ことばとは何か 簡単に  内田樹 200字要約 教科書 解説 意味調べ

『ことばとは何か』は、 内田樹による評論文です。教科書・現代の国語にも収録されています。

ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、『ことばとは何か』のあらすじや要約、語句の意味などを簡単に解説しました。

『ことばとは何か』のあらすじ

 

あらすじ

ソシュールの言語学は、「ことばとは『ものの名前』ではない。」という重要な知見をもたらした。ギリシャ以来の伝統的な言語観では、言葉とは「ものの名前」であり、「ものの名前は人間が勝手につけた。」と考える。だが、この言語観はいささか問題のある前提に立っている。

ソシュールは、名付けられることにより、はじめてものはその意味を確定するのであり、命名される前の「名前を持たないもの」は実在しないと考える。例えば、「羊」はフランス語だと「ムートン」と言うが、英語では「シープ」「マトン」の二つの語がある。フランス語では「シープ(動物としての羊)」や「マトン(食肉としての羊)」という語は、存在しないのだ。

また、英語のdevilfish「悪魔の魚」は、「エイ」と「タコ」の両方を含む概念だが、このような包括的な名称は日本語にはない。「悪魔の魚」なる生物は英語話者の意識の中にだけ存在し、日本人の思考の中には存在しない奇怪な生物ということになる。「デヴィルフィッシュ」という「もの」は、そのようなことばを持つ言語システムで世界を眺めている人々の意識の中にのみ存在しており、その語を持たない言語共同体には存在しないのだ。

ソシュールは、言語活動とは星座を見るように、もともとは切れ目の入っていない世界に人為的に切れ目を入れて、まとまりをつけることだと考えた。言語活動とは「すでに分節されたもの」に名を与えるのではなく、非定型的で星雲状の世界を切り分ける作業そのものなのである。ある観念があらかじめ存在し、それに名前がつくのではなく、名前がつくことで、ある観念が私たちの中に存在するようになるのだ。

『ことばとは何か』の要約&本文解説

 

200字要約ものは名づけられることによって、はじめてその意味を確定するのであって、命名される前の「名前をもたないもの」は実在しない。言語活動とはもともとは切れ目の入っていない世界に人為的に切れ目を入れてまとまりをつけることであり、非定型的で星雲状の世界を切り分ける作業そのものである。ある観念があらかじめ存在し、それに名前がつくのではなく、名前がつくことで、ある観念が私たちの思考の中に存在するようになるのだ。(199文字)

私たちは一般に、「まずものが存在し、その後に人がものに名前を付ける」と考えがちです。しかし、筆者はそうではないのだと主張します。

筆者は、「名づけられることによって、はじめてものは意味を確定する」と主張しています。つまり、名前を付けることによって、ものははじめて存在するようになる、ということです。

この事を説明するために、本文中ではいくつか例が挙げられています。

例えば、「羊」はフランス語では「ムートン」と言いますが、英語では「シープ」と「マトン」の二つの言葉があります。「シープ」は、白くてもこもこした生き物、「マトン」は食卓に出される羊肉、という意味です。

また、日本語だと「エイ」と「タコ」は全く別の言葉ですが、英語だとどちらも「devilfish(悪魔の魚)」と呼んだりします。

つまり、ある言語の世界ではその対象が存在せず、逆にもう一方の言語の世界では対象が存在する、というようなことが起こっています。

これは、「名が対象を出現させる」、つまり「言葉によって初めて物事が存在する」という筆者の主張を説明している例だと言えます。

このように、言葉と物事のどちらが先か?という内容を論じた文章は入試においても出題されやすいです。多くの場合、言葉によってこの世界の認識が始まるという内容のものが多いです。

初めからものが存在しているわけではなく、「名付け(言葉)によってものが存在するようになる」という筆者の主張を読み取ることが重要となります。

『ことばとは何か』の意味調べノート

 

【構造主義(こうぞうしゅぎ)】⇒構造を分析し、人間の様々なことを明らかにしようとする考え方。

【知見(ちけん)】⇒ある物事に対する確かな考え。見識。

【典型的(てんけいてき)】⇒その特徴や性質をよく表しているさま。

【カタログ】⇒目録。

【必然性(ひつぜんせい)】⇒必ずそうなるべき性質。それ以外にはありえないという性質。

【いささか】⇒少し。わずかばかり。

【実在(じつざい)】⇒実際に存在すること。

【供する(きょうする)】⇒そなえる。差し出す。「供される」で「差し出される」という意味。

【厳密(げんみつ)】⇒細かい点まで手落ちなく厳しく行うさま。

【相当(そうとう)】⇒それに対応すること。当てはまること。

【包括的(ほうかつてき)】⇒全体を一つにまとめているさま。

【概念(がいねん)】⇒個々の事物から共通する性質を抜き出して構成される意味内容。

【忌まわしい(いまわしい)】⇒不吉だ。縁起が悪い。嫌な感じである。

【奇怪(きかい)】⇒理にかなわないさま。

【語義(ごぎ)】⇒言葉の意味。

【重複(ちょうふく)】⇒重なり合うこと。

【同義語(どうぎご)】⇒語形は異なるが、意義はほぼ同じ言葉。

【異にする(ことにする)】⇒別にする。異なっている。

【隣接(りんせつ)】⇒隣り合っていること。

【差異(さい)】⇒違い。

【規定(きてい)】⇒定めること。

【満天(まんてん)】⇒空いっぱい。空一面。

【散乱(さんらん)】⇒あちこちに散らばること。

【人為的(じんいてき)】⇒自然のままではなく、人の手が加わっているさま。

【輪郭(りんかく)】⇒物事のあらまし。概要。

【定立(ていりつ)】⇒ある論理を展開する上での命題を定めること。

【観念(かんねん)】⇒物事に対して持つ主観的な考え。

【判然(はんぜん)】⇒はっきりとわかるさま。

【分節(ぶんせつ)】⇒一続きのものをいくつかの区切りに分けること。

【分かつ(わかつ)】⇒分ける。別々にする。

『ことばとは何か』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

カチクを飼う。

モクロクを記す。

ナットクのいかない話。

ゲンミツに言う。

ゴカイを産む。

リンセツする土地。

タンジョウ日を祝う。

解答①家畜 ②目録 ③納得 ④厳密 ⑤誤解 ⑥隣接 ⑦誕生
問題2「しかし、この言語観は、いささか問題のある前提に立っています。」とあるが、「この言語観」とはここでは何を指すか?
解答例「もの」は名づけられる前から存在していて、名前は人間のつごうで勝手につけたというカタログ言語観。
問題3「切れ目を入れて、まとまりをつける」とはどのようなことか?
解答例名前がついていないものは存在しないという世界において、満天の星の中から特定の星を選んで結びつけ、星座として名前をつけるように、もともと何の切れ目もないものに、人為的な分節を加えて、一定の「もののかたち」を作り出すこと。
問題4

次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。

(ア)ギリシャ以来の伝統的な言語観によれば、名付けによってものは意味を持ち、命名される前の「名前を持たないもの」は実在しないと考える。

(イ)「カタログ」としての言語観は、私たちにものの名前は人間が勝手につけたものであり、ものとその名は別に必然性があって結びついているわけではないことを教えてくれる。

(ウ)ある語が持つ「意味の幅」は、その言語システムの中で、あることばと隣接する他のことばとの「差異」によって規定される。

(エ)ある観念がはじめから存在し、それに名前がつくのではなく、名前がつくことである観念が私たちの思考の中に存在するようになるのである。

解答(ア)ギリシャ以来の伝統的な言語観では、まず「もの」があり、その後で人間がこちらの都合であとから色々と名前をつけるとするため、誤り。(ア)の説明はソシュールの言語観を表したもの。

まとめ

 

以上、今回は『ことばとは何か』について解説しました。ぜひ定期テストなどの対策として頂ければと思います。