「治外法権」は、中学社会の歴史の教科書で登場する言葉です。特に日本とアメリカの過去の関係性を述べる際に、よく用いられています。
ただ、この言葉は「領事裁判権」との違いが分かりにくいです。そこで今回は「治外法権」の意味や使い方、英語訳などを含め簡単に分かりやすく解説しました。
治外法権の意味
まず、「治外法権」を辞書で引くと次のように書かれています。
【治外法権(ちがいほうけん)】
⇒外国に存在する人や物が、その国の外にあるかのように扱われ、当該外国の管轄権、とりわけ裁判権に服しない権利。
出典:三省堂 大辞林
「治外法権」とは、簡単に言うと「外国人が他国のルールに従わなくていい権利」のことを意味します。
例えば、アメリカ人が日本(他国)に滞在していて、日本人に対して犯罪を犯したとしましょう。
普通であれば、日本国内で起きた事件であれば日本の法律で裁かれることになります。
しかし、もしも「治外法権」を認めれば、日本の法律ではなくアメリカの法律で裁かれることになります。
つまり、「他国(日本)にいながらも、その他国のルールではなく自国(アメリカ)のルールが適用される権利」を「治外法権」と呼ぶのです。
今回は日本とアメリカを例にとりましたが、実際にはこの2つの国とは限りません。
「治外法権」は、「治(おさ)める外に、法律の権利がある」と書きます。言い換えれば、「自国が治めている外に実際の法律の権利がある」ということです。
したがって、自国にも関わらず自国以外の法律が適用される際に「治外法権」を使うことになるのです。
治外法権と領事裁判権の違い
「領事裁判権」とは「外国人が他国の法の支配を受けず、自国領事により裁判を受ける権利」のことです。
「領事」とは「外国にあり、在留自国民の保護に当たる国家機関」のことを指します。
「治外法権」と「領事裁判権」の違いは、「意味の範囲の大きさ」にあります。
「治外法権」はその国の立法・行政・司法の三権に縛られない権利なので、意味の範囲は広いです。
一方で、「領事裁判権」は司法のみに縛られない権利なので、意味の範囲は狭いです。
よって、「領事裁判権は治外法権の一種」ということが言えます。別の言い方をするなら、「治外法権の中に領事裁判権が含まれる」ということです。
ここでもう少し「領事裁判権」について掘り下げてみましょう。
実は「領事裁判権」という言葉は今は撤廃されています。意外に思うかもしれませんが、現在ではもう廃止されている権利なのです。
元々、「領事裁判権」は19世紀にヨーロッパ諸国が、司法制度の確立していないアジア諸国などで行いました。
しかし、現在では適用している国はいないのです。理由については簡単で、「外国人の犯罪が多発したから」です。
日本でも昔は、そのような事例がありました。日本では、江戸時代末期に鎖国が終了した後、「日米修好通商条約」が結ばれます。
これは、アメリカが日本と交易をするために日本と締結した条約です。しかし、この条約こそが「不平等条約」と呼ばれることになります。
「日米修好通商条約」では、「領事裁判権」が認められていました。「領事裁判権」を認めたことにより、外国人が日本で罪を犯しても黙殺されるといった事態が発生するようになったのです。
その後、明治時代になり、伊藤博文が総理になると、「陸奥宗光(むつむねみつ)」という人物が外務大臣に任命されます。
彼はイギリスと日英通商航海条約を結ぶことに成功し、「領事裁判権」が撤廃されることになります。
そして21世紀現在においては、「領事裁判権」を認めている国は存在していないのです。
治外法権の類義語
続いて、「治外法権」の類義語を紹介します。
政治的な用語としての「治外法権」の類義語は存在しませんが、比喩として使う場合はいくつか存在します。
「治外法権」はすでに説明したように、「法権が触れられないところ」という意味があります。
したがって、そこから転じて「触れられない問題や領域・禁忌」といった言葉が類義語となります。
治外法権の英語訳
「治外法権」は、英語だと次の2つの言い方があります。
「Extraterritorial right」
「Extraterritoriality」
「Extra」は「外」、「territorial」は「領土、地域」、「right」は「権利」をそれぞれ意味しています。例文だと、以下のようになります。
”Extraterritoriality“ and ”consular jurisdiction” are often confused.(治外法権と領事裁判権はしばし混同される。)
「領事裁判権」は英語だと「consular jurisdiction」と言います。
「consular 」は「領事の・執政の」、「jurisdiction」は「裁判権・司法権」などの意味です。
治外法権の使い方・例文
最後に、「治外法権」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
- 在日米軍における治外法権の撤廃については、今も議論されている。
- 外国人が居住国でその国のルールに従わなくてよい権利を治外法権と呼ぶ。
- 治外法権とはいえ、本国でも罪に問われることならば本国の法律で罰せられる。
- あの人が管理している部署は、だいたい治外法権のような有様になることが多い。
- いじめ問題の対応は各県の教育委員会に委ねられており、一種の治外法権と化している。
- 本来、在日米軍は治外法権の地位にないが、日米地位協定によってその地位を付与された。
- 彼の会社は治外法権と言わんばかりに労働基準法を無視した働かせ方をしている。
「治外法権」は「他国にいながらも、他国のルールではなく自国のルールが適用される権利」という意味でした。
しかし、実際の使われ方としては、そこから派生して「通常の規定が及ばない領域」という意味で使うことも多いです。
もっと簡単に言えば、「この場所では、通常のルールが使えない」ということです。
元々の意味が「他国の法律に服さなくていい権利」なので、日常で使う場合も主に批判的な意味として使われます。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「治外法権」=外国人が他国のルールに従わなくていい権利。
「領事裁判権」=外国人が他国の法の支配を受けず、自国領事により裁判を受ける権利。
「違い」=「治外法権」は立法・行政・司法の三権に縛られない権利を指し、「領事裁判権」は司法のみに縛られない権利を指す。
「類義語」=「アンタッチャブル・聖域・タブー・神聖不可侵」など。
「英語訳」=「Extraterritorial right」「Extraterritoriality」
「治外法権」は、過去の日本の歴史を学ぶと頭に入ってきやすい言葉です。これを機にぜひ正しい意味を理解して頂ければと思います。