物事のもとになる部分を、「基礎」あるいは「基本」と言ったりします。
「基礎知識がある」「基本を徹底する」
ただ、この場合に両者をどのように使い分ければよいのかという問題があります。
そこで本記事では、「基礎」と「基本」の意味の違いをなるべく簡単に分かりやすく解説しました。合わせて「英語訳」や「応用」の意味などにも触れています。
基礎の意味・由来
まずは、「基礎」の意味からです。「基礎」には「物事の土台となる部分」という意味があります。
「基」という字は字訓が「もと・もとい」で、「土台」のことを表しています。また、「礎」という字は「いしずえ」という字訓が示す通り、「柱の下に据えた石(石据え)」を表しています。
よって、土台を表す「基」と同じく土台を表す「礎」を組み合わせることにより、「基礎」という言葉は全体として「土台そのもの」を表すことになります。
元々、「基礎」という言葉は建物を建てる時の建築物の「基礎」を由来としてできました。
建物を建てる際には、柱や屋根などの上の部分を支えるために、まず「基礎」を下に作らなければいけません。その大事な部分のことを建築用語で、「基礎」と呼んでいたのです。
現在、建築学で用いる「基礎工事」や「基礎杭」なども、まさに本来の意味として使われている言葉だと言えます。
基本の意味・由来
続いて、「基本」の意味です。「基本」には「全体の中心で、他はその周りに広がっていく」という意味があります。
こちらも語源を確認しておくと、「基」という字は同じく字訓が「もと・もとい」で「土台」のことを表しています。
そして、「本」ですが、「本」には「物事の成り立つ大切なところ」という意味があります。
「本」という字は、「農は国の本」「正直を持って本をなす」などと用いる「本」と同じものです。
この「本」は、「末(末)」の対となる語であり、「元・下・素」とは異なる意味を持っています。
したがって、この場合の「本」は、「物事の中心や大事な部分」を表すことになるのです。
基礎と基本の違い
以上の事から考えますと、両者の違いは次のように定義できます。
「基礎」=物事の土台となる部分。
「基本」=全体の中心で、他はその周りに広がっていく。
「基礎」は、元は建築用語が由来で「物事の土台となる部分」を表します。
例えば、「基礎控除」という言葉がありますが、これは「課税する金額の算定に当たって最初に一定額を差し引く部分」のことです。
「基礎控除」は、様々な控除の中で土台の部分となっています。したがって、このような場合は「基本」ではなく「基礎」を用いるのです。
同じような用例としては、次のようなものがあります。
基礎学力・基礎動作・基礎医学・基礎音階・基礎産業・基礎原価・基礎生産・基礎的集団・基礎的技能・基礎的知識
学習書や参考書などが「基礎編」「応用編」などと分かれているのも同じ理由だからと言えます。
「基礎」は全体の下にあり、その上に積み重ねていくものが「応用」なのです。
一方で、「基本」の本来の意味は「全体の中心で、他はその周りに広がっていくこと」です。
例えば、「基本給」という言葉がありますが、これは「諸手当を除いた基本的な賃金部分のこと」を表します。
別名、「本給」「本俸」とも言いますが、会社が社員に給料を払う場合、まず労働給付の中心を成す重要な部分という意味で「基本給」を支給します。
その基本給を中心として、資格手当、車両手当、残業手当など全体を取り巻く諸手当が加わり実際の給与となるわけです。
これと同じような使い方としては、次のようなものが挙げられます。
基本金・基本形・基本権・基本財産・基本設計・基本単位・基本振動・基本法則・基本的人権・基本的命題・基本的欲求
いずれも物事の中心や根本を表す意味が含まれているということが分かるでしょう。
法令用語としての違い
法令用語としての「基礎」と「基本」も、概ね同じような使い分けと考えて問題ありません。
例えば、法令名では「基礎」は次のように用いられています。
遺族補償年金の額の算定の基礎となる遺族の数に増減が生じたときは、その増減を生じた月の翌月から、遺族補償年金の額を改定する。
出典:国家公務員災害補償法第17条3項
上記の「基礎」は、遺族年金の額の算定は、遺族の数の上に積み重なっていくという考え方で使われています。
すなわち、「土台」としての意味でここでは使われているということです。
そして、「基本」の方も同じく法令名としてよく登場します。
「教育基本法・農業基本法・林業基本法・原子力基本法・交通安全対策基本法」
この場合も、「教育基本法」であれば「日本の教育の中心となる法律」という意味で使われています。
言い換えれば、他の教育関係の法令は教育基本法の周りに広がっているという意味です。
また、「農業基本法」であれば「農業の中心や根幹を成す法律」という意味で、他の農業関連の法律はそこから派生しているということです。
以上が法令での使い分けになりますが、必ずしもどちらか一方に使い分けがされているというわけではありません。
例えば、文部科学省の教育課程審議会が「改定のねらい」としてまとめたものでは、次のように書かれています。
国民として必要とされる基礎的、基本的な内容を重視し、個性を生かす教育の充実をはかる。
出典:文部科学省「改定のねらい」四項目(S61・9・9総会)
この内容を報じた新聞記事では、上記の箇所を「国民として必要な基礎・基本の重視」という意味で要約されています。
したがって、どちらを使うか決めがたいような場合は「基礎・基本」と併せて用いるのも一つの手段であるという結論になります。
基礎と基本の使い方・例文
最後に、「基礎」と「基本」の使い方を具体的な例文で紹介しておきます。
【基礎の使い方】
- 数学が苦手な人は、まずは基礎から学んだほうがいい。
- 仕事や勉強に限らず、何事もまず基礎を固めることが重要だ。
- 基礎代謝を上げるために、自宅で筋トレを始めることにした。
- 基礎工事とは、構造物の基礎を作る工事のことを意味する。
- 現行の年金システムだと、老齢基礎年金が等しく支給される。
【基本の使い方】
- まずは生活習慣の基本を身に着けることから始めよう。
- 野球は基本的なルールを理解していないとプレーするのが難しい。
- 日本では、憲法により基本的人権の尊重が認められている。
- 古典の文法で、動詞の基本形を理解することから始める。
- 原子力基本法とは、日本の原子力政策の基本方針を定めたものである。
なお、両者は「英語」だと「base」「fundament」などと言います。
形容詞になると「basic」「fundamental」となり、「基礎的な」「基本的な」という意味になります。
英語の場合は、日本語のようにそこまで意味を使い分ける習慣はないと考えて下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「基礎」=物事の土台となる部分。(建築用語が由来)
「基本」=全体の中心で、他はその周りに広がっていく。
「違い」=物事の土台を指すのが「基礎」で、全体の中心部分を指すのが「基本」。「応用」は「基礎」の上に成り立つ。
似たような言葉ですが、どちらも普段から頻繁に使われています。この記事をきっかけに、ぜひ違いを理解して頂ければと思います。