「しゅんこう」という言葉は、工事などを完成させる際に使うものです。特に、建築業界では「竣工式」「竣功図」などの名称で用いられています。
ただ、この場合に「竣工」と「竣功」のどちらを使えばよいのかという問題が生じます。そこで本記事では、「竣工」と「竣功」の違いについて詳しく解説しました。
竣功と竣工の意味
まず最初に、この言葉を辞書で引いてみます。
【竣工/竣功(しゅんこう)】
⇒建築工事や土木工事が終了すること。落成。「新社屋が―する」「―式」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「竣工」と「竣功」は、現在の辞書だと一つに統一されています。
意味は、どちらも「建築や土木の工事が終了すること」です。使い方としては、「竣工式」「竣功する」などのように用います。
その他の辞書を確認してみても「竣工・竣功」などと統一して表記されています。したがって、辞書の表記に従うならばどちらも意味に変わりはないということになります。
ただ、辞書の暗黙的なルールとして、一般に複数の表記が並列する場合、先頭の漢字の方を優先的に使うというものがあります。
ゆえに、このルールに従うならば「竣工」の方を使うのが原則となります。
過去の辞典での比較
両者の違いについては、まだ疑問がはっきりしていません。そこで、明治以前から現在に至るまでの数多くの辞典ではどうなっていたのかを調べました。
①「しゅんこう」自体を立項していないもの・・・・・6種
②一つの見出しで「竣工・竣功」としているもの・・・25種
③一つの見出しで「竣功・竣工」としているもの・・・18種
④一つの見出しで「竣功」としているもの・・・・・・14種(内、「竣工」の形を語釈に掲げたものは5種)
⑤一つの見出しで「竣工」としているもの・・・・・・5種
⑥「竣工」と「竣功」を別見出しで立てているもの・・1種
⑦「竣功」を参照見出しとしているもの・・・・・・・1種
過去の辞典において、最も多いのが②の先頭に「竣工」を記したものです。
しかし、「竣功」の方もそこまで少ないというわけではありません。③のように「竣功」が優先的に表記されたり、④のように「竣功」のみが表記されたりしているものもあります。
また、⑥の項目では「竣功」は「仕事のできあがること・できあがり・竣工」と記されているに対し、「竣工」は「工事のできあがること。落成。竣功。」とも記されています。
この内容に従うならば、「仕事」に対しては「竣功」を使い、工事に対しては「竣工」を使うのが望ましいということになります。ただ、その他の辞典においてはこのような使い分けに言及しているものはありません。
次に、同系統の辞典で改訂版・新版・第二版などの辞典を見てみると、辞典Aでは語釈中に「竣工」の形は示していますが、漢字表記としては「竣功」とあります。
また、大正・昭和の版では「竣功・竣工」の順だったのが「竣工・竣功」の順になっており、最新の版(昭和58)では「竣工」のみとなっています。
さらに、辞典Bでは、昭和10年から昭和51年までの6種の版で「竣功・竣工」の順だったものが、昭和58年の版では「竣工・竣功」に改まっています。
つまり、戦後新たに刊行されたものでは「竣工・竣功」の順、「竣功・竣工」の順のどちらもがあるが、比較的新しいものは「竣工・竣功」の傾向にあるということです。
「竣工」か「竣功」か?
以上の解説を踏まえますと、「しゅんこう」という言葉は元々は辞典において「竣功」と表記されていたということが分かります。
ところが、時代が進むにつれて実際には「竣工」の方が使われるようになったということです。
「竣工」が使われ出す前は、「竣功」と表記されたり両者が併記されるような辞典が多くありました。そのため、現在でもその名残があり最新の辞書ではどちらも表記されているということです。
最近の実例だと、昭和の後期あたりには「竣工」の用例が確認されています。
7月1日、新社屋竣工・・・(Z社・昭和61年6月)
新本社ビルを建設中のところこのほど竣工の運びと・・・Y社(昭和55年4月)
本社社屋建設につきましては皆様のご理解のもと無事竣工いたし・・・X社(昭和54年6月)
また、明治時代の新聞広告などにはすでに「竣工」が用いられているものもあります。
このように、両者の使い分けは時系列で比較してみても詳細が不明な部分が多く、具体的な使い分けの基準というものがありません。よって、「どちらを使えばよいか?」という答えを出せないのです。
ただ、一般には「竣工」の方が優先的に使われる傾向にあります。
これは一つに、辞書だと「竣工」が先頭に記されているという理由が挙げられます。そしてもう一つは、「竣工」の方が「工事」の「工」と同じ漢字であるためです。
「竣功」の「功」は「功績」の「功」と同じ漢字ですが、この漢字自体には建物や道路を工事するような意味は含まれていません。そのため、現在においては慣用的に「竣工」の方が使われているのだと推測されます。
公用文での使い分け
「公用文」に関しては、「竣工」と「竣功」のどちらも使うことはできません。
これは、両者に共通する「竣」という字が、常用漢字に含まれていないためです。
「常用漢字」とは「国が一般国民に対して示した漢字使用の目安」のことです。義務教育が終わる中学卒業までに習う漢字はすべてこの常用漢字に含まれ、公用文などは原則として常用漢字のみを扱います。
要するに、「俊」は難しい漢字なので国が使うことを推奨していないということです。そのため、公用文では「俊」という字は使用できないのです。
もしも「しゅんこう」を漢字で書くならば、「しゅん工」もしくは「しゅん功」と表記するのが正解ということになります。あるいは、「落成」「完工」「完成」などの語で言い換えても構いません。
いずれの語も「竣工」と同じ意味なので、必ずしも「しゅんこう」を使う必要はないということです。
その他、新聞や雑誌などの報道業界でも「しゅん工」と表記することが多いです。
報道業界も一般に常用漢字を優先して使う傾向にあります。例えば、『大阪毎日新聞スタイルブック』(昭8)だと、「竣工を用いない」と表記されています。
これは読み書きの世界である報道業界において、読みやすさや簡潔さの方を重視しているからだと思われます。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「竣工・竣功」=建築や土木の工事が終了すること。
「違い」=意味自体に違いはない。古くは「竣功」だったが、近年では「竣工」を使う傾向にある。
「使い分け」=公用文・報道業界などでは、「しゅん工」もしくは「しゅん功」と表記する。
現在では「竣工」の方が多く使われていますが、私たちが一般に使う際にはどちらを使っても問題ありません。ただ、公用文などについては「竣」はひらがなで書くようにして下さい。