「自己目的化」という言葉をご存知でしょうか?
受験やスポーツ、政治など様々な分野で用いられるもので、最近ではビジネスでも使われるようになりました。ただ、どのような意味を持つの分かりにくい言葉でもあります。
そこで本記事では、「自己目的化」の意味や具体例、類語、英語などを含めなるべく簡単に解説しました。
自己目的化の意味を簡単に
「自己目的化」は「じこもくてきか」と読みます。
意味は「本来の目的を見失い、それを行う事自体が目的になること」です。
例えば、ある男性が健康増進を目的としてダイエットを始めたとします。ダイエットを始めたのは、あくまで「健康になりたい」というのが目的です。
ところが、実際にダイエットが始まると、過度な食事制限や強度のトレーニングをすることで、逆にストレスがたまり体を壊してしまいました。
この場合、本来の目的である「健康になりたい」という目的を見失っています。そして、ダイエットをすること(食事制限をしたり運動をしたりすること)自体が目的になっています。よって、「彼は自己目的化している」などと言えるわけです。
「自己目的化」とはこのように、本来は目的を達成するための手段が、いつのまにか目的自体にすり替わってしまうことを指します。もっと簡単に言えば、「手段が目的になること」です。
「自己目的化」は、広辞苑などの辞書に載せられている言葉ではありません。ただ、一般に本来の目的が忘れられたり、目的に反する事態になってしまったような時に使われます。
自己目的化の具体例
「自己目的化」の具体例をもう少し詳しくみていきましょう。「自己目的化」は、良い意味でも悪い意味でも使われる言葉です。
言い換えれば、ある行動が自己目的化するにはプラスの場合とマイナスの場合の両方が考えられるということです。
例えば、「受験勉強」というのは本来は大学へ合格するための手段に過ぎません。
英語の長文問題を解いたり、国語の読解問題を解いたりするのはすべて「大学へ合格する」という目的のために行っているはずです。
ところが、まれに受験勉強をすること自体が目的になってしまう人もいます。例を挙げますと、「いつまでたっても英単語の勉強ばかりしている」「一日10時間勉強しただけで満足している」といったことです。
この場合は、自己目的化がマイナスの作用に働く分かりやすい例だと言えます。
一方で、自己目的化がプラスの作用に働くようなケースもあります。例えば、「仕事」です。
仕事をする目的というのは様々なものが挙げられますが、一般には「生活をするため」という場合がほとんどです。分かりやすく言うと、「自分が食べていくため」「家族を養っていくため」などの目的です。
しかし、最初は生活の手段と割り切っていた仕事でも、その内容に熱中して仕事そのものに楽しみを見出すことができれば、仕事をすること自体が目的になっています。
これは仕事が自己目的化した分かりやすい例ですが、仕事が生きがいとなるのはその人の人生にとってもプラスだと言えます。よって、このような自己目的化については悪い意味ではなく良い意味で使われるということです。
自己目的化の類義語
「自己目的化」の「類義語」は以下の通りです。
「自己目的化」を言い換えた語はいくつかありますが、全く同じ意味の言葉(同義語)というのはありません。この中では、「倒錯」が意味としては一番近いです。
「倒錯」は主に現代文の用語として登場するもので、「自己目的化」と意味が重なる部分が多いです。ただ、「倒錯」の方は否定的な意味合いを込めて使われることがほとんどです。
例えば、本来、「政治家」というのは国民の利益を最優先にして考えなければいけない職業ですが、その政治家が本来の目的を忘れて、自己の名誉欲を優先して政治活動を行ったとします。
この場合は、「自己目的化」ではなく「倒錯」という言葉を使う方が適しています。
もちろん、「自己目的化」も否定的な意味で使われますが、同じ否定でも「倒錯」は世の中の秩序が乱されたり混乱したりするような場面で使われます。
自己目的化の対義語
逆に、「対義語」としては次のような言葉が挙げられます。
「自己目的化」は、目的と手段をはき違えることを表す言葉でした。したがって、反対語の場合は「最初の方針を変えない」「自分の信念を貫き通す」といった意味を持つ言葉となります。
自己目的化の英語訳
「自己目的化」は、英語だと次のように言います。
「confuse ends and means」(目的と手段をはき違える)
「confuse」は「~を混同する」という意味の動詞です。また、「ends」は「目的」、「means」は「手段」を表す名詞です。合わせることで、「目的と手段を混同する」⇒「自己目的化」と訳すことができます。
例文だと、次のような言い方です。
He is confusing ends and means.(彼は目的と手段をはき違えている。)
Don’t confuse ends and means.(目的と手段をはき違えてはいけない。)
自己目的化の使い方・例文
最後に、「自己目的化」の使い方を例文で紹介しておきます。
- ビジネスでは、優先順位を意識して自己目的化を防ぐことが求められる。
- 政府の自己目的化したコロナ対策に対し、国民の怒りと不満が爆発した。
- 昨今の学校教育は受験をすること自体が自己目的化しつつあるが、そろそろ見直すべきである。
- 良い大学へ行くために勉強することは大事だが、勉強すること自体が自己目的化してはいけない。
- 仕事で大きな成果を出した彼は、お金を稼ぐ目的から仕事自体を楽しむことへ自己目的化した。
- 現代の社会問題は様々なものがあるが、問題を解決する目的自体が自己目的化している場合もある。
- 弁護士になりたいのであれば、法律の勉強ばかりに集中する自己目的化の人間になってはならない。
先述したように、「自己目的化」はプラスとマイナスの両方の作用に対して使われます。ただ、一般にはマイナスの作用として使われることの方が多いです。
これは、元々掲げていた目的とそれを達成するための手段が入れ替わるのは、基本的には好ましい現象ではないからだと言えます。
目的と手段が入れ替わることにより、結果的には良かったり得をしたりということはあります。しかし、通常であれば受験やビジネスなどで当初立てた目的がすり替わるのはよいことではありません。
そのため、例文のように「本来の目的に反する事態になる」という意味で使われることが多いわけです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「自己目的化」=本来の目的を見失い、それを行う事自体が目的になること。
「類義語」=「本末転倒・主客転倒・冠履転倒・倒錯」
「対義語」=「首尾一貫・初志貫徹」
「英語訳」=「confuse ends and means」
「自己目的化」という言葉は、意外と普段の文章においてよく目にします。また、大学受験の評論文などにおいても出題されることがあります。ぜひ今回の内容を学んで、今後に役立てて頂ければと思います。