「体言止め」という技法は、普段から様々な文章で用いられています。小説や短歌、俳句、新聞、ビジネス文書などその種類を問いません。
ただ、具体的な使い方までは知らないという人が多いと思われます。そこで本記事では、「体言止め」の意味や例文、書き方などをなるべく簡単に分かりやすく解説しました。
体言止めの意味
最初に、「体言止め」の意味を辞書で引いてみます。
【体言止(たいげんどめ)】
⇒文章表現の一種で、文や句を体言(名詞)で終える表現方法。きちんとした叙述の形をとらないことによる効果を狙う。一般的には「体言止め」と書く。「名詞止め」とも言う。
出典:実用日本語表現辞典
「体言止め」とは「文や句を体言で終わらせる表現技法のこと」を表します。
「体言」とは主に「名詞」のことを指し、名詞以外だと代名詞や数詞なども含まれます。
- 【名詞】⇒「犬・お金・公園・野球・りんご」など。
- 【代名詞】⇒「これ・それ・私・あなた・彼」など。
- 【数詞】⇒「一つ・二個・三枚・四本・五匹」など。
つまり、これらの言葉で終わらせる技法のことを「体言止め」と言うのです。
別の言い方だと、「です・ます」や「だ・である」などを使わない技法だと考えても構いません。
通常の文というのは、「です・ます」や「だ・である」などが語尾に来ます。
「例」⇒「日本人が好きな食べ物があります。それが寿司です。」
しかし、「体言止め」というのは、文の終わりを名詞で終わらせます。
「日本人にとって好きな食べ物。それが寿司です。」
見て分かるように、前半の文が「食べ物」という名詞で終わっています。
このように、文の終わりが体言で終わっている技法を「体言で止める」という意味で「体言止め」と呼ぶのです。
「体言止め」は通常、句点(。)や読点(、)などの句読点は打たないのが原則とされています。
ただ、これは箇条書きやタイトルなどを書く場合であり、通常の文章であれば句読点を打つのが一般的となっています。
文のタイトルのような一文のみを表す箇所、もしくは鍵かっこで区切られている文の末尾には句点を省くのが通例です。
なお、「体言止め」の反対語は「用言止め」と言います。
「用言」とは動詞や形容詞、形容動詞のことで、これらの品詞で文が終わっていることを「用言止め」と言うのです。
通常の「です・ます」調などの文章は、すべて「用言止め」に含まれると考えて下さい。
体言止めの例文
「体言止め」の使い方を実際の例文でみていきましょう。
まずは、通常の書き方で書いた場合です。
駅に着いたのは午後の六時だった。予定時刻よりもかなり遅れた時間である。しかし、そこには友人が待っていた。
上記の文章を「体言止め」を用いたものに変えてみます。
駅に着いたのは午後の六時。予定時刻よりもかなり遅れた時間である。しかし、そこには友人が待っていた。
前半の文章に書かれていた「だった」という部分を削除し、「六時」という数詞で終わらせています。
たった3文字削除するだけで、文章全体のイメージが大きく変わっているのが分かるでしょう。
次も、同様に「体言止め」を用いた例を紹介していきます。
きのうは休日だったので、一日10時間以上の勉強をしました。一番時間を費やしたのが英語でその次が国語です。
後半はかなりきつかったですが、なんとか休憩を挟むながらもやり遂げました。来週は本番の試験なので、何とか良い結果を残せるように追い込みをかける予定です。
これも「体言止め」を用いた文章に変えてみます。
きのうは休日だったので、一日10時間以上の勉強をしました。一番時間を費やしたのが英語。その次が国語です。
後半はかなりきつかったですが、なんとか休憩を挟むながらもやり遂げました。来週は試験も本番。何とか良い結果を残せるように追い込みをかける予定です。
所々でうまく名詞を挟むことにより、このように体言止めを使った文章を書くことが可能です。
その他には、「短歌」や「俳句」などでも「体言止め」を用いたものはあります。
以下は、『新古今集』による短歌です。
「春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山」
読み:はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすちょう あまのかぐやま
訳:いつの間にか春が過ぎて夏がやってきたようだ。夏になると真っ白な衣を干すと言うように天の香具山では白い衣がはためいている。
「天の香具山」とは、奈良県にある山で大和三山の一つです。
天から降りてきた山という伝説もあるため 頭に「天」をつけたものとなっています。
この「天の香具山」を最後に持ってくることで、「体言止め」をうまく用いた短歌となっています。
体言止めの効果
「体言止め」の効果は、主に3つ挙げられます。
1つ目は、「文章を読みやすくなる」という点です。
体言止めを使うことにより、文章が読みやすくなるというメリットがあります。
【通常の文章】
明日は待ちに待った主人の給料日なので、せっかくだから家族みんなで外食に出かけよう。
【体言止めを使った文章】
明日は待ちに待った主人の給料日。せっかくだから家族みんなで外食に出かけよう。
文というのは、長くなればなるほど読みにくくなるという特徴を持っています。
そのため、長い一文を適度に分割できる「体言止め」は非常に有効なのです。
「体言止め」を途中で挟むことにより、長い文を避けて読者に対して簡潔でわかりやすい印象を与えることができます。
2つ目は、「余韻や余情を生じさせる」という効果です。
【通常の文章】
新聞記者として大事なのはリサーチです。事前に情報を集めることにより、魅力的な記事を書くことができます。
【体言止めを使った文章】
新聞記者として大事なのはリサーチ。事前に情報を集めることにより、魅力的な記事を書くことができます。
「体言止め」は、名詞で言い切って終わるため、読者が読み進めていく上で自然と印象的な一言となります。
そのため、普通に書くよりも余韻や余情を感じさせるという効果があるのです。
上記の例だと、「リサーチ」という言葉から、「ではなぜリサーチが重要なのか?」といったことを想起させる効果があります。
このような体言止めを利用した例としては、企業の広告のキャッチコピーが挙げられます。
大手企業のキャッチコピーでは「体言止め」を上手く使い、読み手が次へ読み進めたくなるような効果を狙っているのです。
そして3つ目は、「文章にアクセントを加える」という効果です。
文章というのは、「です・ます」調や「た・だ」調ばかりだとどうしても単調になりがちです。
【通常の文章】
プロ野球の球団は、全部で12チームあります。セリーグ6チームとパリーグ6チームに分かれます。
このうち、上位3チーム同士がCSに出場できます。CSでは3回まで戦い、2回負けたチームはその時点で敗退となります。
最終的に日本シリーズで勝ったチームがチャンピオンとなります。
見て分かるように、ずっと語尾が「ます」なので、何となく機械的で淡泊な印象を与えています。そこで、この文章を「体言止め」を使ったものに変えてみます。
【体言止めを使った文章】
プロ野球の球団は、全部で12チーム。セリーグ6チームとパリーグ6チームです。
このうち、上位3チーム同士がCSに出場できます。CSでは3回まで戦い、2回負けたチームはその時点で敗退。
最終的に日本シリーズで勝ったチームが、チャンピオンとなります。
2箇所、「体言止め」を使っただけですが、明らかに文章のリズムが変わっているのが分かると思います。
「体言止め」は文の流れを一旦止めるので、そこで変化が生まれます。
そのため、文章全体としてリズム感があるものに変わり、読者を飽きさせなくするという効果があるのです。
この効果は特に、文の語尾が同じ言葉で連続しているような時に使うと有効です。
体言止めの注意点
「体言止め」は、いくつかデメリットもあるので注意が必要です。
まず1つ目は、「多用すると読みにくくなる」という点です。
「体言止め」を多く使いすぎると、読者としては逆に分かりにくい文章となってしまいます。
【悪い例×】
健康になるには適度な運動が重要。食事は程よい栄養バランス。
睡眠は個人差あるが7時間以上。これを実践したのが数年前に病気になった私の兄。
見て分かるように、機械的でぶつ切りのような文章となり、非常に読みにくくなっているのが分かるかと思います。
「体言止め」は便利な技法ですが、あまりに連続するとそれはそれで違和感のある文章となってしまうのです。
そして2つ目は、「失礼な印象を与える可能性がある」という点です。
「体言止め」は、場合によっては相手に失礼な印象を与えてしまうこともあります。
【悪い例×】
私の名前は山田。趣味はギターを弾くこと。
特技はカラオケと水泳。仕事はサービス業をやっているのでよろしく。
「体言止め」は「です・ます」を使わない文調なため、文章の内容によってはやや高圧的な印象を与えてしまいます。
これが例えば、客観的な事実を淡々と述べたり、小説文のような物語形式の文であれはそこまでの影響はありません。
しかし、自分のことを紹介したり意見を述べたりするような際は、上記のような使い方は避けるべきだと言えます。
そして3つ目は、「曖昧になりやすい」という点です。
「体言止め」は、文脈によっては「言葉の意味が曖昧になり、伝わりにくくなる」というデメリットがあります。
【悪い例×】
コストの上昇。これが問題である。
この場合、「コストの上昇」というのが、具体的に何を指しているのかが伝わりにくいです。
一言で「コストの上昇」といっても、「コストが上昇した」という過去の状態なのか、それとも「コストが上昇している」という現在の状態なのか。
あるいは、「コストが将来的に上昇するかもしれない」という未来のことを指しているのかが分かりません。つまり、非常に曖昧な表現なのです。
これが例えば、「りんご」や「車」のように通常の名詞であれば、問題なく理解することができます。
しかし、例文のような「行為を表すような体言止め」だと、多義的になり様々な解釈が必要となります。
そのため、読み手としては一瞬でそれを理解できずに、意味が伝わりにくくなるという問題も生じるのです。
以上の3つのデメリットから考えますと、「体言止め」はビジネス文とは相性が悪いということが言えます。
例えば、会社内で使うビジネスメールなどでは、格式や丁重さを重視するため「体言止め」は避けた方が無難です。
他には、レポートや論文、報告書、公文書など「です・ます」調が基本の文章もなるべく避けた方がよいでしょう。
公文書などで「体言止め」を使う場合は、文の中に挟むのではなく文のタイトルなどに使うことをおすすめします。
体言止めと倒置法の違い
最後に、「体言止め」と混同しやすい「倒置法」にも触れておきます。
「倒置法(とうちほう)」とは「文を普通の順序とは逆にする表現技法」のことです。
【例】⇒「絶対に勝つよ、明日の試合には。」
通常であれば、「明日の試合には絶対に勝つよ」という言い方をします。
ところが、「倒置法」というのはこのような言い方はしません。
あえて通常とは逆の順序で文を作ることにより、読む人に対してインパクトを与えるのです。
「倒置法」は「倒して置く」と書くので、「ひっくり倒して、配置する」すなわち「語句を逆にする」という意味になります。
「体言止め」と「倒置法」の違いですが、「倒置法」は文の末尾が名詞では終わりません。
つまり、あくまで文の順序が逆になるだけで、文の終わりが関係してくる「体言止め」とは関係ない技法ということです。ここが両者の大きな違いだと言えます。
「倒置法」の詳しい意味については、以下の記事を参照してください。
その他、似たような技法については、以下の記事にて解説しています。
本記事のまとめ
以上、本記事のまとめです。
「体言止め」 =文や句を体言で終わらせる表現技法のこと。
「体言止めの効果」=①読みやすくなる。②余韻や余情を生じさせる。③アクセントを加える
「デメリット」=①多用すると読みにくくなる②失礼な印象を与えかねない。③曖昧になりやすい。
「倒置法との違い」=倒置法は名詞では終わらず、文の順序が逆になる。
「体言止め」を使う目的は、あくまで文章を読みやすくしたりアクセントを加えたりし、文章全体を豊かで風情のあるものにすることです。本来の役割を期待できないケースでは、「体言止め」はなるべく避けるようにしましょう。