「とおり」は、「次の通り」「下記の通り」などのように用いる言葉です。ただ、この場合に漢字とひらがなのどちらで表記すればよいのかという問題があります。
特に、公用文やビジネス文書などに関してはその使い分けに迷うという人も多いと思われます。そこで本記事では、「通り」と「とおり」の違いについて詳しく解説しました。
「通り」と「とおり」の違い
まず最初に、「とおり」という語を辞書で引いてみます。
①㋐人や車のとおるところ。道路。往来。「にぎやかな通り」
㋑(「…どおり」の形で)地名・場所などを表す名詞の下に付いて、その道筋・道路である意を表す。「銀座通り」「裏町通り」
② 人や車が行ったり来たりすること。通行。ゆきき。往来。「車の通りが激しい道」
③ 気体や液体が流れかようこと。流通。「風の通りがいい」「下水の通りが悪い」
④ 声や音などがよく伝わること。「声の通りがいい」
⑤ 広く知れわたっていること。評判。「彼の名は通りがよい」
⑥ 同じ状態・方法であること。「予想した通りの成果が出た」「私の言った通りだ」「今までの通りに行う」
⑦ 理解。のみこみ。「通りのよい説明」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「とおり」には複数の意味がありますが、主に①と②、そして⑥の意味として使われることが多いです。
①と②は厳密には異なりますが、「道筋や道路」「通行・往来」などを表しています。
そして、⑥は「同じ状態や方法であること」を表したものです。この意味での用例が、冒頭で紹介した「次の通り」「下記の通り」などの使い方となります。
見て分かるように、辞書には「通り」と「とおり」の違いには言及されていません。したがって、一般に使う際にはどちらを使ってもよいことになります。
言い換えれば、どちらが正しい・どちらが間違いなどの使い分けは存在しないということです。
ただ、「銀座通り」「青葉通り」などの道の名称を表すような際には、通常は漢字で「通り」と書くことが多いです。
その他、名詞ではなく助数詞としての意味で用いる場合もひらがなではなく漢字で書かれることが多いです。
【例】⇒「道具を二通りそろえる。やり方は三通りある。」
公用文では「とおり」と書く
一般に使う際にはどちらを使っても問題はありません。しかしながら、公用文など国が作成する文書、法令文に関しては別です。
公用文に関しては、『公用文における漢字使用等について』という資料が参考になります。
この資料は内閣府が出している公的なものであり、公用文の漢字使用や送り仮名の付け方についてそのルールが細かく記されています。以下は、実際の引用箇所です。
1 漢字使用について
(1) 公用文における漢字使用は,「常用漢字表」(平成22年内閣告示第2号)の本表及び付表(表の見方及び使い方を含む。)によるものとする。
なお,字体については通用字体を用いるものとする。(2)「常用漢字表」の本表に掲げる音訓によって語を書き表すに当たっては,次の事項に留意する。
キ 次のような語句を,()の中に示した例のように用いるときは,原則として,仮名で書く。
とおり(次のとおりである。)
つまり、「次のとおり」などのように用いる場合は、公用文では「ひらがな」で表記するということです。
この用例は、先ほど説明した「同じ状態や方法であること」という意味のものです。
したがって、「次の通り」以外にも、例えば「前のとおり」「以下のとおり」「予想どおり」なども漢字ではなくひらがなで書くことになります。
公用文では漢字ばかりの文章では読みにくいということで、バランスを取り、あえてひらがなを書いて読みやすくするという原則が定められていることがあります。
「とおり」についても、この原則が適用されたものだと考えれば問題ありません。
その他、ビジネス文書やビジネスメールなどもこの原則に倣い、「とおり」と書かれることが多いです。
一方で、新聞などのメディアの文章に関しては、逆に「通り」と書かれることが多いです。これは限られた紙面の中で一文字でも文字数が少ない「通り」の方が好まれているからだと考えられます。
ただ、ビジネス文書や新聞記事などは、公用文などのように何か一定の原則が明確に定められているわけではありません。
そのため、公用文以外の使い分けに関してはどちらを使っても問題ないことになります。
問題はないのですが、同じ文章内で「とおり」と「通り」の両方を使うのだけは避けた方がよいです。「とおり」と書くなら「とおり」、「通り」と書くなら「通り」と統一して用いることを推奨します。
「とおり」か「とうり」か?
最後に、「通り」の読み方についても触れておきます。
「通り」を「とおり」と「とうり」のどちらで読むのか?という問題ですが、これは「とおり」と読みます。「とうり」とは読まないので注意してください。
NHKの『新用字用語辞典』によりますと、昭和61年(1986年)の内閣告示にある「現代仮名遣い」の引用として、以下のように書かれています。
「次のような語は、オ列の仮名に「お」を添えて書く・・・」⇒「とおる(通る)」
出典:NHK『新用字用語辞典』
「通り」と「通る」の若干の違いはありますが、ここでは同じ意味での説明と考えれば問題ありません。
「とおり」と読む理由ですが、内容を確認すると、「これらは歴史的仮名遣いでオ列の仮名に「ほ」または「を」が続くものであり、オ列の長音として発音されるか、オ・オ、コ・オのように発音されるかにかかわらず、オ列の仮名に「お」を添えて書くものである」と記述されています。
この原則は現在でも当てはまりますので、「とおり=○」「とうり=×」となります。したがって、例えば「あなたは私の言ったとうりになった」などのように用いるのも当然誤りということになります。
なお、「とうり」という言葉は他に「党利」「統理」などがあります。「党利」とは「政党や党派の利益」、「統理」とは「統一しておさめること」です。
単に「とうり」と言った場合、「通り」ではなくこのような意味となりますので注意して下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「通り・とおり」=主に「道筋や道路」「通行・往来」「同じ状態や方法であること」などの意味。
「違い・使い分け」=一般に使う際は漢字とひらがなのどちらを使ってもよい。公用文に関しては「次のとおり」などのようにひらがなで書く。その他、ビジネス文書などに関しても「とおり」と書かれることが多い。
「通りの読み方」=「とおり」と読み、「とうり」とは読まない。
「通り」という言葉は、漢字とひらがなのどちらの表記も可能です。ただ、公用文ではひらがなで表記するというルールがあります。一般に使う際はそこまで使い分けを意識する必要はないと言えるでしょう。