「慎む」と「謹む」は、どちらもよく使われている動詞です。
「言葉を慎む」「謹んで訂正いたします」
ただ、両者の使い分けはどうすればいいのかという疑問があります。そこで本記事では、「慎む」と「謹む」の違いを詳しく解説しました。
慎むの意味
まずは、「慎む」の意味からです。
【慎む(つつしむ)】
①あやまちや軽はずみなことがないように気をつける。慎重に事をなす。
②度をすごさないようにする。控えめにする。節制する。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「慎む」には二つの意味があります。一つ目は、「気をつける・慎重にする」という意味です。
- 言葉を慎む。
- 行動を慎む。
- 身を慎む。
この場合は、自分の言動を気を付けたり慎重に行動したりするような場面で使われます。
そして二つ目は、「控えめにする」という意味です。
- お酒を慎む。
- タバコを慎む。
- 賭け事を慎む。
この意味で使う時は「節制」と同じ意味になると考えて下さい。「節制」とは「ほどよく控えめにする」という意味の熟語です。
主に、酒やたばこ、ギャンブルなどのように欲を抑えなければいけない対象に対して使われます。
謹むの意味
続いて、「謹む」の意味です。
【謹む(つつしむ)】
⇒うやうやしくかしこまる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「謹む」とは「うやうやしくかしこまること」という意味です。
「うやうやしい」とは「礼儀正しく丁寧なこと」、「かしこまる」とは「相手を敬うこと」を表します。つまり、「礼儀正しく丁寧に接し、相手を敬うこと」を「謹む」と言うわけです。
主な使い方としては、以下の通りです。
謹んでお受けいたします。誠に感謝致します。
この場合は、企業から内定をもらった時などによく使う文言です。その他には、会社から昇進の通知をもらった時、あるいは名誉ある賞状を自身がもらった時などにもよく使われます。
一般的には、「慎む」ではなく「慎んで」のように用いられることがほとんどです。
慎むと謹むの違い
ここまでの内容を整理すると、
「慎む」=気をつける・慎重にする。控えめにする。
「慎む」=丁寧に接して、相手を敬う。
ということでした。
つまり両者の違いを簡単に言うと、「慎む」は「自分の言動や欲望を抑えること」、「謹む」は「相手に敬意を表すこと」だと言えます。
両者の語源も確認しておくと、「慎む」の「慎」は「慎重(しんちょう)」「戒慎(かいしん)」などがあります。
よって、何かの言動を気をつけたり、物事を控えめにしたりすることが「慎む」の意味であることが分かるでしょう。
一方で、「謹む」の「謹」は、「謹賀(きんが)」「謹啓(きんけい)」「謹直(きんちょく)」などがあります。「謹賀新年」などは年賀状にもよく書かれている言葉です。
したがって、「謹む」の方は、おごそかで礼儀正しく振る舞うような時に使う言葉であることが分かるでしょう。
以上、まとめますと
「慎む」=自分の言動を抑えること。「謹む」=相手に敬意を表すこと。
となります。
ここで一点だけ気を付けることは、「慎む」の場合は必ずしも自分の言動とは限らないということです。例えば、「失礼な発言は慎みなさい」のように使うこともあります。「慎む」の方は例外的に他人の言動に対して使うこともあるので注意してください。
使い方・例文
最後に、それぞれの使い方を実際の例文で紹介しておきます。
【慎むの使い方】
- 授業中は私語を慎むようにと、先生に注意された。
- 相手の心を傷つけないために、言葉を慎むことにしよう。
- コロナ禍なので、必要のない外出行動を慎むことにした。
- 浮気がばれてしまっため、しばらくは身を慎むことにする。
- 色々な人に迷惑をかけたため、これからは酒を慎むことにします。
【謹むの使い方】
- 新年のお慶(よろこ)びを、謹んで申し上げます。
- 友人の結婚式という舞台で、謹んで祝意を表する。
- この度は、私共の不祥事を謹んでお詫び申し上げます。
- 奥様の件につきましては、謹んでお悔やみ申し上げます。
- この度は御社の内定通知を頂き、ありがとうございます。謹んでお受けいたします。
「慎む」は、自らの言動を気をつけたり控えめにしたりするような場面で用いられます。対して、「謹む」の方は相手に対して丁寧に接したり敬意を示したりするような場面で用いられます。
なお、よくあるミスとして「慎しむ」や「謹しむ」と書いてしまうことがあります。正しくは「慎む」と「慎む」です。送り仮名の付け間違えには注意して下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「慎む」=(自分の言動を)気をつける・慎重にする。控えめにする。
「謹む」=(相手に対して)丁寧に接する。敬意を表する。
「謹む」の方は冠婚葬祭などでもよく登場する言葉です。社会人であればよく使う言葉ですので、ぜひこの機会に覚えておきましょう。