「悦に入る」という慣用句は普段の文章でもよく使われています。
ただ、読み方や由来、言葉の成り立ちなどが気になるという人も多いのではないでしょうか?また、似たような言葉で「悦に浸る」も目にしますが、「入る」と「浸る」との違いも気になる所です。
本記事では、そのような疑問を含め「悦に入る」の意味や語源、類語、誤用表現などを解説しました。
悦に入るの読み方と意味
最初に、「悦に入る」を辞書で引いてみます。
【悦に入る(えつにいる)】
⇒事がうまく運び、満足して喜ぶ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「悦に入る」は「えつにいる」と読みます。
よく間違われる読み方として、「えつにはいる」がありますので注意して下さい。「入る」は「はいる」ではなく、「いる」と読むようにします。
「悦に入る」とは「物事がうまくいき、満足して喜ぶこと」を表します。
この場合の「喜ぶ」とは、誰かにほめられた時の喜びというわけではなく、あくまで自分で何かを達成したことによる喜びという意味です。
つまり、「自己満足」や「自己完結」といったイメージです。
例えば、コックさんであれば、自分が作った料理の味がおいしければ満足するはずです。また、大工さんであれば、自分が作った家の完成度が高ければ喜びを感じるでしょう。
このように、自分自身が達成した喜びに対して、ひそかに満足して喜ぶことを「悦に入る」と表現するわけです。
悦に入るの語源・由来
「悦に入る」の「悦」という字は、左側の部首が「りっしんべん」で、「心」を表す象形文字です。そして、右側の上の部分は「口」を、右側の下の部分は「人」を表しています。
すなわち、「悦」という字は「人が口で祈ることにより、心の不安が消えて喜ぶ」というのが原義となります。
一方で、「悦に入る」の「入る」は文字通り「どこかに入る」という意味です。これは普段から使われているように、「家の中に入る」「水の中に入る」などと同じ意味の言葉です。
以上をまとめますと、「悦に入る」は「心の不安が消えて、中に入るように喜ぶこと」というのが元々の意味となります。つまり、外側へ喜びを発散させるのではなく、心の中で喜びをかみしめるような意味が込められているということです。
よく誰にも分からないように、嬉しそうにニヤニヤしている人を見かけますが、「悦に入る」はまさにそのようなイメージだと考えてください。
場合によっては、周りの人が当人の喜びに気づかないことすらあるのが「悦に入る」という表現となります。
悦に浸るは誤用か?
「悦に入る」と似た表現で「悦に浸る(えつにひたる)」が使われることがあります。
結論から言いますと、「悦に浸る」は誤用です。このような言葉は存在しませんので間違っても使わないようにしてください。
では、なぜ「悦に浸る」という表現をよく目にするのでしょうか?その理由は、「喜びに浸る」と混同している人が多いからだと思われます。
「喜びに浸る」とは「喜びにより満足した状態になること」という意味で、実際に使われている正しい慣用句です。そのため、両者をごっちゃにしている人が一定数いるということでしょう。
すでに説明したように、「悦」は「心の不安が消えて喜ぶ」という意味なので、心の内側へベクトルが向いていく言葉です。
「浸る」だと外側に向いてしまうことになるので、本来の意味とはかけ離れてしまいます。そのため、どうしても「浸る」という言葉を使いたい場合は、「喜びに浸る」を使うことを推奨します。
悦に入るの類義語
続いて、「悦に入る」の類義語を紹介します。
以上が主な類義語となります。この中でもよく使われるのが、「ほくそ笑む」です。
「ほくそ笑む」も同じように「一人ひそかに満足して喜ぶ様子」を意味します。したがって、「ほくそ笑む」は「悦に入る」の同義語だと考えて問題ありません。
その他の類義語は単に「喜ぶこと」「満足すること」という意味なので、全く同じ意味というわけではありません。
悦に入るの対義語
逆に、「悦に入る」の「対義語」としては次の言葉が挙げられます。
反対語の場合は一人で喜ぶのではなく、「(一人で)悔しがること・悲しむこと」などを表した言葉となります。
「ほぞをかむ」の「ほぞ」とは「へそ」のことです。へそを噛もうとしても到底無理であることから、すでに起こってしまったことを悔やんだりする際に用いられます。
悦に入るの英語訳
「悦に入る」は、英語だと次のように言います。
「to be pleased with oneself」
直訳すると、「自分自身の中で喜ぶ」という意味です。英語では直接的に表現するのではなく、このように間接的に喜ぶ様子を表現します。
また、少し難しい単語だと「gloat」なども使うことができます。「gloat」とは「ほくそえむ」という意味の動詞で、こちらも同じように「悦に入る」と同じ意味で使うことが可能です。
例文だと、それぞれ次のような言い方です。
She seems to be satisfied with herself.(彼女は一人、悦に入っているように見える。)
He gloated over his rival’s failure.(彼はライバルの失敗に対し、ひそかにほくそえんだ。)
悦に入るの使い方・例文
最後に、「悦に入る」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 彼は自分の仕事ぶりの満足したのか、一人で悦に入っていた。
- 納得のいく絵をようやく完成することができたので、一人悦に入った。
- 彼女は自撮り写真をうまくとれたため、悦に入った表情をしているようだ。
- 今日は終始いい流れだったので、対局中にもかかわらず一人悦に入ってしまった。
- プロ野球の開幕戦に勝っただけで、「今年は優勝できる」と悦に入るのはあまりに早すぎる。
- よほどよい出来で満足したのか、その料理人は自分の料理を披露した後、一人悦に入っていた。
- 彼女はみんなに対して愛想がいいが、そんな彼女に対して彼はニタニタと悦に入った表情をしていた。
「悦に入る」は、その人が喜んだり満足したりするときに使われます。そのため、基本的には良い意味として使われる慣用句と考えて問題ありません。
ただし、一人よがりな自己満足であったり勘違いした喜びを強調したりするような場面では、悪い意味として使われることもあります。
例えば、最後の7の例文です。この場合はみんなに愛想のいい彼女に対して、一人よがりな自己満足をしている彼を皮肉った文章となっています。
「悦に入る」はこのように皮肉をこめて使われることもあると覚えておきましょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「悦に入る(えつにいる)」=物事がうまくいき、満足して喜ぶこと。
「語源・由来」=心の不安が消えて、中に入るように喜ぶことから。
「類義語」=「ほくそ笑む・満悦する・満悦する・勝ち誇る・喜悦・愉悦」など。
「対義語」=「ほぞをかむ・悲嘆にくれる」
「英語訳」=「to be pleased with oneself」「gloat」
「悦に入る」はよく使われるだけに、「悦に浸る」などの誤用も多い慣用句です。この記事をきっかけに、ぜひ正しい使い方をして頂ければと思います。