「事象」という言葉をご存知でしょうか?現代文や数学の用語として用いられ、最近ではビジネスにおいて使われることも多くなりました。
ただ、同時に具体的なイメージがしにくい言葉でもあります。似たような言葉である「現象」との違いも気になるところです。
そこで本記事では、「事象」の意味や使い方、類語などをなるべく分かりやすく解説しました。
事象の意味を簡単に
まず、「事象」を辞書で引くと次のように書かれています。
【事象(じしょう)】
①ある事情のもとで、表面に現れた事柄。現実の出来事。現象。「自然界の事象」
②数学で、試行の結果起こる事柄。例えば、さいころを投げるという試行の結果からは一から六の目のどれかが出るという事象が起こる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「事象(じしょう)」には2つの意味があります。
1つ目は、「ある事情のもとで表面に現れた事柄」という意味です。この場合は、「一定の条件や環境の下で起こること」と考えれば分かりやすいです。
例えば、研究室で行う実験は、目的に応じて部屋の温度や湿度、明るさなど一定の条件や環境を用意します。
次に、これらの環境下において液体や気体、固体などの化学反応を起こします。最後に、得られた結果を実験の結果として記録に残します。
この時に表面に現れた事柄、すなわち実験結果などを「事象」と言うのです。
仮に、水素と酸素を一定の環境下に置いて結合させ、「水が生じた」という結果であれば、「水が生じたこと」が「事象」ということになります。他には、鉄粉と活性炭と食塩水を混ぜ、「熱が発生した」のであれば、「熱が発生した」という現象が「事象」ということになります。
つまり、「事象」とは何らかの環境や条件において、引き起こされる現象そのものを意味するということです。
事象は数学で使われる
「事象」にはもう一つ意味があります。それは、「試行の結果、起こる事柄」という意味です。
この意味の場合は、数学の用語として使われるのが特徴です。実際には数学の用語として使われることの方が多いです。
例えば、サイコロを投げた時に結果が予想通りになるかどうかを確かめることを「試行」と言いますが、この「試行」により引き起こされた結果のことを「事象」と言います。
サイコロというのは「1~6」まで6つの目がありますが、この内どの目が出るかは誰にも分かりません。しかし、6つの内のどれかが出るということだけははっきりしています。
そのため、サイコロを投げた場合の事象は次のように定義することができます。
- 1の目が出るという事象
- 2の目が出るという事象
- 3の目が出るという事象
- 4の目が出るという事象
- 5の目が出るという事象
- 6の目が出るという事象
このように、数学における事象に関してはそれぞれの事柄が分かれることになります。
そして、「サイコロを1回投げる」という試行に対して、上記のような起こり得る事象すべてをまとめたものを「全事象」とも言います。
また、もう一つ分かりやすい例を挙げますと、例えば52枚のトランプから1枚引き、そのカードがどんなカードであるか確かめるとします。
この場合、「トランプを1枚引く」という作業が「試行」です。そして、「どんなカードが出たか?」という結果が「事象」ということになります。
トランプの場合は、先ほどのサイコロと違い、事象がもっと複雑に分かれることになります。
- 赤いカードを引いたという事象
- 黒いカードを引いたという事象
- 絵札のカードを引いたという事象
- 奇数のカードを引いたという事象
- 偶数のカードを引いたという事象
- ハートのマークを引いたという事象
- スペードのマークを引いたという事象
- ダイヤのマークを引いたという事象
- クラブのマークを引いたという事象
いずれの事象もサイコロを転がした場合と同様に、何らかの試行により、引き起こされたものです。
このように、同じ条件のもとで繰り返し行なうことができ(試行)、その結果として引き起こる事柄のことを「事象」と言うわけです。
数学としての「事象」は、サイコロやカード以外だとコインを投げた時の結果なども使われることが多いです。
事象の類義語
「事象」の「類義語」は以下の通りです。
【事柄】⇒物事の内容や様子を表したもの。また、物事そのもの。「事象」と似ている言葉だが、「事柄」には「一定の条件・環境下において~」という意味までは含まれない。
【現象】⇒人間が知覚することのできる全ての物事。自然界や人間界に形をとって現れるもの。「現象」は「事象」とは異なり条件や環境という限定はない。
この中で一番よく使われて、なおかつ意味も似ているのが「現象」です。「現象」は、何の理由や前触れもなく目の前で起きるようなものを表します
【例】⇒「自然現象」「心霊現象」「生理現象」「フェーン現象」「エルニーニョ現象」など。
一番の特徴は、「現象」は条件や環境などが指定されないということです。
「現象」は、人間の知覚で感じることのできるあらゆる条件、環境で起こる事柄を対象とします。対して、「事象」の方は一定の環境下によって起こる事柄に対してしか使うことができません。
したがって、「現象」の方が「事象」よりも意味の範囲が広く、幅広い対象に使える言葉だと言えます。
「現象」の「現」は「現れる」とも書くように、人間が見たり感じたりすることのできる具体的・体感的な物事を対象とします。一方で、「事象」の「事」は「物事」「事柄」などの熟語があるように、「現」よりは具体性・体感性が低い抽象的な物事を対象とします。
よって、両者の意味に微妙な違いが出てくるということです。
事象の英語訳
「事象」は、「英語」だと次のように言います。
「phenomenon」
「matter」
「event」
「phenomenon」は「現象・事象・不思議なもの」という意味です。「matter」は「事・事柄・問題」、「event」は「出来事・事件・事象」などを表す単語です。
英語だと直接的に「事象」を表すのは容易ではありません。そのため、「現象・事柄・出来事」などを表すこれらの単語を使い、間接的に「事象」の意味を伝えていくこととなります。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
Typhoon is a natural phenomenon.(台風は自然現象である)
It is a matter of life and death for us. (私達にとってそれは死活問題である。)
Check all the events when you roll the dice.(サイコロを振った時のすべての事象を確認せよ。)
事象の使い方・例文
最後に、「事象」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 実験を複数回繰り返して得られた事象は、一般的な事柄よりも信憑性が高い。
- 試行によって起こり得るすべての事象をまとめたものを「全事象」と呼ぶ。
- コインを投げて表が出た時の事象と裏が出た時の事象は、確率としては同じである。
- 世の中には様々な事象があるが、表面的な事柄だけでなく本質的な事柄も見抜く必要がある。
- 彼は科学者なので、実験結果として得られるあらゆる事象に興味を抱いている。
- 長年の検証の結果、これらの事象はすべて事実であることが証明された。
- 今回導き出した事象により、今後の商品開発の方向性がある程度定まってきた。
「事象」は、先述したように数学の専門用語として使われることが多いです。ただ、文章の中で用いる場合は様々な場面で使うことができます。
例えば、実験や検証を繰り返す科学の世界においては「事象」はよく用いられます。この場合は、「一定の環境下で実験をした場合に起こった結果」という意味で考えれば問題ありません。
また、ビジネスの世界においては、試作品を提供してどのような結果が得られたかを表す際によく使われます。分かりやすい例が、「化粧品の試作品」です。
新しく販売する化粧品などは、何度も同じ条件下で実験し、商品の安全性に問題がないかをチェックします。この時の結果、すなわち「事象」が問題なければ、実際の市場に商品を供給できるということです。
ビジネスでは、顧客からの要望を取り入れて将来的にどのような商品が開発できるか参考にします。もしも試作品を出した場合の事象がよければ、当然企業としても今後のビジネスの成長につなげやすいです。
そのため、ビジネスにおいては試作品の提供をし、事象を確認することが行われているのです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「事象」=一定の条件や環境の下で、起こること。試行の結果、起こる事柄。
「類義語」=「出来事・イベント・事柄・事項・現象」
「現象」⇒現象は条件や環境などが指定されず、人間の知覚で感じられる事柄すべてを指す。
「英語訳」=「phenomenon」「matter」「event」
「事象」は普段の生活ではあまり見かけない言葉かもしれません。ただ、数学や科学、ビジネスなどにおいてはよく用いられています。この機会にぜひ正しい意味を覚えて頂ければと思います。