手当 手当て 違い 使い分け どっち 正しい

「てあて」という言葉を漢字で書く場合、2つの表記の仕方があります。つまり、「手当」と書くのかそれとも「手当て」と書くのかということです。

両方ともよく使われていますが、どのように使い分ければよいのでしょうか?本記事では、「手当」と「手当て」の違いについて詳しく解説しました。

手当と手当ての意味

 

まず、「てあて」を辞書で引くと次のように書かれています。

てあて【手当(て)】

ある物事を予測して用意しておくこと。準備。「資金の手当てがつく」

病気やけがの処置を施すこと。また、その処置。「病院で手当てを受ける」「傷口を手当てする」

労働の報酬として支払われる金銭。「看護人の一か月の手当て」

基本の賃金のほかに諸費用として支払われる金銭。「単身赴任に手当てがつく」「家族手当て」

心付け。祝儀。チップ。「手当てをはずむ」

犯人・罪人のめしとり。捕縛。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「てあて」は、辞書だと「手当(て)」と表記されているものがほとんどです。「手当・手当て」と併記されたり、「手当て(手当)」などと表記されたりするものは見当たりません。

仮に両方の表記を認めるとするならば、前者のように「手当・手当て」と記すはずです。したがって、辞書の表記に従うならば原則的に「手当」と書くことになります。

なお、実際に使われる意味としては①~④のどれかである場合がほとんどです。⑤や⑥の意味として使われることはほぼないと考えて問題ありません。

内閣告示での表記

 

「手当」の表記方法については、文化庁が出している内閣告示『送り仮名の付け方』の通則7に掲げられています。以下、実際の引用部分です。

複合の語のうち、次のような名詞は、慣用に従って、送り仮名を付けない。

〔例〕

⑴ 特定の領域の語で、慣用が固定していると認められるもの。

ア 地位・身分・役職等の名

  関取 頭取 取締役 事務取扱

イ 工芸品の名に用いられた「織」、「染」、「塗」等。

⦅博多⦆織、⦅型絵⦆染、⦅春慶⦆塗、⦅鎌倉⦆彫、⦅備前⦆焼

ウ その他。

 書留 気付 切手 消印 小包 振替 切符 踏切 請負 売値 仲買 歩合 両替 割引 組合 手当

(以下略)

出典:『送り仮名の付け方 複合の語 通則7』文化庁

このような例は、同じく文化庁が出している『法令における漢字使用等について』にも掲げられています。

2送り仮名の付け方について

(2)複合の語
  イ 活用のない語で慣用が固定していると認められる次の例に示すような語については、「送り仮名の付け方」の本文の通則7により、送り仮名を付けない。
 【例】 手当

出典:『法令における漢字使用等について』文化庁

すなわち、「手当」は「特定の領域の語で、慣用が固定していると認められるものの一つ」として扱われているということです。「慣用」とは「習慣的に広く世間に用いられていること」を表します。

したがって、内閣告示では「手当て」ではなく「手当」と表記するのを基本ルールとしているのです。同じような例としては、「踏切」「組合」「割引」などが挙げられます。

手当と手当ての違い

手当 手当て 違い

ところが、「てあて」という語が常に「手当」と書かれるかというと必ずしもそうではありません。例えば、日本放送協会が出している『NHK用字用語辞典』には次のような用例が掲げられています。

てあて 手当  (例)年末手当

てあて 手当て (例)傷の手当て

出典:『NHK用字用語辞典・第二版』

つまり、「てあて」という語は送り仮名の付け方によって2つの意味に分かれるということです。

1つ目は、「労働の報酬として支払われる金銭」や「基本賃金以外に諸費用として支払われる金銭」などを表したものです。この意味で「てあて」を使う場合は、送り仮名を付けずに「手当」と書くことになります。

対して、2つ目は「病気やケガに施す処置・病気やケガの処置を施すこと」という意味です。この意味の場合は、本来の動詞としての意識が残っていると考え、「手当て」と書くということです。

「てあて」という語は、元々「手を当てる」という動詞であり、「手を用いて新たな方向に進ませること」「手を用いて既に行われている進行を止めること」を表していました。

「前もって用意する」という意味で用いられるのが前者であり、「病気やケガに施す処置」という意味で用いられるのが後者です。

このような語に関しては、「資金の手当てをする」「傷の手当てをする」などのように送り仮名を付けて「手当て」と表記するようになりました。

一方で、本来の意味から派生した意味である「労働の報酬」「基本賃金以外の諸費用」などとして使う場合は、「手当て」ではなく「手当」と表記するようになりました。

このような経緯もあり、現在では、「手を当てる」という動詞としての意味が残っているような場合は、「手当て」と表記しているわけです。

手当と手当ての使い分け

 

同じことは、「踏切」や「組合」についても当てはまります。先ほどの通則7に例示された「踏切」は、「道路が線路を横切るところ」を表した名称です。

しかし、「ふみきり」という語自体の本来の意味は「ふむきること」です。そのため、走り幅跳びなどで用いる「ふみきり」は「踏み切り」と書きます。

また、「組合」は「共通の目的を持った人々が利益を守るために作る組織」のことです。しかし、「くみあい」本来の意味は「くみあうこと」なので、「互いに組む」「組みついて争う」といった意味を持っています。

このような「くみあい」に関しては、「組み合い」と書くわけです。

もちろん、通則7に関しては何か具体的な指示があるわけではありません。ただ、同じ通則の4を見ると次のような注意書きが記されています。

次の語は送り仮名を付けない。

謡 虞 趣 氷 印   頂 帯 畳
卸 煙 恋 志 次 隣 富 恥 話 光 舞
折 係 掛(かかり) 組 肥 並(なみ) 巻 割 (注意)

ここに掲げた「組」は「花の組」、「赤の組」などのように使った場合の「くみ」であり、例えば「活字の組みがゆるむ。」などとして使う場合の「くみ」を意味するものではない。「光」、「折」、「係」なども同様に動詞の意識が残っているような使い方の場合は、この例外に該当しない。したがって、本則を適用して送り仮名を付ける

出典:『送り仮名の付け方 複合の語 通則4』文化庁 内閣告示『送り仮名の付け方』

全体の考え方から言えば、通則4の注意書きはそのまま通則7に適用することができます。 したがって、「てあて」に関しても同様に「手当」「手当て」と書き分けるのが妥当ということになります。

まとめ

 

以上、今回は「手当」と「手当て」の違いについて解説しました。

手当」=労働の報酬として支払われる金銭基本賃金以外に諸費用として支払われる金銭。

手当て」=病気やケガに施す処置病気やけがの処置を施すこと。前もって用意すること。

違い・使い分け」=「手当」は「労働報酬・諸費用としての金銭」、「手当て」は「病気やケガに施す処置・前もって用意すること」の意味に用いる。

「手当」と「手当て」は辞書だと「手当(て)」と表記されています。そのため、一般に使う際には「手当」と書けば問題ありません。

ただ、厳密に言うと両者は使い分けが必要な言葉です。「怪我の処置をする(手を当てる)」「前もって用意する(手を当てる)」のような動詞としての意味が残っている場合は「手当て」と表記するのが適切ということになります。