『陰翳礼讃』は、谷崎潤一郎による評論です。高校現代文の教科書にも取り上げられています。ただ、実際に本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。
そこで今回は、『陰翳礼讃』のあらすじやテスト対策、200字要約などを含めわかりやすく解説しました。
『陰翳礼讃』のあらすじ
①京都にある有名な料理屋では、古風な燭台を使うのが名物になっていた。その時私が感じたのは、日本の漆器の美しさは、ぼんやりした薄明りの中に置いてこそ、初めて発揮されるということであった。今日では白漆というものもできたが、昔からある漆器の肌は、黒か、茶か、赤であって、それは幾重もの「闇」が堆積した色であり、周囲を包む暗黒の中から必然的に生まれて出たもののように思える。金蒔絵の漆器は蝋燭の灯でいろいろの部分が少しずつ底光りするのがよい。吸い物椀の漆器は、手ざわりが軽く、柔らかで、耳につくほどの音を立てない。椀の暗い奥深い底に沈む容器の色とほとんど違わない液体が、視覚では捉えられないものの味わいを予覚させ、神秘的で禅味がある。
②日本の料理は食うものではなくて見るものだと言われる。だが、私は見るものである以上に瞑想するものであると感じる。闇にまたたく蝋燭の灯と漆の器とが合奏する無言の音楽の作用なのである。かつて漱石先生は「草枕」の中で羊羹の色を讃美しておられたが、塗り物の菓子器に入れて、暗がりへ沈めるとさらに瞑想的になる。赤味噌の汁なども、黒漆の椀では深みのある色あいを見せる。「たまり」のつやのある汁は陰翳に富み、闇と調和する。白い肌の食材も、暗いところで黒い器に置かれているほうが、見ても美しく、食欲を刺激する。我々の料理は常に陰翳を基調とし、闇と切っても切れない関係にある。
『陰翳礼讃』の要約解説
- 五感を示す言葉をたどりながら、筆者が示す特徴的な表現を読み取る。
- 筆者独自の日本文化論を、「漆器」「日本料理」「陰翳」「闇」といったキーワードから理解する。
『陰翳礼讃』の意味調べノート
【灯(ひ)】⇒物を照らす光の意。
【よんどころない】⇒それ以外に取るべき方法がないさま。
【漆器(しっき)】⇒うるし塗りの器物。塗り物。
【小(こ)ぢんまり】⇒小さいが、ほどよくまとまって落ち着いているさま。
【茶席(ちゃせき)】⇒茶をたてる座敷。茶室。また、茶会の催し。
【その穂(ほ)】⇒蝋燭の炎を、稲やススキなどの穂先にたとえた表現。
【またたく】⇒灯火が消えそうに明滅すること。
【漆(うるし)】⇒ウルシ科の落葉高木の樹液からとった塗料。乾くと光沢のある黒色となる。
【茶事(ちゃじ)】⇒茶会のこと。
【野暮(やぼ)】⇒洗練されていないこと。
【雅見(がみ)】⇒上品で風流な趣。
【漆器の肌(しっきのはだ)】⇒漆器の表面を擬人的に表現したもの。
【俗悪(ぞくあく)】⇒低級で下品なこと。
【豪華絢爛(ごうかけんらん)】⇒きらびやかに輝き、華やかで美しいさま。
【いい知れぬ】⇒何とも言いようのない。名状しがたい。
【余情(よじょう)】⇒あとまで残っている、印象深いしみじみとした味わい。
【そぞろに】⇒これといった理由もなく。
【瞑想(めいそう)】⇒心静かに思いをめぐらすこと。
【醸し出す(かもしだす)】⇒ある気分や感じをそれとなく作り出す。
【脈拍(みゃくはく)】⇒心臓の鼓動に伴って生じる血管壁の波動。ここでは、灯影の揺らめきをたとえたもの。
【減殺(げんさい)】⇒減らして少なくすること。
【灯影(ほかげ)】⇒灯火の光。
【ここかしこ】⇒あちらこちら。
【綾(あや)】⇒物の表面に現れたさまざまな模様。
【けだし】⇒おそらく。たしかに。
【陰翳(いんえい)】⇒光の当たっていない、暗い部分。かげ。
【予覚(よかく)】⇒事前にさとること。予感。
【たぎる】⇒沸騰してわき返る。煮え立つ。
【無我(むが)】⇒我欲・私心のないこと。無心であること。
【ひとしお】⇒(多く副詞的に用いて)いっそう。ひときわ。
【あたかも】⇒まるで。まさに。多く、下に「~のようだ。~のごとし」などを伴い、あるものが他のものに似ているさまを表す。
【にわかに】⇒急に。突然に。
【おぼつかない】⇒しっかりとせず、頼りないさま。
【よどんでいる】⇒底に沈んでたまっている。沈殿している。
【上方(かみがた)】⇒京都、大阪地方。また、広く関西地方をいう。
【かく】⇒「このように」の文語的表現。
『陰翳礼讃』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①つややかなシッキの椀。
②名画のミリョクを語る。
③ガミ豊かな屏風絵。
④洪水で土砂がタイセキする。
⑤旅のヨジョウを楽しむ。
⑥個性がカモし出された作品。
⑦身もフタもないことを言う。
⑧予想外の出来事にドウヨウする。
⑨白をキチョウとした部屋。
次の表現から、筆者のものの捉え方・感じ方の特色がどのような点にあるのか説明しなさい。
①夜そのものに蒔絵をしたような綾を織り出す
②生まれたての赤ん坊のぷよぷよした肉体を支えたような感じ
③椀がかすかに耳の奥へ沁むようにジイと鳴っている、あの遠い虫の音のような音
④あたかも室内の暗黒が一個の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ
①視覚という点から、蒔絵という漆器の模様が闇夜に広がる壮大で雅な世界を表現している点。
②触覚という点から、漆器のもつ温かみと優しさを赤ん坊の肉体にたとえて表現している点。
③聴覚という点から、吸い物椀が醸し出す音を繊細さと幽玄的感覚から表現している点。
④味覚という点から、闇が食材のもつ味を凝縮させ、濃密な味を感じさせる効果を表現している点。
まとめ
以上、今回は『陰翳礼讃』について解説しました。内容自体はそれほど難しいものではありません。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。
国語力アップ.com管理人
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