「一目置く」という慣用句をご存知でしょうか?
主に「一目置かれる男」「あいつは一目置かれている」などのように用いられます。
ただ、よく使われているだけに誤用が多いのも事実です。特に、目上の人に対して使う際は注意が必要な言葉とも言われています。
本記事ではそのような疑問点も含め、「一目置く」の意味や読み方、由来・英語訳などを解説しました。
一目置くの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【一目置く(いちもくおく)】
⇒自分より優れていることを認めて敬意を払う。一歩譲る。
出典:三省堂 大辞林
「一目置く」は、「いちもくおく」と読みます。
よくある読み間違えとして「ひとめおく」がありますので注意してください。「一目」は「ひとめ」ではなく「いちもく」と読みます。
「一目置く」とは「自分より優れていることを認めて、相手に敬意を払うこと」です。
例えば、会社内で誰よりも仕事ができて、皆から尊敬されている人がいたとします。
この場合、「彼は周囲の社員から一目置かれている」などのように言うことができます。つまり、皆からすごいと思われるほど敬意を払われているということです。
「一目置く」は、このように相手の実力を認めるような時に使われる慣用句となります。
ここで一点だけ注意すべきことがあります。それは「一目置く」は自分より目上の人に対しては使わないということです。
「一目置く」には「相手を評価する」という意味も含まれているので、基本は目上の人が目下の人に対して使う言葉となります。もしも自分より目上の人に使ってしまうと、失礼な表現になってしまうので気を付けて下さい。
例えば、「私は平社員ですが、部長に対しては一目置いています。」などのような使い方は誤用です。この場合だと、「平社員の私が部長のことを評価している」という非常に上から目線の表現となっています。
「一目置く」は、自分と同じランクの人(同僚や友人)もしくは自分より下の人(部下・後輩等)を対象とするのが原則です。どうしても目上の人に対して使いたい場合は、「一目置かれる存在」のように主語を断定せず、客観的な表現にするようにしましょう。
一目置くの語源・由来
「一目置く」の由来は「囲碁(いご)」にあります。
囲碁の世界では、「一目」のことを「盤上の一つの目」または「一個の碁石(ごいし)」を指します。
ここでの「目」は、「マス目」の「目」と同じだと考えて問題ありません。つまり、「一目置く」とは「一個の碁石を置く」という意味なのです。
では、どうして碁石を一個置くことが敬意につながるのでしょうか?その理由は、囲碁のハンデ戦にあります。
囲碁ではハンデ戦を行う場合、弱い人が先手で黒石を置き、強い人が後手で白石を置きます。
言い換えれば、「弱い方が先に石を置く」ということです。これはなぜかと言いますと、ボードゲームは基本的に先手の方が有利だからです。
将棋などのプロ同士の対局でも、先手の勝率が52%~53%というデータもあるくらいです。「先手必勝」という言葉もある通り、先に攻撃をスタートできるほうが有利なのです。
囲碁に限らず、ハンデの目的は少しでも接戦になるように弱者に配慮することです。
そのため、配慮してもらった側としては、相手の強さに感謝と敬意を込めて先に石を置くのです。ここから、「一目置く」は「(強い)相手に敬意を表する」という意味になったわけです。
余談ですが、なぜ強い方が白で打つかといいますと「白は夜でもはっきり見えるメリットがあるから」だそうです。
黒色の場合、夜だったり暗い場所だと碁石が見えにくくなってしまいます。弱者側としては、先に打たせてもらう代わりに少しでも強者に利便性を提供しようということです。
一目置くの類義語
続いて、「一目置く」の類義語を紹介します。
- 尊敬する
- 称賛する
- 敬服する
- 傾倒する
- 敬意を払う
- 敬意を表する
- 評価する
- 高く買う
- 認める
- 兄事する
基本的には「相手に敬意を表する言葉」が類義語となります。
この中だと、「敬意を払う」「敬意を表する」などは「一目置く」とほぼ同じ意味です。したがって、どちらも「一目置く」の同義語と定義しても問題ありません。
今回の場合は、「評価する」という類義語もあることがポイントです。この「評価する」という一種の上から目線のニュアンスが含まれるため、「一目置く」は目上の人には使わないことになります。
なお、最後の「兄事(けいじ)」は見慣れない言葉かもしれませんが、意外とよく使われます。
「兄事」とは「兄に対するように、敬意と親愛の気持ちをもって仕えること」です。主に、「兄事する先輩」などのように使います。
一目置くの対義語
逆に、「一目置く」の対義語としては次のような言葉が挙げられます。
- 軽蔑する
- 見下す
- 下に見る
- バカにする
- 見くびる
- 蔑ろにする
反対語は相手を下に見たり蔑ろにしたりする言葉となります。上から目線でバカにしたり軽蔑したりといった否定的な意味も持つものばかりなので、いずれも良い意味としては使われません。
一目置くの英語訳
「一目置く」は、英語だと次の二つの言い方があります。
「admit somebody’s superiority(相手の優位を認める)」
「acknowledge somebody’s superiority(相手の優位を認める)」
「囲碁」は元々中国発祥のボードゲームなので、英語圏では囲碁などの文化はありません。
そのため、少々遠回しな言い方になりますが「相手が優位であることを認める」という訳になります。
「respect」などの「尊敬する」ではなく、「認める」というニュアンスです。
例文だと、それぞれ次のような言い方となります。
You should admit his superiority.(あなたは彼に対して一目置くべきだ。)
I acknowledge your superiority.(私はあなたに一目置いている。)
一目置くの使い方・例文
最後に、「一目置く」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 彼女の仕事の正確さには、上司である私も一目置いている。
- あの人は政界で頭の切れる人間として、一目置かれる存在である。
- 弟とは価値観が合わないが、人付き合いの上手さには一目置いている。
- 彼の頭の良さは群を抜いている。教師の私ですら一目置くほどである。
- 勉強もスポーツもできる優秀な彼は、クラスの皆から一目置かれる存在だ。
- あいつは昔から運動神経は悪いが、絵の才能だけは周りから一目置かれていた。
- 彼のバッティング技術は素晴らしく、一目も二目も置かれる天才的なものだ。
「一目置く」は「相手に敬意を払う・評価している」といった意味の言葉でした。したがって、基本的には良い意味として使う慣用句です。
ただし、先述したように上司などの目上の人に対しては使いません。もしも目上の人に使う場合は、「感謝しています」「尊敬しています」などの表現にとどめておくのが無難だと言えます。
なお、「一目置く」よりもさらに敬意を表す場合は「一目も二目(にもく)も置く」と言います。
これはつまり、一個どころか二個先に置かないと勝てないくらい相手を尊敬しているということです。通常では考えられないほど相手に敬意を表しているような場面で使います。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「一目置く」=自分より優れていることを認めて、相手に敬意を払うこと。
「語源・由来」=囲碁で先に一目置くのは、ハンデをもらった弱者が強者に敬意を払うことから。
「類義語」=「敬意を表する・高く買う・認める・兄事する」など。
「英語訳」=「admit somebody’s superiority」「acknowledge somebody’s superiority」
「一目置く」は意味も大事ですが使い方が特に重要です。語源を理解したからには、正しい場面で使って頂ければと思います。