「食指が動く」という慣用句をご存知でしょうか?
中国の故事成語から来たもので、現在では日本においても幅広く使われています。ただ、そもそも「食指」とはどの指なのか?といった疑問があります。
また、似たような語で「食指が伸びる」「食指がそそられる」などがあるため、これらとの違いも気になる所です。
本記事では、「食指が動く」の意味や語源、使い方、英語などを含め詳しく解説しました。
食指が動くの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【食指が動く(しょくしがうごく)】
⇒食欲が起こる。転じて、ある物事に対し欲望や興味が生じる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「食指が動く」は「しょくしがうごく」と読みます。
意味は「食欲が起こる・欲望や興味が生じる」などの様子を表したものです。
例えば、おいしそうな料理に目がくらみ、食欲が起こる人がいた場合や、儲かりそうな話に食いついて乗っかる人などがいれば、「食指が動く」と言います。
他には、新しい映画に興味を示し、早くみたいとワクワクしているような人も「食指が動く」と言ったりします。
「食指が動く」とはこのように、欲に目が行ったり興味が湧いたりするさまを表した慣用句ということです。
この慣用句は「食べる」という字の「食」が入っているので、食欲に対してしか使われないと思うかもしれません。しかしながら、実際には食欲以外の幅広い対象に対して使われます。
食指が動くの語源・由来
「食指が動く」の「食指」は、中国語で「人差し指」のことを表します。その理由は、食べ物をつかむときに必ず使う指だからだそうです。
食べものを指でつかむ際、「人差し指」を使わないというわけにはいきません。この事から、「人差し指」⇒「食べる指」⇒「食指」と呼ぶようになったわけです。
では、その人差し指が動くとは、一体どういうことなのでしょうか?
ここからの話は春秋時代にさかのぼります。春秋時代とは紀元前700年頃の中国における時代のことです。
当時、『春秋』の注釈書である『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』と呼ばれる書物がありました。その中の一部に、次のような故事が書かれています。
昔々、楚国(そこく)の人が、「鄭(てい)」という国の「霊公(れいこう)」という人にスッポンを献上した。
ちょうどその時、「子公(しこう)」と「子家(しか)」が「霊公」の屋敷を訪れようとしていた。その時、子公の人差し指がぴくりと動いたので、子公は子家にそれを示してこう言った。
「私の人差し指がこうなる時は必ずごちそうにありつけるんだ!」
二人が霊公の屋敷に入ると、なんと料理人がちょうどスッポンをさばいているところだった。※「子公(しこう)」とは霊公の家臣の一人を意味する。
簡単に説明すると、このような話です。
子公の人差し指がぴくりと動いたのは、ごちそうにありつける前兆を感じたからです。実際にその前兆は当たっていたことになります。
ここで大事なのは、前兆を感じたというのは言い換えれば「欲望や興味がわいた」ということです。したがって、人差し指が動くことを「欲望や興味がわく」という意味で「食指が動く」と言うようになったわけです。
現在日本で使われている「食指が動く」は、この春秋時代の故事が由来となっています。
食指が動くの誤用は?
「食指が動く」は、誤った使い方をする人が非常に多いことで有名です。
例えば、よく間違われるものとして「食指をそそられる」があります。
文化庁が発表したH23年度「国語に関する世論調査」によると、間違った使い方である「食指をそそられる」を使った人が全体の31.4%もいたそうです。
これはおそらく「食欲をそそられる」と混同している人が多いからだと思われます。実に世の中の三人に一人は間違えていることになりますので注意しましょう。
なお、「食指が伸びる」も誤った使い方です。腕を伸ばすことから来た表現なのか、それとも「触手を伸ばす」と混同したのかは分かりませんが、いずれにせよこのような慣用句は存在しません。間違って使わないように注意してください。
ただ、「触手を伸ばす」は実際にある慣用句です。
「触手を伸ばす」とは「欲しいものを得ようとして働きかけること」を意味する表現です。使い方としては、「インターネットビジネスに触手を伸ばす」などのように用います。
これらの間違えはしっかりと整理しておきましょう。
- 食指が動く→〇
食指をそそられる→×食指が伸びる→×- 触手を伸ばす⇒〇
食指が動くの類義語
続いて、「食指が動く」の類義語を紹介します。
- 欲が湧く
- 興味が湧く
- 意欲が湧く
- 求める
- 欲しがる
- 欲しくなる
- 欲をかく
- 色気が出る
- 購買意欲が湧く
- 自分のものにしたくなる
「食指が動く」を言い換えた語はいくつかありますが、同義語というのはありません。
基本的には慣用句としての類義語はなく、「欲」や「興味」が湧くような言葉となります。そこから派生して、「何かを買いたくなったりする様子」を表す言葉も類義語と呼べるでしょう。
逆に、対義語としては「無欲」「無関心」「平常心」などが挙げられます。これらの言葉は、物事に対して欲や興味などの反応を示さない様子を表した言葉です。
食指が動くの英語訳
「食指が動く」は、英語だと次のように言います。
「make me curious(興味が湧く)」
「make me hungry(食欲が湧く)」
「make」には「~させる」という意味があります。その後ろに「curious(興味がある)」や「hungry(お腹がすいた)」などの形容詞を持ってくることで、興味や食欲がわくことを表すことができます。
遠回しな言い方かもしれませんが、英語では欲や興味を表現したい時はこのように用います。例文だと、次のような言い方です。
The incidents made me curious.(その事件は私に興味を抱かせた。)
You’re making me hungry.(あなたのおかげでお腹が減って来たよ。)
食指が動くの使い方・例文
最後に、「食指が動く」の使い方を例文で紹介しておきます。
- おいしそうなハンバーグを見て、思わず食指が動く感覚に襲われた。
- あまりに良い投資物件を見つけたので、投資家の彼は食指が動いたようだ。
- かっこよくておしゃれな洋服が目に入ったため、彼女はつい食指が動いた。
- 今回発表された新しい企画は素晴らしいね。食指が動くほどワクワクするよ。
- あのプラモデルは今半額なんだって?それは思わず食指が動くようなことだね。
- 興味のなかった映画だが、随分と流行っているので私も食指が動くことになった。
- 転職先を紹介されたが、残念ながらあまり食指が動くような案件ではなかった。
「食指が動く」は、欲望や興味の対象であれば基本的に何に対しても使える慣用句です。
食べ物はもちろんのこと、服や商品などのモノ、転職先などの仕事、不動産などあらゆる対象に使えます。あるものが欲しくなったりしてみたくなったりすることであれば、それは食指が動く対象となり得ます。
そういう意味では、「食指が動く」は非常に便利で汎用性がある慣用句だと言えます。日々の生活の上で、「欲しい」「買いたい」などと感じた時に使うようにしてください。
ただし、前述したように間違った使い方をする人が非常に多い慣用句ですので、その点だけは注意する必要があります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「食指が動く」=食欲が起こること・欲望や興味が生じること。
「語源・由来」=子公の食指(人差し指)がぴくりと動き、ごちそうにありつける前兆を感じたことから。
「誤用」=「食指をそそられる・食指が伸びる」
「類義語」=「欲が湧く・興味が湧く・求める・欲しがる・購買意欲が湧く」など。
「英語訳」=「make me curious」「make me hungry」
「食指が動く」は中国の故事を由来とする慣用句です。この記事をきっかけにぜひ正しい使い方をして頂ければと思います。