いすぎない・多用しすぎない」
1つ目は、「事務的な文書では使わない」ということです。
「事務的な文書」とは、言わゆる「形式的な文書」という意味です。世の中には、形式的で堅苦しい文書は多くあります。
「新聞・論文・公文書・ビジネス文書」
こういった文書は情報を正確に伝えることが最優先なので、強調や感情などが優先される「倒置法」は原則使いません。
「倒置法」は、作者が一種の遊び心のような気持ちで使う表現です。したがって、本来は小説や詩・短歌・俳句など文学的な作品に使うものだと認識しておきましょう。
そしてもう一つは、「使いすぎない・多用しすぎない」ということです。これは、「文学作品であっても」という意味です。
「倒置法」を使いすぎると、何が言いたいのかよく分からない文となってしまいます。
【悪い例×】
どこに行くのか、あなたは。
ついて行くよ、僕も。
悲しかったが、僕は発言した。
起きろよ、君も。
上の文だと、短い間に「倒置法」が3つも使われています。見て分かるように、非常に読みにくい文章になっていることが分かるでしょう。
「倒置法」は、あくまで単調な文の中に味付けをするものです。料理で例えるなら、塩やしょうゆなどの調味料です。
調味料を入れ過ぎれば、当然読者に対して嫌悪感を与えることになってしまいます。そのため、くれぐれも乱用のしすぎは注意するようにして下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「倒置法」=文を普通の順序とは逆にする表現。
「効果」=「強調・意外性・感情・リズム」の4つ。
「使い方」=小説・詩・短歌・俳句などの文学的な作品に使う。
「注意点」=①事務的な文書では使わない。②使いすぎない・多用しすぎない。
「倒置法」は、うまく使えば文章を引き立てることができます。これを機にぜひ実際の文章でも使って頂ければと思います。