同じ数字や式を2回掛け合わせることを、「じじょう」と言います。ただ、その漢字表記については「自乗」と「ニ乗」があります。
どちらもよく使われているので、使い分けに迷う人も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、「自乗」と「二乗」の意味や読み方・違いなどを詳しく解説しました。
自乗とニ乗の意味・読み方
まず、「自乗」と「ニ乗」を辞書で引くと次のように書かれています。
【じじょう【自乗/二乗】
⇒同じ数や文字を2回掛け合わせること。平方。二乗 (にじょう)。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
【にじょう(ニ乗)】
①ある数・式に、同じ数・式を掛け合わせること。自乗。平方。
②仏語。㋐声聞 (しょうもん)乗と縁覚 (えんがく) 乗。㋑大乗と小乗。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
最初に読み方ですが、「自乗」は「じじょう」と読みます。一方で「ニ乗」も「じじょう」と読めますが、こちらは「にじょう」とも読める漢字です。
辞書によって表記が異なりますが、両者は同じ項目に統一されている場合もありますし、別々に分けられて表記されている場合もあります。
いずれにせよ、両者の読み方はそれぞれ違いがあるということになります。
そして意味ですが、普段の文章の中で使う分にはほとんど違いはありません。どちらも「同じ数や式をかけ合わせること」という意味で使うことができます。
また、場合によっては「仏教用語」として使う場合もあります。ただし、こちらの意味で使うケースはほぼないため、あえて覚える必要はないでしょう。
数学としての意味の違い
数学的な意味として使う場合もほとんど意味に違いはありません。一般的には、両者は次のような意味で使われています。
「自乗」=自分自身をかけ合わせること。
「二乗」=同じ数・式を二度掛け合わせること。
「自乗」の方は漢字の通り、自ら自分自身を掛け合わせるような時に使います。
【例】⇒「a×a」
一方で、「ニ乗」の方は同じ数や式を二回掛け合わせるような時に使います。
【例】⇒「aのn乗(n=2の場合)」
元々、日本の中学校の数学では「ニ乗」までしか学んでいませんでした。中学では三乗、四乗、五乗など数の大きいものまでは学んでいなかったのです。
そのため、中学校では生徒の混乱を避けるためにも「自乗」の方を用いるのが普通でした。(2つ以上の数字を連想させないため)
ところが、高校以上の数学ではニ乗以上の関数を学ぶことになったので、必然的に「二乗」が使われるようになりました。
このような経緯もあり、現在の数学では二つの漢字が使われているということです。
一般的には数学だと「ニ乗」は「にじょう」と読み、「自乗」は「じじょう」と読むことが多いです。「ニ乗」を「じじょう」とも読めなくはないですが、大抵の場合は「にじょう」と読みます。
自乗とニ乗の違い・使い分け
では数学以外の用途では、両者はどう使い分ければいいのでしょうか?
まず、学術用語では「ニ乗(にじょう)」を使っているという現状があります。
ところが、俗用としては「自乗(じじょう)」の方も使われています。
したがって、「じじょう」を使うとすればやはり本来の「自乗」と書くことになり、「ニ乗」と書くのは避けた方がよいということになります。
「二」の読み方は呉音だと「ニ」と読み、「漢音」だと「ジ」と読みます。そのため、「二乗」と書いて「じじょう」と読めないわけではありません。
実際に、有名な文学者である夏目漱石の作品、『三四郎』では次のような文例が残されています。
光線の圧力は半径の二乗(じじょう)に比例するが、引力の方は半径の三乗に比例するんだから~
出典:岩波版 『漱石全集 第四巻221ページ』
このような用例が、一部には存在することも事実です。
また、冒頭で紹介したように、国語辞典などでも「じじょう」の項目に「自乗/ニ乗」を並べて表記しているのもあります。
しかし、「常用漢字表」及び「当用漢字音訓表」によれば、「二」の字音は「ニ」だけであり、「ジ」とは書かれていません。
よって、「常用漢字表」と「当用漢字表」に準拠する限り、「じじょう」は「自乗」と書き、「二乗」とは書かないという結論になります。
常用漢字表などのルールがなかったとしても、「じじょう=自乗」「にじょう=ニ乗」のように書き分け、両者を読み分けた方が混乱を避けるためにも懸命と言えるでしょう。
新聞・TV界ではどう使うか?
新聞やテレビなどの放送業界では、「二乗(にじょう)」を使うことで統一しています。逆の言い方をするならば、「自乗(じじょう)」の方は使わないということです。
この使い分けは、学術用語で「二乗(にじょう)」を採用した結果に基づいたものです。
一般的には、放送業界の使い分けに準拠し、普段の文章の方でも「じじょう」と「にじょう」のどちらかを使うかとなれば、「にじょう」の方を使う傾向にあります。
ただし、この使い分けには例外があり、比喩的に用いる場合はその限りではありません。
例えば、『日本国語大辞典』では「じじょう」の項目に次のような意味を載せています。
「じじょう(ニ乗・自乗)」⇒「②(比喩的に)程度をはなはだしくすること」
出典:『日本国語大辞典』
そして、実際の用例として次の2つを掲げています。
「『惑』は悲(かなしみ)を苦(くるしみ)に変ます。苦悩を更に自乗(じじょう)させます。」
出典:運命論者<国木田独歩>二
「例によってとは今更解釈する必要もない。屢を自乗した程の度合を示す語である。」
出典:吾輩は猫である<夏目漱石>四
以上の事から考えますと、新聞やテレビなどのマスメディア及び一般的な文章では「二乗」の方を使うが、比喩的に用いる場合は「自乗」を使う方が望ましいということになります。
まとめ
では今回のまとめです。
「自乗」=「じじょう」としか読まない。
「二乗」=「じじょう」とも読めるが、一般的には「にじょう」と読む。
【数学的な違い】=「自乗」は自分自身をかけ合わせること、「二乗」は同じ数・式を二度掛け合わせること。(意味自体に違いはない)
【使い分け】=学術用語では「ニ乗」を使っており、放送業界もそれに準拠している。ただし、比喩的に用いる場合は「自乗」を使う。
どちらも使える言葉ですが、「二乗」の方が一般的な表現です。そのため、「自乗」は「二乗」の別称だと覚えておいて問題ありません。