『擬似群衆の時代』は、現代文の教科書に取り上げられている評論です。ただ、本文を読むとその内容や筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。
そこで今回は、『擬似群衆の時代』のあらすじや要約、テスト対策などを含め簡単に解説しました。
『擬似群衆の時代』のあらすじ
本文は、行空きによって4つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介しておきます。
①私たちの都市には、大型のスクリーンが氾濫するようになった。建築物が映像装置と一体化し、建築は紙に描かれていた時代とは大きく異なる様相をしている。新しい建築はますます映像のような自由度をもち、流動する映像体としての構築物として存在する。近い将来、これらの映像建築は相互につながり、宇宙から見れば、ひとつの巨大映像装置すなわち「ピクチャープラネット」にも見えるであろう。
②ベルリンの壁が崩壊するまで、群衆現象はマスメディアと切り離すことのできない関係にあり、マスメディアは権力と群衆を媒介するものとして大きな影響力をもってきた。現在、新しい種類のメディアである情報通信端末は、小型化と複合化を特徴とし、移動型のパーソナルメディアとして人間社会のいたるところに入り込んでいる。情報化社会が進み、情報管理が行き届いた現在、二十世紀の群衆がマスメディアととりもっていた関係とは、質的に違う状態のポスト情報化社会に入りつつある。そしてこのことが今日の群衆に、新たな性格を与え始めているように思える。
③その一つは、擬似群衆の増大である。インターネット上に形成されているコミュニティや仮想都市などに集まる擬似的な群衆が、実在の群衆を凌駕してしまうという現実がある。もう一つは、非決定性の増大とでも呼ぶべきものだ。多くの情報チャンネルをもった個人は、意思の決定を先延ばしにする傾向がある。決定しない群衆が、さまざまな局面において影響を増してゆくのである。
④ポスト情報化社会を形成する最大の群衆は、目に見えない「待機する群衆」ではないかと思う。情報システムを通じてつながっている群衆は、常に何かを待っている。常に待機することを余儀なくされる人々がいかなる力を潜在させているのか、それが見えてくるかどうかは、芸術や政治にとって無視のできないテーマになるであろう。
『擬似群衆の時代』の要約&本文解説
現代の社会は情報化が高度に進み、今までの群衆とマスメディアの関係とは決定的に異なるものになっています。
ベルリンの壁が崩壊するより前は、群衆はテレビやラジオなどのマスメディアと切っても切り離せない関係でした。ところが、スマートフォンなどの小型メディアの登場により、私たちはいつでも音楽や映像を楽しめるだけでなく、様々な情報を自ら配信できるようにもなりました。
この事により、今日の群衆は「擬似群衆の増大」と「非決定性の増大」という二つの性格を持つようになったのだと筆者は続けます。
「擬似群衆の増大」とは、「実際の群衆とは異なった、インターネット上に集まる人々が増えていること」です。例えば、YouTubeやTwitterなどに多くの人々が集まり始めていることなどはまさにそうです。
そして、「非決定性の増大」とは、「より多くの情報を手にしながら、最後の瞬間まで心を決めないあり方が増えていること」です。日常生活の買い物や選挙への投票などを、最後の最後まで決めずに意思の決定を先延ばしにするような傾向を指しています。
最終的に筆者は、ポスト情報化社会(次の情報化社会)を形成する最大の群衆は、目に見えない「待機する群衆」なのではないかと考察しています。そして、「待機する群衆」が芸術や政治にどのような影響を及ぼすのか考える必要があると述べています。
全体としては、「メディアと群衆の関係の変容」「擬似群衆が発生した意味や社会的背景」「待機する群衆が社会に与える影響」といった内容を理解することが読解のポイントとなります。
『擬似群衆の時代』の意味調べノート
【群衆(ぐんしゅう)】⇒群がり集まった大勢の人々。
【趣(おもむき)】⇒感じ。ありさま。
【氾濫(はんらん)】⇒あふれるほど、多く出回ること。
【四六時中(しろくじちゅう)】⇒二十四時間中。一日中。
【コンピューター・グラフィックス】⇒コンピューター技術を用いて描く、絵や図形などの画像。
【様相(ようそう)】⇒物事の様子。ありさま。
【構造計算(こうぞうけいさん)】⇒建物が荷重に対してどのように変形し、どう応力が発生するかを計算すること。
【リアルタイム】⇒即時。同時。
【制御装置(せいぎょそうち)】⇒コントロールする仕組み。
【孤立(こりつ)】⇒ここでは、映像建築同士がつながらずに単独で存在していることを表す。
【ピクチャープラネット】⇒画像惑星。
【遡って(さかのぼって)】⇒もどって。
【複製メディア】⇒複数媒体。ここでは、写真を指す。
【大衆社会(たいしゅうしゃかい)】⇒政治・経済・社会・文化などのあらゆる領域で、大衆が重要な役割を果たす社会。
【年中行事(ねんじゅうぎょうじ)】⇒毎年、特定の時期に行われる一定の儀式や行事。催し物。
【群衆現象(ぐんしゅうげんしょう)】⇒事のある時に見られる群衆の行動。
【日増しに(ひましに)】⇒日を追うごとに。日が経つにつれて。
【崩壊(ほうかい)】⇒崩れて壊れること。
【マスメディア】⇒大衆媒体。新聞、テレビ、ラジオ、映画など大衆向けの報道媒体。
【端的(たんてき)】⇒はっきりと。
【情報化社会(じょうほうかしゃかい)】⇒インターネットの普及により、情報が資源と同等の価値をもつようになり、それらを中心として機能するようになった社会。
【旗印(はたじるし)】⇒主義・主張など、行動の目標とする事柄。
【情報管理(じょうほうかんり)】⇒情報を有効利用し、効率的に運用すること。また、情報の漏洩などを防ぐための管理。
【とりもっていた】⇒結んでいた。
【ポスト情報化社会】⇒情報化社会の次に来る社会。「ポスト」とは「次の・後の」などの意味。
【擬似群衆の増大(ぎじぐんしゅうのぞうだい)】⇒実際の群衆とは異なったインターネット上に集まる人々が増えていること。
【仮想都市(かそうとし)】⇒実際の都市ではないインターネット上の仮想都市。
【隔離(かくり)】⇒隔てられていること。
【凌駕(りょうが)】⇒他のものを上回ってしのぐこと。
【非決定性の増大(ひけっていせいのぞうだい)】⇒より多くの情報を手にしながら、最後の瞬間まで心を決めないあり方が増えていること。
【局面(きょくめん)】⇒物事のその時の状況や状態。
【特有(とくゆう)】⇒そのものだけが特にもっていること。
【潜在(せんざい)】⇒表面に表れずに中に隠れて存在すること。
【装い(よそおい)】⇒ここでは、「見かけ・外観」の意。
【待機する群衆(たいきするぐんしゅう)】⇒情報システムを通じてつながりながら、常に何かを待っている群衆。
【余儀(よぎ)なくされる】⇒そうせざるを得なくなる。
【潜在(せんざい)】⇒表面に現れず、ひそみ隠れていること。
『擬似群衆の時代』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①行列がタえない。
②仲間からコリツする。
③タンテキに示す。
④カンシの社会。
⑤記事をトウコウする。
⑥自宅でタイキする。
⑦センザイ的な力を持つ。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)建築物が映像装置と一体化する現状は、今日の建築の方向性とは真逆であり、紙に描かれた時代とは大きく異なる様相をしている。
(イ)メディアの小型化と複合化により、情報の配信技術は高度化し、個人がさまざまな情報を配信することも日常的となった。
(ウ)情報管理が行き届いた現在、二十世紀の群衆がマスメディアととりもっていた関係とは、質的に違う状態であるポスト情報化社会に入りつつある。
(エ)ポスト情報化社会を形成する最大の群衆は、情報システムを通じてつながっている目に見えない「待機する群衆」である。
まとめ
以上、今回は『擬似群衆の時代』について解説しました。この評論は定期テストなどにもよく出題されています。ぜひ正しい読解ができるようになって頂ければと思います。