日付や予定、時間などを移すことを「ずらす」もしくは「づらす」と言います。ただ、この場合に表記の仕方が問題になってきます。
つまり、「ずらす」と「づらす」のどちらが正しい書き方なのか?ということです。そこで今回は、両者の違いや使い分けについて詳しく解説しました。
正しいのはどっちか?
結論から言いますと、「ずらす」が正しい書き方です。
「ずらす」は、自動詞である「ずれる」を他動詞の形にしたものです。「自動詞」とは、動詞の前に「~を」などのような目的語を必要としない動詞のことを表します。
【例】⇒「私は走る」「木が倒れる」「お湯が沸く」など。
一方で、「他動詞」とは動詞の前に「~を」などのような目的語を必要とする動詞のことを表します。
【例】⇒「私は朝食を食べる・木を倒す・お湯を沸かす」など。
日本語の文法では、このように「自動詞」と「他動詞」の二つの種類の動詞が存在することになります。
「ずれる」は「机がずれる」「時間がずれる」などのように、動詞の前に目的語をとりません。対して、「ずらす」は「机をずらす」「時間をずらす」などのように動詞の前に目的語をとります。
以上の事から、「ずらす」は文法的に何も問題ない正しい表記ということになるわけです。
「づ」は間違った表記か?
ではなぜ「づらす」という表記をする人もいるのか?という話ですが、これは「ず」と「づ」の言語的な発音が似ているからだと考えられます。
例えば、両者を混同しやすい動詞というのは他にもあります。
- 「築く」⇒「きずく」が正しく、「きづく」は誤り。
- 「訪れる」⇒「おとずれる」が正しく、「おとづれる」は誤り。
その他には、動詞以外だと次のような言葉も挙げられます。
- 「気まずい」⇒「正」 「気まづい」⇒「誤」
- 「絆(きずな)」⇒「正」 「絆(きづな)」⇒「誤」
- 「融通(ゆうずう)」⇒「正」「融通(ゆうづう)」⇒「誤」
上記は、いずれも「ず」が正しく「づ」は誤りの表記です。
一方で、「づ」を用いるケースも一定数あり、例としては「片付け(かたづけ)」「望月(もちづき)」「お小遣い(おこづかい)」などが挙げられます。
実はこれらの表記に関しては、文化庁がそのルールをまとめています。以下、実際の引用部分です。
5 次のような語は,「づ」を用いて書く。
(1) 同音の連呼によって生じた「づ」
つづみ(鼓) つづら つづく(続) つづめる(約△) つづる(綴*)[注意] 「いちじく」「いちじるしい」は,この例にあたらない。
(2) 二語の連合によって生じた「づ」
みかづき(三日月) たけづつ (竹筒) たづな(手綱) ともづな にいづま(新妻) けづめ ひづめ ひげづら おこづかい(小遣) あいそづかし わしづかみ こころづくし(心尽) てづくり(手作) こづつみ(小包) ことづて はこづめ(箱詰) はたらきづめ みちづれ(道連) かたづく こづく(小突) どくづく もとづく うらづける ゆきづまる ねばりづよい つねづ(常々) つくづく つれづれ
要約すると、単語に「づ」を使うパターンは二つあるということになります。
一つは①「同じような音が続く場合」、そしてもう一つは②「二つの語がくっつくことによって生じた場合」ということです。
このルールには続きがあり、①と②以外の場合は本則として「ず」を用いると書かれています。
「ずらす」に関しては、上記の①と②のどちらにも当てはまっていません。以上の事から、「ずらす」が正しい表記であることが改めて分かるかと思います。
ずらすの意味・使い方
「ずらす」は、主に「もの・日時・予定・視点・範囲」などに対して使われます。
どの使い方であったとしても、「ずれる」のように勝手に動くわけではありません。必ず自分や他人の意思によって動かすような際に使います。
①「モノを少し動かしたり、横に動かしたりする」
- いすをずらす。
- ソファーをずらす。
- 体を横にずらす。
- 点の位置をずらす。
- 帽子を横にずらす。
②「時間や日時などを重ならないようにする」
- 会議を午前から午後にずらす。
- 出張の時間を2時間だけずらす。
- オリンピック開催の時期をずらす。
- 彼女と会う予定を来月にずらす。
- 納期をずらす契約を交わした。
③「視点や範囲を移動させたりする」
- 大衆の見方をずらす発言。
- ディベートで論点をずらす。
- 問題の解釈を都合よくずらす。
- 視線をずらす効果がある。
- ミサイルの軌道をずらす。
その他、用例としては多くありませんが、「すべきことを後回しにする」「他人の目をごまかす。あざむく。」などの意味もあります。ただ、一般には①~③の意味として使われることがほとんどです。
ずらすの言い換え・類語
「ずらす」は、次のような類義語で言い換えることができます。
- 動かす
- 移動する
- 移し替える
- 位置を変える
- 延ばす
- 先延ばす
- 延期する
- 遅らせる
- 移転する
- 移し替える
類義語は「動かす」「位置を変える」などのように形のある物理的なものを移動させる場合と、「延ばす」「先延ばす」などのように形のないものを移動させる場合に分かれます。
この中でも「延期」は比較的よく使われ、なおかつ意味も近い言葉です。「延期」は「日程や予定を移動させる」という点では、「ずらす」と同じ意味を持っています。
ただ、「延期」の場合は未来に対してのみ使い、過去に対して時間を移動させるような使い方はできません。例えば、「明日の会議を来週に延期する」は可能ですが、「来週の会議を明日へ延期する」は不可です。
一方で、「ずらす」の場合は過去に対しても未来に対しても時間を移動させる使い方ができます。似たような例文で比較すると、「明日の会議を来週にずらす」と「来週の会議を明日にずらす」、どちらも可能となります。
このように、未来に対しても過去に対しても時間や範囲を移動させることのできる動詞が「ずらす」ということになります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「ずらす」=①モノを少し動かしたり、横に動かしたりする。②時間や日時などを重ならないようにする。③視点や範囲を移動させたりする。
「表記」⇒「ずらす」が正しい表記で、「づらす」は誤った表記。
「類義語」=「動かす・延ばす・先延ばす・延期する・移転する」など。
「ずらす」と「づらす」の使い分けは、「ずらす」を使えば問題ありません。「づらす」に関しては、発音の関係上使われるようになった誤記ということになります。