「貧すれば鈍する」という慣用句をご存知でしょうか?
「貧しい」という字を書くように人の経済事情と密接に関わっている言葉でもあります。ただ、本当の使い方を知らない人が多い慣用句でもあります。
そこで本記事では、「貧すれば鈍する」の意味や由来、語源、反対語などを詳しく解説しました。
貧すれば鈍するの意味・読み方
最初に、この言葉を辞書で引いてみます。
【貧すれば鈍する(ひんすればどんする)】
⇒貧しいと生活苦に煩わされることが多くなり、才気や高潔さが失われてしまうものである。瀕すれば鈍する。
出典:実用日本語表現辞典
「貧すれば鈍する」は、「ひんすればどんする」と読みます。意味は、「人は貧しくなると才気や高潔さが失われてしまうこと」です。
「才気」とは「物事をうまく処理する知的能力」のこと、そして「高潔」とは「強欲な行動をせず、人柄が立派なこと」を表します。
例えば、どんなに賢くて優秀な人であっても、今日のご飯が食べられなかったり、明日住む家が確保されていなかったりすると精神的に不安定になってしまいます。
空腹状態であれば、頭の回転も悪くなるでしょうし、そもそも家がなければどうすることもできません。次第に、その人は才気も高潔さも失われて
卑しい行動やバカげた行動をとってしまうということです。
このように、経済的に貧しい状態により、自分の能力や性格、行動などが落ちぶれてしまうことを「貧すれば鈍する」と言うのです。
貧すれば鈍するの語源・由来
「貧すれば鈍する」は、「貧する」と「鈍する」という言葉が含まれています。
まず、「貧する」とは文字通り「貧しくなる」という意味です。収入が減ったり貯金が少なくなったりして、その人が貧しくなることを表します。
そして、「鈍する」とは、「鈍くなる・鈍感になる」という意味です。これは厳密に言うと、「(お金以外のことに)鈍くなる様子」を表した言葉です。
人は経済的に貧しくなると、どうしてもお金の事しか考えられなくなってきます。貯金額、年収、食べ物の価格。
そして、お金のことしか考えておらず、お金以外のことを考える余裕がなくなるのは非常に鈍感な状態だと言えます。ゆえに、「貧しくなると通常の感覚が鈍くなる」という意味で「貧すれば鈍する」と言うわけです。
なお、この慣用句は明確な出典があるわけではありません。「貧」という字自体は、奈良時代の万葉集に記されており、「鈍」という字も同じく奈良時代の「日本書紀」に記されています。ただ、具体的にどこで誰が発した言葉なのかは未だ不明のままです。
貧すれば鈍するの類義語
続いて、「貧すれば鈍する」の類義語を紹介します。
以上、五つの類語を紹介しました。「貧すれば鈍する」は、様々なことわざで言い換えることができます。
どの類義語も「貧乏になると損をする」という意味は共通しています。中でも「人貧しければ智短し」と「窮すれば鈍する」はほぼ同じ意味です。
したがってこの二つは、「貧すれば鈍する」の同義語と考えてよいでしょう。
貧すれば鈍するの対義語
逆に、「対義語」としては次のような言葉が挙げられます。
前者は、「貧しくても人は幸せに生きていける」といった意味です。後者は、「お金持ちにも悩みはある」といった意味を持つ言葉です。
類義語に比べれば、対義語の数はかなり少ないと言えます。多少意味が異なるものを集めたとしても、反対語と呼べるものは多くありません。
これは昔から「貧乏だと損することはあっても、逆に得することは少ない」という教訓があることの表れだと言えます。
貧すれば鈍するの英語訳
「貧すれば鈍する」は、英語だと次のような言い方をします。
①「Poverty dulls the wit.」「貧困は知恵を鈍らせる」
②「If you are poor, you will be dull.」「もしもあなたが貧しいなら、鈍することになるだろう」
①の「Poverty」は「貧困」、「dull」は「鈍らせる、鈍感にする」、「wit」は「知恵・知力・機知」という意味です。
②の「dull」は「鈍らせる」という意味ですが、「be dull」と受け身にすることで「鈍らせられる」という意味になります。
その他、間接的な表現だと以下のような言い方も可能です。
Poverty affects one’s mindset.(貧困は人の考え方に影響を及ぼす。)
Poverty affects one’s thought process.(貧困は思考プロセスに影響を及ぼす。)
「affect」は「~に影響を及ぼす」という意味の動詞です。
貧すれば鈍するの使い方・例文
最後に、「貧すれば鈍する」の使い方を実際の例文で確認しておきましょう。
- 貧すれば鈍するの教訓から、大学くらいは卒業しておこう。生涯年収がだいぶ変わってくるからね。
- 会社を辞めて無収入になってから、毎日の行動が本当に卑しくなった。「貧すれば鈍する」は事実だったよ。
- 貧すれば鈍すると言うが、最近は高いか安いかでモノの価値を決めるようになってきた。我ながら嫌になるね。
- お金持ちで幸せそうだった彼だが、事業に失敗してからは人が変わったように狂ってしまった。貧すれば鈍するとはこのことである。
- コロナで会社の利益がだいぶ減ってきた。貧すれば鈍するとならないように、今の状態から抜け出すことを考えよう。
- 昔から日本人は「貧すれば鈍する」と伝えてきた。貧しくなると人は頭の働きがどんどんと鈍ってくる。
「貧すれば鈍する」は上記のように、「貧しくなると心に余裕がなくなり、性格や頭の働きまで悪くなる」という意味で使われます。多くは、元々は金持ちで優秀だった人もしくはそれなりの収入を得ていた人を対象とします。
逆に、元から貧乏だった人や最初から能力が低かった人には使いません。あくまで、以前はちゃんとした人生を送っていた人が、貧乏になってしまった結果、その人が愚かになってしまったという意味で使います。
「貧しい」と聞くと何となくお金持ちが貧乏人を見下すようなイメージですが、実際にはそのような使い方はしないので注意してください。
まとめ
以上、今回のまとめとなります。
「貧すれば鈍する」=人は貧しくなると才気や高潔さが失われてしまうこと。
「語源・由来」=貧しくなると、(お金以外の事に)鈍くなることから。
「類義語」=「人貧しければ智短し・窮すれば鈍する・馬痩せて毛長し・衣食足りて礼節を知る」など。
「対義語」=「貧にして楽しむ・大きな家には大きな風」
「英語訳」=「Poverty dulls the wit.」「If you are poor, you will be dull.」
「貧すれば鈍する」とは、貧乏になると頭の働きが悪くなったり、品性が卑しくなったりすることを表します。意味を知ったからには、そうならないように明日からの人生に備えていきたいものです。