足 脚 違い 使い分け 漢字

「あし」を漢字で書く場合、「足」と「脚」の2つが使われています。ただ、この場合どちらの漢字を使えばよいのかという問題があります。

そこで本記事では、「足」と「脚」の違い・使い分けについて詳しく解説しました。

「足」と「脚」の意味

 

まず、両者の意味を簡潔に述べると以下のようになります。

」=足首から下もしくは靴を履く部分のこと。

」=足首の上から腰の部分までのこと。

つまり、「足」は「足首から下の部分」を指すのに対し、「脚」は「足首から上の腰部分まで」を指すということです。

」は英語だと「foot」と表記され、「足の裏」「足の爪」「足が速い」などのように用います。具体的な箇所だと、「くるぶしから始まり、足の先の部分まで」のことです。

一方で、「」は英語だと「leg」と表記され、「脚が長い」「机の脚」「テーブルの脚」などのように用います。こちらは「足首から上の部分」、すなわち「くるぶし部分から人や動物の骨盤部分までのこと」を指します。

また、生き物以外だと机やイスなどの本体を支える部分のことを「脚」と書く場合があります。いずれにせよ、「足」は部分的・局所的な箇所を指すのに対し、「脚」は「足」よりももっと広い下半身全体を指すということです。

「足」と「脚」の違い

 

ただ、難しいのは「あし」という言葉は、他にも複数の意味や使い方が存在するということです。

昭和47年に国語審議会漢字部会が作成した【「異字同訓」の漢字の用法】という資料があります。これによると、「足」と「脚」の用例は以下のように記述されています。

」=足の裏。手足。足しげく通う。客足。

」=机の脚(足)。えり脚(足)。船脚(足)。

」の方は人間や動物のあしから派生して、「動きを伴い、ある場所に達する」という意味での使い方もされています。

【例】⇒「しげく通う」「客

他には「駆け足・並み足」なども、動きによって別の場所に達する意味としての用例に当てはまります。

対して、「」の方はまず「物体や構造物などを支える働きをするもの」という意味で書かれています。

【例】⇒「机の(足)・イスの(足)・襟(足)」

この意味の場合は、(足)とあるように「足」を使っても差し支えないという見解を示しています。

さらに、「人間や動物以外の進行、移動する物事の移り行く状態を表したもの」という意味もあります。

【例】⇒「雨(足)・風(足)・雲(足)・日(足)・船(足)・櫓(足)」など。

この意味の場合も、(足)とあるように、「足」の方を使っても問題ありません。ただ、雨や風、雲などの自然現象、あるいは船などの移動物を対象とする時は一般に「脚」を使うことの方が多いです。

「足」と「脚」の沿革

足 脚 沿革

「足」と「脚」にそれぞれ使い分けが生じてくるのは、両者が歩んできた漢字の沿革(歴史)が関係しています。

元々、昭和23年の内閣告示である「当用漢字音訓表」では、「あし」という字訓は「足」だけが掲げられて「脚」は掲げられていませんでした。

それまでは、「机の脚、雨脚、風脚、雲脚、日脚、船脚」などと書く習慣のあった言葉も、音訓表に従い「机の足、雨足、風足」もしくは「机のあし、雨あし、風あし」などと書いていたのです。

ところが、昭和48年に新しく制定された内閣告示である「当用漢字表」には、「脚」にも「あし」の字訓が掲げられるようになりました。そして、その語例に「机の脚」と表記されるようになったのです。

さらに、現行の昭和56年の内閣告示「常用漢字表」においても、「脚」の音訓欄に字訓「あし」が掲げられるようになりました。このような経緯もあり、現在では「足」と「脚」の両方の表記が存在し、場面によって使い分けられているのです。

現在では、「脚」を字訓で「あし」と使う場合は、前述のように「机の足、船足」としても差し支えはありません。しかし、「脚」・「足」を字訓で「キャク」「ソク」と用いる場合は、「脚部」と「足部」、「三脚」と「三足」などのように意味によって使い分ける必要があります。

その他、「橋脚(きょうきゃく)」、「健脚(けんきゃく)」などと書く場合も「橋足」、「健足」などと表記してはいけません。この点は「脚」と「足」の使い分けにおいて、注意しなければいけない点だと言えます。

報道業界での使い分け

 

なお、新聞などの報道業界では次のような使い分けを行っているようです。

【あし】

」〔一般用語〕足跡、足音、足掛かり、足がつく、足が速い、足癖、足代、足手まとい、足止め、足踏み、足を洗う、足を出す、足を棒にする、後足で砂を掛ける、勇み足、襟足、客足、球足が速い、逃げ足、抜き足差し足

「脚」〔主として脚部〕脚長バチ、脚の線が美しい、雨脚、後脚、追い込み脚<競馬>、差し脚<競馬>、末脚<競馬>、机の脚、橋の脚、日脚、船脚

出典:『新聞用語集(昭和56年)』

上記一覧は、昭和56年版の『新聞用語集』に記述されているものです。

おおむね今まで紹介した通りの使い分けですが、報道業界では人に対しては基本的に「足」を使います。他には、「足を洗う」「足を出す」などの慣用句、「足が速い」などのような比喩表現も「足」を使います。

対して、「脚」も人のあしに対して使うことができますが、こちらは同じ生き物でも昆虫や馬などに対して多く使うようです。

特に、競馬の専門用語としてのあしは「脚」を使う傾向にあります。その他、雨風、船などに対しても「脚」を使います。

また、ここには書かれていませんが、哺乳動物に対しては「」という字を使います。「」は「肉月」に「支」という字から成り、「体の枝」を意味する言葉です。

主に医学や生物学で使われる言葉で、犬などの哺乳動物においては人の手に当てはまる部分を「前肢」、人の足に当てはまる部分を「後肢」と言います。

哺乳動物以外だと、昆虫に対しては前胸部の部分を「前肢」、胸脚の内、後方の一対のものを「後肢」と言います。

本記事のまとめ

 

以上、本記事のまとめです。

」=足首から下もしくは靴を履く部分。

」=足首の上から腰の部分までのこと。

違い」⇒「」は「動きを伴い、ある場所に達する」という意味もある。「」は「人間や動物以外の進行、移動する物事の移り行く状態を表したもの」という意味もある。

使い分け」⇒「人間や動物の足首」及び「ある場所に達する」という意では、「」を使う。一方で、「物を支える働きをしているもの」や「物の進行や移動の状態を表したもの」には基本「」を使う。

「足」と「脚」の使い分けは、明確に分けられていそうで分けられていない部分もあります。物体や構造物の支え、移動する物などに対しては原則として「脚」を使いますが、「足」を使っても完全な間違いではありません。大まかなイメージとしては、くつを履く部分が「足」、腰から下の下半身全体が「脚」と覚えておきましょう。