「ナショナリズム」という言葉は、現代文や世界史、政治・経済など様々な分野で使われています。特に現代文では頻出の重要単語と言われています。
ただ、よく目にするにも関わらず意味が分かりにくいと感じる人も多いです。そこで今回は「ナショナリズムとはそもそも何なのか」といったことを簡単にわかりやすく解説しました。
後半では、「メリット」や「デメリット」「対義語」などにも触れています。
ナショナリズムの意味
まず、「ナショナリズム」の意味を辞書で引くと次のように書かれています。
【ナショナリズム】
⇒国家や民族の統一・独立・繁栄を目ざす思想や運動。国家主義・民族主義・国民主義。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「ナショナリズム」とは「国家や民族の統一・独立・反映などを目指す思想や運動」のことを意味します。
「ナショナリズム」は複数の訳し方があるため、定義が非常に難しいです。
一般的には、「ナショナリズム」=「国家主義・民族主義・国民主義」などと訳されています。
簡単に語源を確認しておくと、「ナショナリズム」は英語で「nationalism」と言い、「nation」+「ism」からできた言葉です。
「nation」には「国家・民族・国民」、「ism」には「主義・考え方」という意味があります。
そのため、「ナショナリズム」=「国家主義・民族主義・国民主義」などと訳されているのです。
では、それぞれの意味を詳しく見ていきましょう。
国家主義の意味
「国家主義」とは簡単に言うと「個人よりも国のことを大事にする考え方」のことです。
例えば、以下のような考え方を指します。
- 「個人の自由よりも、国が戦争に勝つことが大事である。」
- 「個人の利益よりも、国が貿易で利益を上げることが大事である。」
このような考え方は個人よりも国の繁栄を重視しているので、「国家主義的な考え方(ナショナリズム)」だと言えます。
戦前の日本やドイツなどは、この国家主義的な考え方だったと言われています。
民族主義の意味
「民族主義」とは簡単に言うと「民族の統一や独立、発展を目指す考え方」のことです。
「民族の統一」とはどういう意味でしょうか?例えば、「北朝鮮」と「韓国」という国があります。
元々、この2つの国は「朝鮮」という一つの国でした。
今では「北朝鮮人」「韓国人」という分けられ方がされていますが、本来は「朝鮮人」という同じ民族だったのです。
ところが、1950年に起こった朝鮮戦争により、二つに分断されてしまったという歴史があります。そして、現在も分断されたまま休戦状態となっています。
外から見ると、北朝鮮と韓国はお互いに相手のことを嫌っているように見えます。
しかし、韓国側の人達の中には、北朝鮮に対して「元々は同じ民族であったため、統一して一つになりたい」と考えている人もいるのです。
このような考え方は、民族の統一を目指した考え方なので「民族主義的な考え方(ナショナリズム)」だと言えます。
もう一つ「民族主義」の例を挙げましょう。
「インド」という国があります。インドは現在は独立している国ですが、昔はイギリスによって支配されていました。
そこで当時、独立を目指して「民族運動」というものが起こります。「民族運動」とは「民族の独立を目指す運動のこと」です。
当時のインドの人達は、「私たちは同じ言語や宗教・文化をもった民族だ」と強い民族意識を持ち、立ち上がりました。
結果的にインドは独立を達成するのですが、このように「民族の独立を目指す考えや運動」も「ナショナリズム」と言えるのです。
国民主義の意味
「国民主義」とは「国民の自由を大事にしつつも、国を発展させようとする考え方」のことです。
例えば、日本という国は多数決の選挙によって政治家を決めます。ところが、日本では当たり前のことですが、世界では選挙すら行われない国もあります。
「独裁国家」と言い、国が勝手に大統領を決めてしまうのです。
独裁国家は国を発展させるという考えは日本と同じかもしれませんが、国民にとっては自由がありません。
その点、日本は民主国家なので、健全な国民主義の国と言うことができるのです。
大事なのは「自由」という点です。国民の自由がなければ、「国民主義」とは言えないのです。
ナショナリズムの問題点・デメリット
ここまでの話を整理しておきましょう。「ナショナリズム」というのは、以下のような考え方でした。
- 個人よりも国を大事にする考え方。
- 民族の統一や独立、発展を目指す考え方。
- 国民の自由を大事にしつつも、国を発展させる考え方。
「ナショナリズム」は、程度が行き過ぎると問題があります。
例えば、あまりに自国のことを重視しすぎると、個人の自由や権利が抑圧されてしまうという点が挙げられます。
今の日本では「徴兵制」という制度はありませんが、昔は普通にありました。
「徴兵制」とは、国を守るために、ある年齢に達した人を強制的に軍隊に入れることです。
「国の利益」という点を重視すれば、徴兵制はメリットはあります。
しかし、体を鍛えることが嫌いな人にとってみればかなりの苦痛です。そもそも人と戦うこと自体が嫌いという人もいるでしょう。
このように、個人の価値観を重視する人にとっては「ナショナリズム」という考え方は水と油のように混じり合わないのが分かると思います。
「ナショナリズム」は、基本的に国家や民族など大きな集合体を大事にする考え方です。
そのため、行きすぎてしまうと、「自国や自民族を極度に愛し、他を排除する制度」のようにとらえられてしまう場合もあるのです。
これを、「国粋主義(こくすいしゅぎ)」と言います。
「国粋主義」とは「自国の歴史や政治、文化などが他国よりも優れているとし、それを発展させようとする考え方」のことです。
似たような言葉としては、「ファシズム」が挙げられます。
「国粋主義」や「ファシズム」は、ネガティブな場面でよく使われる言葉です。
「ナショナリズム」は色々な訳され方があるため、解釈によっては「国粋主義」と訳されてしまうこともあるのです。
ナショナリズムの長所・メリット
一方で、「ナショナリズム」にもメリットはあります。それは、「生産効率の良さ」です。
国を一つに統一するということは、当然、言語や文化・慣習などを一つに統一することを意味します。
したがって、国民の意識が一つになり、必然的に生産効率が上がることになるのです。
当たり前ですが、話し言葉がバラバラであったら仕事の効率性は上がりません。
実際に、一つの国家を中央集権的にして、言語・文化の統一を行った国は過去にいくつもありました。
日本も明治以降は、「富国強兵」をスローガンに国の生産性が飛躍的に上がったという事実があります。
「ナショナリズム」は、国民の意識や連帯効果を高め、産業を発展させやすいというメリットがあるのです。
ナショナリズムの類義語・対義語
「ナショナリズム」の類義語は以下の通りです。
- 国家主義
- 民族主義
- 国民主義
- 国粋主義
- 愛国心
- 愛国主義
すでに説明した言葉以外では、「愛国心」や「愛国主義」が類義語として挙げられます。
「愛国心」とは、文字通り「国を愛する心」のことです。「自国に対して愛着や忠誠を抱く心情」を指します。
これは国家ではなく国民側からの気持ちを表した言葉だと言えるでしょう。
逆に、「ナショナリズム」の「対義語」としては次のような言葉が挙げられます。
- グローバリズム
- コスモポリタニズム
- インターナショナリズム
「グローバリズム」とは「世界の一体化を目指す思想」のことです。
自由貿易や市場主義経済により、自国及び世界の経済を発展させることを目標とします。
「グローブ」は「globe(地球)」という意味なので、「地球主義」と訳されることもあります。
「コスモポリタニズム」とは「人類全体を一つの世界の市民とみなす思想」のことです。
語源はギリシア語の 「kosmos (宇宙・世界)」 と「polites (市民)」 を合わせたものです。
日本語だと、「世界市民主義」「世界主義」と訳す場合もあります。
「コスモポリタニズム」には、全世界を自国と同じと考える特徴があり、その点が世界を均一化しようとする「グローバリズム」と若干意味が異なります。
「インターナショナリズム」とは「各国が独立国家を前提にし、相互に共存共栄を図ろうとする思想」のことです。
「インター(inter)」は英語だと「間」や「相互」という訳で、頭に付くことでお互いに共同体を形成するという意味になります。日本語だと「国際主義」と訳されることが多いです。
「インターナショナリズム」では、国家の枠を超えて共通の利害に基づく行動をとります。そのため、「ナショナリズム」とは対立する概念ということになります。
ナショナリズムの使い方・例文
最後に、「ナショナリズム」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 19世紀のヨーロッパでは、ナショナリズム的な思想は一般的であった。
- 1990年の東西ドイツの統一は、双方のナショナリズムによって誘発された。
- イギリス支配下のアイルランド独立運動は、ナショナリズムによって引き起こされた。
- ナショナリズムが過度に行き過ぎると、職業選択の自由すら奪われてしまう。
- オリンピックで自国を応援するのは、私達が健全なナショナリズムを持っているからだ。
- トランプ大統領の移民排斥政策は、ナショナリズムの負の側面と言われている。
例文のように、「ナショナリズム」は、政治、経済、歴史、国際関係など様々な場面で使われています。
メリット・デメリット、両方の側面がある言葉なので、どちらの意味で使うことも可能です。
現代文のテーマとしては「ナショナリズム」の問題点を指摘しながら、話を展開していくものが多いです。
ちなみに、「ナショナリズム」という考え方は「近代」より前はありませんでした。
「ナショナリズム」を理解するには、「近代」の意味も押さえておくよいです。
なぜなら、「ナショナリズム」は元々世界史の用語なため、時代背景を知っておくと理解がしやすいためです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「ナショナリズム」=国家や民族の統一・独立・反映などを目指す思想や運動。
「問題点」=①個人の自由や権利が抑圧されてしまう。②他国や他民族を排除してしまう場合がある。
「メリット」=生産効率の良さ。産業を発展させやすい。
「類義語」=「国粋主義・愛国心・愛国主義」など。
「対義語」=「グローバリズム」「コスモポリタニズム」「インターナショナリズム」
「ナショナリズム」という言葉は定義が非常に曖昧です。学者の間でも意見が分かれているほどなので、完璧に理解する必要はありません。
一般的には、「ナショナリズム」=「国家主義・民族主義」と訳されることが多いようです。そのため、大まかなイメージとしては、「国家や民族のことを大事にする考え方」と覚えておけば問題ないでしょう。