『スペインタイルの家』は、高校現代文で学ぶ小説です。学校の教科書にもよく採用されています。
ただ、本文を読み進めると主人公の心情の変化などが分かりにくい箇所もあります。そこで今回は、『スペインタイルの家』のあらすじやテスト対策、学習の手引きなどをわかりやすく解説しました。
『スペインタイルの家』のあらすじ
『スペインタイルの家』は、行空きによって5つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①尾道俊男は、お気に入りの家の前を通ることを日課としている。広い木製デッキと外国製のタイルをあしらった玄関周りの意匠が、彼の興味を引いた。この家を目に収めるだけで、その日一日がどことなく穏やかに転じるように思っていた。
②現場でタイル屋と一緒になった折、そのタイルがスペイン製のものであることを教えられた。住人である初老の婦人を見ると、なおその暮らしが魅惑的に思われ、仕事の経験と勘から家の間取りを想像した。妻の祐子は、散歩先の鳩森八幡の富士塚の頂上を自分の足場として確認するのを重んじていた。時折、妻と一緒にあの家の前を通るが、彼女は家が気にならない様子で、そちらに目を向けることもなかった。
③二月も終わりに近い日、俊男は初老の婦人とは別の住人を目にした。その女の人は、北側の部屋の窓辺にある椅子に座ってたばこをふかし、書類らしきものに目を通していた。俊男は上品で知的なその家の暮らしを想像した。自分がその家に居候をしている様子を空想し、思わず「肩身の狭い思いをするのがオチだな」とうっかり声に出して言ってしまった。祐子はそれを聞き、存外うまくやっていくわ、あなたにはソンザイカンがあるもの、と言った。
④しばらく忙しい日が続いたが、仕事の合間に家のことを思い出して穏やかな気持ちになった。ある夜、例の女の人がきちっとした格好で通り過ぎるのを見た。この時、あの家がひどくはっきりした実体を持ち得たように感じ、奇妙な戸惑いと寄る辺ない心細さに襲われた。明け方、あの家で居候をしている夢を見たあと、あの家への憧憬の度合いをおかしく感じるとともに、学問をしたかったという思いがよみがえった。必死に生きてきたことに後悔はないが、あの家には自分の選びそびれた人生がこっそり眠っているように感じ、どうしようもないやるせなさがこみ上げた。
⑤最後にするつもりで、俊男はあの家の前を通った。ふいに背後で声がして、その老人から声をかけられた。老人は、俊男がこの辺りを歩く姿を羨ましいと思って見ていて、自分は胸が悪く家でも家人の女性たちに対して萎縮していると言う。老人は例の家の中に入って消えていった。俊男は老人が陰になった室内からぽつんと座って外を眺めている様子を想像し、気管が絞られるような気がした。春の光に向かって、ソンザイカン、と小さな声で言った。
『スペインタイルの家』の本文解説
本作は、高度経済成長期の日本に働く若者の夢と挫折を描いた小説文です。流れとしては「スペインタイルの家」に憧れる青年の心理に沿って描かれています。
建築現場で働く俊男は、毎日通りかかる家に知的で上品な生活があると想像し、自らをその想像の中にまぎれこませて慰めを得ていました。やがて、その生活が空想ではなくはっきりとした実体として意識された時、彼はその家は自分とは無縁の世界なのだと知ることになります。
自分のその家への憧れは、自分が選びそびれた人生への未練なのだと自覚した俊男は、憧憬のむなしさに気づきます。しかし、その家の老人もまた孤独に生きていることを知り、過酷な現実に胸を詰まらせることになります。
この小説の背景にあるのは、東京オリンピックを前に、次々と懐かしい風景が消えてゆく中、建築現場で働く貧しい若者の鬱屈した思いです。現代の話として読んでしまうと理解できない部分が出てくるため、その点は注意する必要があります。
『スペインタイルの家』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①陸上キョウギ場。
②イショウを凝らした玄関。
③夕食をフンパツする。
④ソウシツ感にさいなまれる。
⑤ハンザツを極める。
⑥心細さにおそわれる。
⑦著名な書家にシジする。
【後ろめたさ】⇒自分の仕事の都合で都心に引っ越してきて、妻の思いを顧みなかったこと。
【喪失感】⇒郊外の穏やかな二人の暮らしが失われたこと。
まとめ
以上、本記事は『スペインタイルの家』について解説しました。ぜひ定期テストの対策としてもらえればと思います。なお、本文中の重要語句については以下の記事でまとめています。
国語力アップ.com管理人
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