ビジネスシーンにおいて「喜びもひとしおです」という言い方をよく聞きます。他には、「感激もひとしおです」などとも言います。
この「ひとしお」ですが漢字だとどう表記するのか、またどのような語源なのかといった疑問があります。そこで本記事では「喜びもひとしお」の意味や使い方、例文などを含め詳しく解説しました。
喜びもひとしおの意味・漢字
「喜びもひとしお」とは「喜びがより一層大きいこと」を表した言葉です。
「ひとしお」とは「一層」という意味の副詞で「何かの程度がより一層増すこと」を意味します。
例えば、それまでの苦労がたくさんあった上での喜びや長い間努力をした後で目標を達成したような場合に、「喜びもひとしおです」などと言うことができます。
逆に言えば、この言葉はただ単に喜びの程度が大きいときには使いません。あくまで何か特別な事情や理由があって上で、一段と喜びの程度が増すような場合に使います。
そして漢字表記ですが、「ひとしえ」は「一入」と書きます。したがって、「喜びもひとしえ」を漢字で書くと「喜びも一入」と表記することになります。
よくある間違いとして、「ひとしお」を「一塩」や「一潮」と書いてしまうことがあるので注意してください。
喜びもひとしおの語源・由来
「喜びも一入」の「ひとしお」は、「染め物を染め汁の中に一回つけること」からできた言葉です。
「ひと」は数字の「一」を指し、「しお」は「染料に付ける回数」を意味しています。「染め物」は布などを染めることですが、染料に付ける回数が多ければ多いほど色も濃くなっていきます。
この事から、一回浸すごとに徐々に色が濃くなっていき、程度が増していくことを「ひとしお」と言うようになったのです。
つまり、「ひとしお」を「一入」と書くのは「一度入れる」という意味が語源となります。
「ひとしお」は日本に漢語や外来語が入って来る前からある言葉で、厳密に言いますと、大和言葉の中に含まれます。
大和言葉は、別名「和語」とも呼ばれ、簡単に言えば非常に古くある言葉のことです。古い言葉のため、現在では「ひときわ」の方を使うことが多いですが、上品さ、高潔さなどを表す際にはこの「ひとしお」を使います。
喜びもひとしおの類義語
「喜びもひとしお」は、次のような類義語で言い換えることができます。
類義語は、「より嬉しいさま・より喜ばしいさま」などを表したものとなります。その他には、「ひとしお」単体だと「特別」「各段」「特に」「とりわけ」なども似た意味の言葉だと言えます。
一方で、対義語と呼べるようなものは特にありません。「悲しみのひとしお」などの言い方もできますが、一般にはこのような表現は使われていません。
「ひとしお」という言葉は「嬉しい」「楽しい」など基本的にポジティブな感情に対して使います。「悲しい」「辛い」などネガティブな感情には使わないので注意して下さい。
喜びもひとしおの英語訳
「喜びもひとしお」は、英語だと次のように言います。
「very happy」(とても嬉しい)
「especially happy」(特に嬉しい)
英語では嬉しい様子や喜ばしい様子のことを「happy」と言います。「喜びもひとしお」は、より一層嬉しいことなので、「happy」の前に「very」や「especially」を付けて使います。
【例文】
I was very happy when I heard the news.(その知らせを聞いたときは喜びもひとしおでした。)
I was especially happy because I returned to my parents’ house for the first time in a long time.(久しぶりに実家に帰ったので、喜びもひとしおでした。)
また、少し堅い言い方だと次のような表現も可能です。
「~add greatly to one’s joy」(~が大きな喜びを付け加える)
「〜add to one’s happiness」「〜がいっそう幸せを付け加える」」
【例文】
The report added greatly to our joy. (その報道を聞いて、私達も喜びのひとしおであった。)
Your remarks will add to his happiness.(あなたの発言により、彼も喜びのひとしおだったでしょう。)
喜びもひとしおの使い方・例文
最後に、「喜びもひとしお」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 今回活躍したのは自分が手塩にかけて育てた選手ということもあり、喜びもひとしおであった。
- あいつの今までの苦労を知っているだけに喜びもひとしおだった。素直に嬉しいし、私も頑張ろうと思ったよ。
- 久しぶりの同窓会で中学の同級生と会ってきた。苦楽を共にしたからというのもあって喜びもひとしおだったね。
- 大学に無事合格することができました。苦労して一年間浪人した結果での合格ということもあり、喜びも一入でした。
- 親御さんにとっても初めての男の子が生まれたということで、喜びもひとしおのことと存じ上げます。
- この度はご結婚おめでとうございます。ご両親が大切に育てられたお嬢さまが晴れの日を迎えられて、喜びも一入のことと存じます。
- ご子息様のご結婚誠におめでとうございます。ご両親の喜びもひとしおかと思います。末長くご健康で幸多からんことをお祈り申し上げます。
「喜びもひとしお」は、上記のように様々な場面で使うことができます。受験やスポーツなどで目標を達成した時、旧友との再会、結婚式のスピーチなどその用途は問いません。
いずれも共通しているのは、その喜びの裏には今までの苦労を含めた背景があるということです。
「つらい過去や経験があるからこそ、喜びも人一倍感じる」、このような場面で使うのが本来の正しい使い方だと言えます。
なお、結婚式のスピーチなどでは「喜びもひとしおのことと存じます」と敬語にするのが適切です。
「ひとしお」の部分は漢字でもひらがなでも構いませんが、後ろは「~のことと存じます」「~のことと存じ上げます」のようにします。
本記事のまとめ
以上、本記事のまとめです。
「喜びもひとしお」=喜びがより一層大きいこと。(漢字だと「喜びも一入」と書く。)
「語源・由来」=「ひとしお」は染め物を染め汁の中に1回つけることで、程度が増すため。
「類義語」=「ひときわ嬉しい・ひとしお嬉しい・感激もひとしお・感無量・心躍る」
「英語訳」=「very happy」「especially happy」
「一入」は、文字通り「染め物を染め液に一度浸すこと」です。こうする事で一段と染め物の色合いは深くなるので、「物事の程度が大きくなるさま」を表します。由来を理解できたからには、ぜひ今後の文章で使ってみてください。