「所用」と「所要」は、どちらもビジネスシーンでよく見る言葉です。さらに、似たような言葉で「諸用」や「私用」が使われることもあります。
これらの言葉はどう使い分ければいいのでしょうか?今回は「所用」と「所要」の違い、さらに「諸用」と「私用」についても解説しました。
所用の意味
まずは、「所用」の意味からです。
【所用(しょよう)】
①用いること。用いるもの。
②用事。用件。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「所用」とは「用事や用件のこと」を意味します。「用事」や「用件」とは、簡単に言うと「しなければいけないこと」だと考えて下さい。
例えば、ビジネスで取引先との商談や打ち合わせがあるとしたら、「所用があるので外出します。」などのように言います。また、家庭の事情や法事などで会社を休まなければいけないとしたら、「所用のために欠勤します。」などのように言います。
つまり「所用」とは、何かしなければいけないことを相手に伝えるような際に用いる言葉ということです。
ところで、辞書の説明だと「所用」は①「用いること。用いるもの。」という意味も書かれています。この場合は、「所用する機材をチェックする。」のように使います。
ただ、一般的には②の意味として使われることがほとんどです。したがって、「所用」=「用事・用件」と覚えても問題ありません。
所要の意味
次に、「所要」の意味です。
【所要(しょよう)】
⇒あることをするのに必要とすること。必要とされるもの。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「所要」とは「必要とすること・必要なもの」という意味です。
例えば、A地点からB地点まで行くのに必要な時間が5時間であれば、「所要時間は5時間です」などのように言います。また、仕事で必要な経費を計算して2万円だったとしたら、「所要経費は2万円です」などのように言います。
「所要」は、一般に時間や金銭などに対して使われることが多いです。最もよく使われるのが、物事を行うのに必要な時間やお金を指すような時です。
また、場合によっては「所要の手続をとりましょう。」などのように用いることもあります。言いかえれば、「必要な手続をとる」ということです。
このように、「必要」という言葉にも置き換えられるのが「所要」ということになります。
所用と所要の違い
ここまでの内容を整理すると、
「所用」=用事や用件。「所要」=必要とすること。必要なもの。
ということでした。
比較すると分かるように、両者は全く意味の異なる言葉です。
まず、「所用」は具体的な用事がないと使えないため、何かすべき仕事があって初めて使われる言葉だと言えます。
一方で、「所要」の方は用事の有無は関係ありません。つまり、「所要」は時間やお金・手続きなど必要な対象であれば基本的に使うことができるのです。
このように比較すると、両者の文法的な使い方も微妙に異なってきます。
「所用」の方は、「所用〇〇」のように後ろに名詞がつくことはありません。これは、「用事〇〇」という言葉がないのと同じです。
対して、「所要」の方はこの言葉自体で「必要(な)」という意味が含まれています。したがって、こちらは「所要〇〇」という使い方をすることも可能となります。
まとめると、
「所用」=何かすべき仕事があって初めて使える。「所用〇〇とは言わない。」
「所要」=必要な対象であれば全て使える。「所要〇〇とも言う。」
となります。
補足すると、「所用」は敬語ではありません。「所用」は目上の人によく使うので何となく敬語というイメージがありますが、実際は単なる「用事」を表した言葉です。
「所用」に関してはあくまで、改まった場面で使える丁寧な言葉と認識しておきましょう。
諸用の意味
続いて、「所用」の意味です。
【諸用(しょよう)】
⇒いくつかの用事。
出典:実用日本語表現辞典
「諸用」とは「いくつかの用事」を表した言葉です。
「諸用」は用事の中でも複数の用事を指すような時に使います。例えば、「諸用のため、彼は不在です。」などのように言えば、「契約や会議、打ち合わせなど複数の仕事があるので彼が不在である」という意味になります。
「諸」という字は、「諸君」「諸国」などがあるように「もろもろの」というのが本来の意味です。転じて、「様々な種類の用事」という意味になるわけです。
ただ、「諸用」に関しては一般的にほとんど使われません。多くの場合、「諸用」は「所用」に代替されることがほとんどです。なぜなら、わざわざ「複数の用事」と言わなくても単に「用事(所用)」と言えば相手に伝わるからです。
また、辞書によっては「そもそも諸用を掲載していない」というケースもあります。したがって、「諸用」は原則として使わずに「所用」を使うと覚えておいて問題ありません。
私用の意味
続いて、「私用」の意味です。
【私用(しよう)】
①私事に用いること。「社用封筒を―する」「―電話」⇔公用。
②自分個人の用事。私事。「―で早退する」⇔公用。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「私用」とは「自分個人の用事・私事」という意味です。簡単に言うと「プライベートな用事」を指した言葉となります。
例えば、会社の経費と個人の経費を区別するような時に「私用分の経費」のように言います。あるいは、有給休暇で個人的な旅行に行き、会社を休む場合などにも「私用で休む」などのように使います。
「所用」はどんな用事にも使うことができますが、「私用」はあくまで個人の用事限定です。したがって、ビジネスでは「プライベート」という意味を強調したい時以外は基本的に「所用」を使うようにしましょう。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【所用の使い方】
- 明日は所用のため、会社を休む予定です。
- 何か所用があってお出かけでしょうか?
- 所用があって出かけるのでよろしく頼みます。
- 所用を済ませてから、次の仕事に行きなさい。
- 所用があって、東京からあなたに会いに来ました。
【所要の使い方】
- 近いので所要時間は一時間もかからないだろう。
- 所要経費を調達しに、明日向かう予定です。
- 所要の材料は、全てそろえてから始めてください。
- 最低限の所要額は、10万円と言われています。
- 面倒ですが、所要の手続きなので我慢しましょう。
- 諸用があるため、彼は来れないと聞きました。
- 諸用のため、明日の会議は欠席させて頂きます。
- 申しわけありませんが、諸用のため出席できません。
- 風邪などではなく、私用で学校を休む予定です。
- 私用分の経費は別々に分けるようにして下さい。
- 明日は私用で早退する予定なのでよろしくお願いします。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「所用」=用事や用件。
「所要」=必要とすること。必要なもの。
「諸用」=いくつかの用事。(※原則として「所用」を使う)
「私用」=自分個人の用事。私事。
ポイントは、両者の語源を覚えておくことです。「所用の用」は「用事の用」で、「所要の要」は「必要の要」。このように覚えておけば、違いを忘れにくいでしょう。