「指名」と「任命」は、政治においてよく使われている言葉です。「内閣総理大臣を指名する」「裁判官を任命する」などのように用います。
また、「認証」などの言葉もよく聞きます。ただ、いずれも似たような使い方がされているため違いが分かりにくいです。
そこで今回はこれらの言葉の使い分けについて、なるべく分かりやすく解説しました。
指名・任命・認証の違い
最初に、それぞれの意味を簡潔に述べておきます。
「指名」=名前を挙げて指定すること。
「任命」=官職や役目に就くよう命じること。
「認証」=認めて証明すること。
「指名」とは「名前を挙げて指定すること」です。言い換えれば、「名指しで選ぶこと」を意味します。
そして、指名された人を実際に職務に就くよう命じることを「任命」と言います。
最後の「認証」は、任命するほどではないけども、とりあえずは認めておこうという許可のようなものです。
分かりやすい例えで説明しますと、学校の中で「生徒会長」を決めるとします。
生徒会長は生徒の中のリーダーなので、みんなで意見を出し合って慎重に決めます。そして、投票の結果「Aさん」が過半数を得て生徒会長となりました。
この時、Aさんは名指しでみんなから選ばれたので、「指名された」ということになります。
指名されたAさんは校長室に呼ばれ、校長先生から「これからはあなたが生徒会長です。頑張ってください」と言われました。
そして、実際に「あなたが生徒会長です」という任命証書も頂きました。これが「任命」です。
つまり、Aさんは学校のトップである校長先生から生徒会長としての役目を果たすよう命じられたということです。
ただ、全員が全員Aさんのように正式な任命証書をもらっていたら校長先生の時間が足りません。
例えば、学級委員長や掃除係のリーダー、金魚のエサやり当番にまでいちいち任命をしていたら、校長先生の仕事が増えすぎてしまいます。
そこで、生徒会長以外の下位の役職の人は、「とりあえずは校長先生が認める」ということにしました。
あくまで口約束のようなもので、正式な任命書などはもちろん渡しません。これが、「認証」ということです。
では、大まかな違いが分かったところでそれぞれの意味を詳しく見ていきます。
指名の意味を詳しく
まず、「指名」は辞書だと次のように書かれています。
【指名(しめい)】
⇒名をあげて、その人を指定すること。なざし。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「指名」とは「名をあげて、その人を指定すること」です。
別の言い方をするならば、「誰かに選ばれること・みんなに選ばれること」と言い換えても構いません。
「指名」は会社の人事などでも使われますが、主に政治の用語として使われることが多いです。例えば、「内閣総理大臣」は国会が指名します。
すなわち、国会の中で話し合いを進め、内閣総理大臣を選ぶということです。歴代の総理大臣なども、皆このシステムにより指名されています。
また、「最高裁判所の長官」は内閣が指名します。
内閣というのは国の行政を担当する人達のことで、首相や大臣などにより構成されています。
この内閣により最高裁判所の長官が選ばれるということです。一般に、政治の世界で「指名」が使われるのは、この2つのパターンがほとんどです。
「国会」は立法機関、「内閣」は行政機関を指しています。それぞれの機関で話し合うことにより、内閣総理大臣と最高裁判所の長官を指名しているということです。
任命の意味を詳しく
次に、「任命」の意味です。
【任命(にんめい)】
⇒ある官職や役目に就くよう命じること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「任命」とは「ある官職や役目に就くよう命じること」です。
「任命」も会社などの組織の中で使われることもありますが、一般には政治の世界で使われます。
政治の世界では、「任命」は天皇が主語になることが多いです。例えば、以下の文は日本国憲法の中の文言を引用したものです。
天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
出典:日本国憲法第6条
要約すると、「内閣総理大臣は、国会が指名して天皇が任命する」「最高裁判所長官は、内閣が指名して天皇が任命する」という意味です。
内閣総理大臣は行政機関におけるトップの役職、そして最高裁判所長官は司法機関におけるトップの役職です。
これらの重要な役職ともなれば、その地位の権威付けや正当性の証明が必要となります。何となく誰かが認めたということではいけません。
そこで、天皇陛下という日本にただ一人しかいない人物が「あなたに頼む」という意味で「任命」をするわけです。
天皇陛下が任命することで、形式的ではありますが、その地位についた人物は正式に役職が認められることになります。
認証の意味を詳しく
続いて、「認証」の意味です。
【認証(にんしょう)】
① 一定の行為または文書の成立・記載が正当な手続きでなされたことを公の機関が証明すること。
②コンピューターやネットワークシステムを利用する際に必要な本人確認のこと。通常、ユーザー名やパスワードによってなされる。オーセンティケーション。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「認証」には複数の意味がありますが、ここでは政治としての意味を解説します。
「認証」とは文字通り、「認めて証明すること」です。
例えば、国務大臣や最高裁判所の裁判官、高等裁判所の長官などは、それぞれが行政と司法において重要な役割を担っています。
しかし、内閣総理大臣や最高裁判所の長官などと比べれば、その役職は下位の位置にあり、重要性は低いものだと言えます。
したがって、このような下位の役職については、「天皇が認証する」という行為をするのです。以下は、実際の条文です。
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
出典:日本国憲法第7条
高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認証する。
出典:裁判所法 第三十九条
高等裁判所長官の任免は、天皇がこれを認証する。
出典:裁判所法 第四十条
このように、天皇が任命するような役職でないものは、代わりに「認証」をすることになります。
指名・任命・認証の使い分け
では最後に、それぞれの使い分けを表にまとめてきます。
国会が | 内閣が | 天皇が | 総理大臣が | 最高裁が | |
総理大臣を | 指名する | 任命する | |||
国務大臣を | 認証する | 任命する | |||
最高裁長官を | 指名する | 任命する | |||
最高裁裁判官を | 任命する | 認証する | |||
下級裁裁判官を | 任命する | 認証する | 指名する |
「指名」は、主に国会が総理大臣を選ぶとき、内閣が最高裁長官を選ぶときに使われます。その他には、最高裁が下級裁判所の裁判官を選ぶときにも「指名」が使われます。
そして、「任命」は天皇が総理大臣と最高裁長官に対して行います。また、総理大臣が国務大臣に対して「任命」を行うことも重要なポイントです。
国務大臣とは、内閣を構成する各大臣のことで、法務大臣、総務大臣、外務大臣、厚生労働大臣などが挙げられます。
これらの大臣は、「内閣総理大臣が任命し、天皇が認証する」という流れとなります。
なお、内閣が任命するのは最高裁の裁判官と下級裁の裁判官のみです。
最後の「認証」に関しては、「天皇」以外の人が行うということはありません。
「天皇」は、国務大臣を認証したり、最高裁の裁判官を認証したりします。下級裁の裁判官については、高等裁判所の裁判官のみ認証します。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「指名」=名をあげて、その人を指定すること。
「任命」=ある官職や役目に就くよう命じること。
「認証」=認めて証明すること。
「指名」をする際は割と多くの人が参加できますが、「任命」はできる人が限られているという特徴があります。「認証」に関しては、天皇が直接的ではなく間接的に認めることだと覚えておきましょう。