「他界」という言葉は、親族の死などに対して使われることが多いです。主に、「祖母が他界しました。」「友人が他界しました。」などのように用います。
ところが、似たような使い方で「逝去」や「死去」、「永眠」などもあるため違いが分かりにくいです。そこで今回は、「他界」の意味や使い方、類義語などを含め詳しく解説しました。
他界の意味
まず、「他界」の意味を辞書で引くと次のように書かれています。
【他界(たかい)】
①自分が属さない世界。よその世界。
②死後の世界。あの世。来世。また、夢や忘我状態のときに魂がさまよう所。
③死ぬことを婉曲にいう語。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「他界」は、一般的に③の意味で使うことがほとんどです。すなわち、「死ぬことを婉曲的に表現した語」です。
「婉曲(えんきょく)」とは「物事をはっきり言わずに遠回しに言うこと」を意味します。
「死ぬ」とか「死亡」などと言うと、何となく残酷でひどい言い方に聞こえてしまいます。まして、人が亡くなるということは身内の人にとってもデリケートで深刻な状況だと言えます。
そこで、あからさまに死を表現するのではなく、「〇〇が他界した」などと言うわけです。
元々、「他界」という言葉は仏教を由来として広まりました。仏教では、「死ぬこと」=「違う世界に行くこと」だと信じられています。
よく映画や漫画の世界などで、死んだ人があの世へ行くようなシーンを見るかと思います。頭の上に輪っかを付けた状態で、閻魔様に出会ったり、ヘビの道を歩いたりなどといったことです。
あれはまさに現世とは異なる世界にいることを表した象徴的なシーンだと言えるでしょう。つまり、「他界」とは「他の世界(あの世)に行くこと」を文字通り簡潔に表した言葉ということになります。
他界の敬語表現
「他界」を敬語表現として使うにはどうすればいいでしょうか?
まず、「他界」という言葉自体に「死」を露骨に表さないというある種の配慮的な意味が含まれています。
したがって、普通に使う分には「他界しました」などで構いません。後は状況に応じて「他界いたしました」などと丁寧に言ってもよいでしょう。
ただし、自分の身内ではなく他人の死に使う場合は注意が必要です。この場合は「他界なさる」「他界なさりました」などと言うようにします。
相手に対して「他界」を使う場合は、その人に対して敬意を込めなければいけません。そのため、この場合は尊敬語を使うのです。
他界と逝去の違い
「他界」とよく似た言葉で「逝去(せいきょ)」があります。「逝去」とは「他人の死を尊敬を込めて表した言葉」です。
意味としては、「他界なさる」「他界なさりました」などとほとんど同じなので、混同する人も多いかと思いますが、実際は両者は使い方が異なります。
まず、「他界」は「身内の死」と「他人の死」の両方に対して使うことができます。一方で、「逝去」は他人の死には使えますが、身内の死には使うことができません。
これはなぜかと言いますと、「逝去」にはこの言葉自体に尊敬の意味が強く込められているからです。身内の死に対して「尊敬」を込めるというのは何だかおかしな話ですよね。それを周りに発表するのはもっとおかしな話です。
「逝去」というのはあくまで他人を敬った言葉だと認識しておいてください、
なお、先ほども説明した通り「他界」は元々、仏教用語から来ていますので、仏教以外の宗派(キリスト教など)には使わない方がよいでしょう。
もしも身の回りで厳格なクリスチャンの方が亡くなられた場合などは「逝去」の方を使うのが無難です。
他界の類義語
「他界」に似た言葉は、他にも多くあります。以下は代表的な類義語となります。
「死去」
「死去(しきょ)」とは「人が亡くなる」という意味です。これは文字通り「死んで去る」と書くので分かりやすいかと思います。
「死去」も「他界」と同じく身内にも他人にも使える言葉ですが、「死去」には仏教的な要素は含まれません。そのため、あくまで死んだことへの明確な事実のみを伝えるような時に使います。
「死亡」
「死亡(しぼう)」にも「人が亡くなる」という意味があります。
ただし、「死亡」の場合は事件や事故・犯罪的な要素などが含まれときに使われます。普段の病気などで亡くなったときは、基本的にこの言葉は使いません。
「永眠」
「永眠(えいみん)」にも「人が亡くなる」という意味があります。これは「永く眠る」、つまり「永遠の眠り」と書くことからも分かるでしょう。
「永眠」は、元々キリスト教を由来とします。キリスト教では、「死」という概念は、違う世界へ行くことよりも永い眠りにつくことと信じられています。
そのため、仏教由来の「他界」と区別して日本では「永眠」も使われる場合があります。
「亡くなる」
「亡くなる」も、「人の死」を表す代表的な言葉です。最も簡易的な言い方なので、日常会話からビジネスまで幅広く使われています。
ただし、「亡くなる」の場合は身内に対してしか使うことができないので注意が必要です。他人に対して使うような場合は、「お亡くなりになる」「亡くなられる」などのように尊敬語にするようにしましょう。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【他界の使い方】
- 社長は2日前に他界なされました。82歳でした。
- ずっとがんと闘病中だった兄ですが、本日、他界しました。
- 祖母が昨年暮れに他界しましたことを、この場で発表させて頂きます。
【逝去の使い方】
- 山田様のご逝去、心よりお悔やみ申し上げます。
- 社長のご逝去に際し、私共も惜別の念を禁じ得ません。
- 御尊父様ご逝去された由、お悔やみ申し上げます。
【死去の使い方】
- 2歳年下の弟は、先月上旬に死去いたしました。
- 長年一緒に生活していた妻が、昨日死去いたしました。
- がんと闘っていた叔父ですが、本日、残念ながら死去いたしました。
【死亡の使い方】
- 交差点の衝突事故により、2人が死亡しました。
- 強盗犯の銃撃により、計10人が死亡する悲惨な事件だった。
- 今回の事件の死体は、死亡後約2時間が経っていると思われる。
【永眠の使い方】
- イエスキリストは十字架に処刑後、まもなく永眠した。
- 愛犬のポチが、昨日永眠しました。15歳でした。
- 彼は昨年8月に永眠し、帰らぬ人となってしまった。
【亡くなるの使い方】
- 長年付き添ってきた母が、本日亡くなりました。
- 亡くなる数日前から、夫は子供のことを心配していました。
- 先生がお亡くなりになったと聞き、大変驚いています。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「他界」=死ぬことを遠回しに表現した語。仏教で「違う世界へ行くこと」が由来。
「逝去」=他人の死を尊敬を込めて表した言葉。
【両者の違い】⇒「他界」は「身内」と「他人」の両方の死に使えるが、「逝去」は他人の死にしか使えない。
「類義語」=「死去・死亡・永眠・亡くなる」など。
英語では「死」は「death」という単語しかありません。ところが、日本語では数多くの「死」を表す言葉があります。この記事をきっかけに、ぜひ多種多様な「死」を表す言葉を理解して頂ければと思います。