『不均等な時間』は、教科書・現代の国語で学ぶ評論文です。定期テストなどにも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる部分も多いです。そこで今回は、『不均等な時間』のあらすじや語句の意味、200字要約などを簡単に解説しました。
『不均等な時間』のあらすじ
本文は大きく分けて、次の四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①私は春になると上野村の人々といっしょに、山菜取りに出かけるが、その隣村では上野村とは全く異なる農業を行っていた。上野村の人々は、この隣村の農民たちに感嘆しているのに、自らの営む伝統的な山村農業に従い、少しもまねしようとしない。
②上野村の農業は伝統的な畑仕事として行う。季節の循環とともに作物を作り、その作物を利用して暮らしている。時間は終わることも区切られることもなく循環しているのである。一方で、隣村の農業は農業経営である。この村では、農地が商品の生産工場になっており、労働時間の作り出す経済価値がすべてである。時間は客観的に動き続け、この時間にいかに対応していくかが求められる。上野村の人々が「先進的」で近代化された農業経営をまねしようとしないのは、暮らしや人々の意識のすべてを変えてしまうことを知っているからであろう。
③近代化とは、時間の合理性を確立することである。これは、近代的な商品の生産過程の成立により徹底された。だが、そのことにより、私たちは新しい矛盾に直面することになる。一つは、自然と時間の間の矛盾の発生である。自然は本来、循環する時間世界の中に生きているが、近代的な時間基準に従って自然を改造する「大事業」が行われ、自然の時間を破壊しながら、自然そのものの存在を追い詰めていった。もう一つは、一次産業における矛盾である。もともと一次産業は自然の営みと人間の営みが重なり合うことで成り立つ産業であったが、商品生産の論理だけが貫かれることになり、自然の時間の成立を許さなくなっていった。
④他者の存在を保証するには、他者の存在とともにある時間世界を壊さないことが必要である。一次産業に商品の生産過程の合理性を確立しようとすればするほど、他者としての自然の時間は壊され、自然の存在や生命力を低下させ、一次産業そのものが壁に突き当たってしまう。この問題は、私たちが循環する時間世界を再び作り出す、あるいは循環する世界の中での存在の形を創造することによってしか解決しない。
『不均等な時間』の要約&本文解説
筆者はまず第一段落で、上野村と隣村の農業形態の違いについて述べています。上野村では、伝統的な畑仕事による農業なのに対し、隣村では機械を使った近代的な農業を行っているという内容です。
次の第二段落では、伝統的な時間世界と近代的な時間世界を対比しています。前者は、時間が区切られることなく循環し、人々の営みもその流れの中にあるのに対し、後者、は時間が経済価値を生むかどうかで分けられ、客観的なものとして管理されるようになったというものです。
第三段落では、近代的な時間世界が生み出す問題について述べています。近代社会が作り出した時間世界は、循環する時間世界の中に生きる自然の時間を破壊し、自然そのものの存在を追い詰めていったという内容です。
第四段落では、この問題の解決に必要なことについて述べています。筆者は、この問題を解決するには、私たちが循環する時間世界を再び作り出すか、あるいは循環する世界の中での存在の形を創造するしかないと結論付けています。
全体を通して筆者が主張したいことは、最後の第四段落に集約されていると言えます。
『不均等な時間』の意味調べノート
【耕作(こうさく)】⇒田畑を耕して穀物・野菜などを栽培すること。
【裾野(すその)】⇒山麓(さんろく)の緩やかな傾斜地。「山麓」とは山のふもと、山の下の方の部分という意味。
【開墾(かいこん)】⇒山や荒れ地などを切り開き、農耕できる田畑にすること。
【高冷地(こうれいち)】⇒標高が高く、寒冷な土地。
【感嘆(かんたん)】⇒感心してほめたたえること。
【大百姓(おおびゃくしょう)】⇒多くの田畑を所有している百姓。「百姓」とは「農業に従事する人。農民」という意味。
【称賛(しょうさん)】⇒ほめたたえること。「賞賛」とも書く。
【造成(ぞうせい)】⇒手を加えて、ある形につくること。
【営農(えいのう)】⇒農業を経営すること。
【循環(じゅんかん)】⇒一回りして、また元の場所や状態に返り、それを繰りかえすこと。
【投資(とうし)】⇒利益を得る目的で、事業や不動産などに資金を投下すること。
【相違(そうい)】⇒二つのものの間にちがいがあること。
【付与(ふよ)】⇒さずけ与えること。
【余暇(よか)】⇒余ったひまな時間。仕事の合間などの自由に使える時間。
【客観的(きゃっかんてき)】⇒特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま。⇔「主観的」
【先進的(せんしんてき)】⇒文化・経済・技術などにおいて、他より発展の度合いが進んでいるさま。⇔「後進的」
【転換(てんかん)】⇒性質・傾向・方針などが、今までとは違う方向へ変わること。
【合理性(ごうりせい)】⇒論理の法則にかなった性質。むだなく能率的に行われるような物事の性質。
【基盤(きばん)】⇒物事を成立させるための基礎となるもの。土台。
【等速性(とうそくせい)】⇒等しい速さで流れる性質。
【不可逆性(ふかぎゃくせい)】⇒逆戻りできない性質。
【措定(そてい)】⇒ある事物・事象を存在するものとして肯定すること。
【矛盾(むじゅん)】⇒二つの物事が食い違って、つじつまが合わないこと。
【衰弱(すいじゃく)】⇒衰え弱ること。
【部面(ぶめん)】⇒物事をいくつかに分けた一つの部分。
【不均等(ふきんとう)】⇒二つ以上のものの間に差が生じていること。
【蛇行(だこう)】⇒蛇がはうように、くねくねと左右に曲がって行くこと。
【改修(かいしゅう)】⇒悪い部分を直すこと。
【一次産業(いちじさんぎょう)】⇒産業のうち、農業・林業・水産業など直接自然に働きかける事業。第一次産業。
【介在(かいざい)】⇒両者の間に存在すること。
【調和(ちょうわ)】⇒二つ以上の物事が、矛盾や衝突などがなく、まとまっていること。
【重層的(じゅうそうてき)】⇒いくつもの層になって重なっているさま。
【純化(じゅんか)】⇒複雑なものを単純にすること。単純化。
【保障(ほしょう)】⇒ある状態がそこなわれることのないように、保護し守ること。
【遂げる(とげる)】⇒目的を達する。やり終える。
【深化(しんか)】⇒)物事の程度が深まること。また、深めること。
【破綻(はたん)】⇒物事が、修復しようがないほどうまく行かなくなること。
【推進(すいしん)】⇒物事がはかどるように、積極的に行う。推進する。
【創造(そうぞう)】⇒新しいものを初めてつくり出すこと。
『不均等な時間』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①宅地をゾウセイする。
②血液がジュンカンする。
③有給休暇をフヨする。
④神経がスイジャクする。
⑤ダコウ運転を罰する。
⑥経営がハタンする。
次の内、本文の内容を適切に表したものを選びなさい。
(ア)上野村の農業は大型トラクターを使った大規模な畑仕事として展開し、季節の作物とともに作物を作り、村人もまた季節とともに循環する生活をおくっている。
(イ)時間の客観化と統一は、近代社会の基盤であったため、社会が近代化するにつれ、人々は伝統的な時間世界から離脱し、合理的な時間世界へと住み移らなければならなかった。
(ウ)自然の時間世界と人間の時間世界は、本来、別の時間世界にあるものなので、両者を矛盾なく調和することは自然の営みと人間の営みを対立させるだけになってしまう。
(エ)自然の力に頼ることが求められる一次産業においては、生産過程の持つ合理性を確立することが重要であり、自然と時間の間に起こる矛盾を解決することが一番に求められる。
まとめ
以上、今回は『不均等な時間』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として見直して頂ければと思います。