「じつじょう」という言葉は、二つの漢字が使われています。
「実情に沿った対策」「被害の実状に応じて~」
両方とも似たような使い方がされていますが、どのように使い分ければいいのでしょうか?今回は「実情」と「実状」の違いについて詳しく解説しました。
実情の意味
まず、「実情」の方を辞書で引くと次のように書かれています。
【実情(じつじょう)】
①物事の実際の事情・情況。
②偽りのない心情。真情。まごころ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「実情」には二つ意味がありますが、一般的には①の意味として使われます。
すなわち、「物事の実際の事情・情況」という意味です。この場合は「(内面的な)実際の事情・状況」という意味だと考えてください。
「内面的」とは「目に見えない様子」、「事情」とは「理由や経緯を含めた現在の様子」という意味です。つまり、外から見ても分からないような現在の様子を「実情」と言うわけです。
例えば、被災地の様子というのは多くの人が表面的なニュースでしか知りません。そこで、なかなか見えてこない様子や状況を、実際に足を運んで伝えた人がいたとします。
このような場面では、「被災地の実情を現地に行って調査する。」などのように言うことができます。
念のため、②の方の意味も確認しておくと、こちらは「偽りのない心情・真情」という意味です。
「真情」とは「嘘や偽りのない心のこと」を表します。例えば、その人の言葉が嘘のない本音であったならば、「彼の言葉には、実情が表れていたようだ。」などのように用いられます。
実状の意味
続いて、「実状」の意味です。
【実状(じつじょう)】
⇒物事の実際の事情・情況。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「実状」とは「(外面的な)実際の事情・状況」という意味です。「外面的」とは「内面的」の反対語で、「目に見える様子のこと」を表します。
例えば、車で言えば事故、家で言えば損壊など目に見えるような被害状況に対して、「被害の実状を報告する」などのように用います。
「実状」とはこのように「実際に目で見ることのできる外面的な様子」を表した言葉だと考えて下さい。なお、「実状」の方は「実情」と異なり、一つの意味しか持っていません。
実情と実状の違い
ここまでの内容を整理すると、
「実情」=(内面的な)実際の事情・状況。真情。「実状」=(外面的な)実際の事情・状況。
ということでした。
両者の違いは二つに分けて考えると分かりやすいです。一つ目は、内面的か外面的かということです。
すでに説明したように、「実情」の方は、目に見えないような内面的な様子を表します。例えば、「芸能界の実情」であれば、「外から見ても分からないような裏事情」という意味が強調されることになります。
一方で、「実状」の場合は目に見えるような外面的な様子を表します。よくあるのが、「被害の実状」という使い方です。被害というのは、実際に目に見えていることが多いので、「実状」の方を使うわけです。
そして二つ目は、本当の気持ちという意味を含むかどうかです。
「実情」は、「本当の気持ち」という「感情」の意味でも使うことができます。ところが、「実状」の方はこのような使い方はできません。
その理由は、両者の漢字を比較すれば一目瞭然でしょう。
「実情」の「情」は、「心情」「感情」などがあるように人間の精神面を表す言葉です。一方で、「実状」の「状」は、「状況」「状態」などのように物事の様子を表す言葉です。
したがって、感情や気持ちを伝えるような場合は「実情」の方しか使えないわけです。
ただし、実際には「感情」の意味の場合は、「実情」そのものよりも「真情」そのものを使うことの方が多いです。よって、「内面的か?外面的か?」という基準が実質的な使い分けになると言えるでしょう。
ところで、「内面的か外面的か」という判断は、場合によってはその線引きが難しいケースもあります。
そのため、新聞やテレビなどのメディアでは「実情」を使うことで統一しているようです。逆の言い方をすると、「実状」の方は使わないということです。
これは、混乱をさけるためと「実情」の方がより広い意味を持っているからだと思われます。つまり、どちらも実際に使われているものの、「実情」の方がより一般的な言葉という結論になります。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【実情の使い方】
- 芸能界の実情が、A氏によって暴露された。
- 実情に沿った計画を一から練り直してください。
- 被災地の実情に合わせて、顔出しの取材は控えられた。
- 実情にそぐわないので、あなたの考えは非現実的だ。
- 彼は自分の感情を抑えていたが、ついに実情を暴露した。
【実状の使い方】
- 警察官はすぐに現場に到着し、被害の実状を報告した。
- これが生活に苦しんでいる学生たちの実状です。
- 若者の車離れの実状を、実際に目の当たりにする。
- バブル崩壊後の不動産業界は、不安定な実状が続いた。
- 実状に即すように、新型コロナウイルスの検査は行われた。
「実情」の方は、目に見えないような内面的な様子に対して使われています。対して、「実状」の方は目に見えるような外面的な様子に使われていることが分かるかと思います。両者を比較して、場面によって使い分けるようにしてください。
なお、両者の類義語としては、次のような言葉が挙げられます。
「実態・現状・真実・真相・現況・状況・内情」
この中でも、「実態」はニュースなどでよく使われる言葉なので覚えておいたほうがよいでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「実情」=(内面的な)実際の事情・状況。真情。
「実状」=(外面的な)実際の事情・状況。
【違い】⇒実情は内面的だが実状は外面的な様子。また、実状は「真情」という意味では使えない。
【使い分け】⇒どちらも使えるが、メディアは「実情」で統一。(実情の方がより一般的な言葉)
ポイントは、それぞれの語源を覚えておくことでした。違いを忘れそうになったら、どのような漢字の成り立ちになっていたかを思い出すようにしましょう。