ファシズム」という言葉をご存知でしょうか?日本ではなくイタリアやドイツで使われていた言葉ということは知っている人も多いかと思います。

実は「ファシズム」は、大学入試の現代文や世界史の用語としてよく出てきます。今回はそもそも「ファシズムとは何なのか」といったことをなるべく分かりやすく解説しました。後半では、対義語や具体的な例文についても説明しています。

ファシズムの意味とは

 

まず、「ファシズム」の意味を調べると次のように書かれています。

【ファシズム】

極右の国家主義的、全体主義的政治形態。初めはイタリアのムッソリーニの政治運動の呼称であったが、広義にはドイツのナチズムやスペインその他の同様の政治運動をさす。自由主義・共産主義に反対し、独裁的な指導者や暴力による政治の謳歌などを特徴とする。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

ファシズム」とは簡単に言うと「国家や社会など全体の利益を最優先させる考え」のことです。一言で、「全体主義」と呼ばれることもあります。

例えば、以下のような考え方はファシズム的だと言えます。

  • 個人の自由よりも、国が戦争で勝つことを優先しよう。
  • 個人の利益よりも、国が植民地を得ることを優先しよう。

つまり、一人一人の人間ではなく、国や社会など大きな枠組みを重視する考えを「ファシズム」と言うわけです。

「ファシズム」は、「ナショナリズム」と共通している部分があります。「ナショナリズム」とは「国家主義」「民族主義」「国民主義」などの意味です。

上記3つの内の「国家主義」という考え方が「ファシズム」の元になっています。

「国家主義」とは「個人よりも国のことを大事にする考え方」のことです。「ファシズム」はこの「国家主義」をさらに発展させた考えを指すのです。

ファシズムの語源・由来

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「ファシズム」は、イタリア語の「ファッショ」を語源とします。「ファッショ」とは、日本語で「束(たば)」という意味です。

「束」というのは、「札束」「花束」などのように何かを結合させるイメージで考えると分かりやすいです。

当時はこの束ねる行為を、「ロッド(つえ)」などの武器に使っていました。なぜ束にしたかと言うと、ロッドを強化するためと言われています。

1本のロッドだと簡単に壊れてしまいますが、大きな束になれば簡単には壊れません。

転じて、「ファシズム」は「個人を束ねた全体を重んじる思想」という意味で使うようになったのです。

全体を重んじるため、当然「個人の自由」や「個人の利益」などは抑圧されるということです。

ファシズムが生まれた理由

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「ファシズム」を理解するには、歴史を知っておく必要があります。

元々、「ファシズム」という思想はイタリアの政治家であるムッソリーニが作った「ファシスト党」から広まりました。時代としては、1922年~1943年の頃です。

当時のイタリアは第一次世界大戦には勝ったものの、国内は戦場となり、焼け野原となっていました。また、他国から満足のいく領土も獲得できていなかったのです。

自国の不況により生活が苦しくなった国民は、政府への不信感を高めることになります。その結果、貧しい農民や労働者たちが各地で土地を占拠するなどして、社会改革を求めた運動を起こすようになりました。

そんな中、イタリア国内では「極右的(きょくうてき)」な考え方が大きくなります。「極右」とは、簡単に言うと「自分の国さえよければいいという考え」のことです。

ムッソリーニはこの流れに乗じて、「ファシスト党」を結成し、独裁者となります。そして、各地で起こった農民運動や労働運動を暴力で破壊していきました。

暴力的な弾圧は、ロシアのような社会主義革命を恐れる支配層や中産階級の間で支持を集めました。このような背景もあり、1926年にファシスト党は一党独裁体制を確立していったのです。

当時のファシスト党は、まず自由主義を否定しました。「自由主義」とは、個人の自由や権利を大事にする考え方のことです。

この自由主義を否定するということは、「個人は国の命令に逆らえない」ということを意味します。そのため、国のために戦争へ行くよう命じられたら、当然断ることはできません。

また、ファシスト党は共産主義も否定しました。「共産主義」とは「究極の平等社会を目指す考え」のことです。

「共産主義」の特徴として「国境を超えて世界中が平等を目指す」という考えがあります。

しかし、ファシズムは世界のことではなく自国を優先する考えなので、共産主義を排除したというわけです。

こうして、ムッソリーニは「自由主義」と「共産主義」を否定し、独裁政治をどんどん進めていきました。

独裁政治なので、国のトップがほぼ全てのことを決め、それに逆らうものは当然暴力を食らいます。

当時イタリアにいた自由主義者や共産主義者は、みんな暴力によって弾圧されてしまいました。結果的に、この独裁政治はイタリアが第二次世界大戦で敗戦するまで続くことになります。

その後、イタリアが戦争で負けたことにより、「ファシズム」=「悪」というイメージが世の中に広まりました。

そのため、当時のドイツのナチスやスペインの政治運動に対しても、「ファシズム」が使われるようになったのです。

ファシズムの定義とは

ファシズム 定義とは

「ファシズム」の大まかな意味や歴史については理解できました。では、「ファシズム」とはどのように定義すればよいのでしょうか?

「ファシズム」は多くの辞書の説明だと、

狭い意味」=イタリアの独裁政治。

広い意味」=ドイツやスペインも含めた独裁政治。

と書かれています。

上記のように、場面によって定義が異なるのが「ファシズム」なのです。

つまり、学者の間でもどんな解釈がベストか意見が分かれているということです。

したがって、私たちが一般に使う際は「ファシズム」=「独裁的な国家主義」と覚えるのが一番分かりやすいでしょう。

ポイントは、「独裁的な」という点です。普通の国家主義は、ただ単に「個人よりも国を重視する」という考え方です。

ところが、「国家主義」が独裁的になると「暴力によって問題を解決したり他国を侵略してでも国の利益を優先したりする」といった危険な考え方になります。

国家を重視するためなら手段を選ばない」「国のためなら暴力を振るっても構わない」。こういった考えが「ファシズム」の大きな特徴と言えるのです。

ファシズムの対義語・反対語

 

「ファシズム」の「対義語」としては、「反ファシズム」が挙げられます。

反ファシズム」とは、文字通り「ファシズムに反対する思想」のことです。元々は、イタリアのムッソリーニ体制への反対運動からできた言葉です。

反ファシズムの活動家は、「反ファシスト(反結束主義者)」と呼ばれています。具体的に言うと、社会主義者・共産主義者・無政府主義者などのことです。

彼らは、ファシスト党やナチスを妨害しようと当時のイタリアやドイツで実際に活動を行っていました。

これはすでに説明したように、社会主義者や共産主義者は平等を実現しようとする思想なため、彼らにとってファシズムは正反対な思想だからです。

また、「無政府主義」とは簡単に言うと「国家や政府はいらない」とする考え方のことです。

別名、「アナキズム」とも呼ばれ、国家や政府のような中央集権的な存在を極度に嫌い、人間の自由に価値を置く思想として知られています。

「ファシズム」は国家を最大の権力とする特徴があるため、「無政府主義」とは対立する概念となるのです。

ファシズムの使い方・例文

 

最後に、「ファシズム」の使い方を具体的な例文で紹介しておきます。

  1. ファシズムという政治体制が最初に構築された国はイタリアである。
  2. 資本主義とファシズムは、水と油のように混じり合わない思想である。
  3. ナショナリズムという考え方をさらに発展させたものが、ファシズムだと言える。
  4. 戦前の日本の軍国主義は、イタリアやドイツのファシズム的な思想の影響を受けていた。
  5. 社会主義もファシズムも、社会を管理するという点では似ているが、内容は異なるものだ。
  6. 当時のドイツでは、反ファシズムの活動家が政治的・経済的にも影響を与えていた。

 

「ファシズム」は、主に現代文や世界史、政治ニュースなどの文章において使われます。特に現代文では、「近代論」「社会論」「国際化」などをテーマとした文章によく出てきます。

ただ、「ファシズム」という言葉自体が、他の難解な用語と一緒に登場する場合が多いです。そのため、ファシズム単体で覚えるのではなく、「資本主義」や「社会主義」、「ナショナリズム」などの言葉と一緒に覚えておくことをおすすめします。

まとめ

 

以上、本記事のまとめです。

ファシズム」=国家や社会など全体の利益を最優先させる考え。全体主義。

語源・由来」=日本語で「束」を意味する「ファッショ」から。

主な特徴」=自由主義や共産主義を否定。国家を生かすためなら、手段を選ばない。

対義語」=反ファシズム。(社会主義、共産主義、無政府主義的な活動を行う)

「ファシズム」は、日本語では「全体主義」と訳すのが一般的です。しかし、この言葉ではイメージがつきにくいので「独裁的な国家主義」と覚えるのが分かりやすいです。後は今までの歴史の経緯や対義語などと合わせて覚えておくようにしましょう。