春がやって来て暖かい時期になると、よく使われる四字熟語があります。それが、「春風駘蕩」です。
難しい漢字を使うので、初めて見たという人も多いでしょう。ただ、この四字熟語の使い方を覚えれば、表現の幅が広がることは間違いありません。
本記事では、「春風駘蕩」の意味や由来、例文、英語訳などを詳しく解説しました。
春風駘蕩の意味・読み方
最初に、「春風駘蕩」を辞書で引いてみます。
【春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)】
⇒春の景色ののどかなさま。春風がそよそよと気持ちよく吹くさま。また、温和でのんびりとした人柄のたとえ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「春風駘蕩」は、「しゅんぷうたいとう」と読みます。「春風」は「はるかぜ」とは読まないので注意してください。
意味は「春の景色ののどかなさま・春風がそよそよと気持ちよく吹くさま・温和でのんびりとした人柄」などがあります。
簡単な例文を紹介すると、以下のようになります。
- ①春先は春風駘蕩とした景色が素晴らしい。
- ②昨日今日と吹く風は、まさに春風駘蕩である。
- ③彼は落ち着いていて春風駘蕩とした人柄である。
①は「春の景色」を表した文、②は「春風の心地よさ」を表した文、そして③は「温和な人柄」を表した文です。
大まかに分けると、景色や風などの自然を対象とする場合と人の性格を対象とする場合に分かれます。このように、複数の意味を持つ四字熟語が「春風駘蕩」ということになります。
春風駘蕩の語源・由来
次に、「春風駘蕩」の語源を確認していきます。
まず、「春風」とは文字通り「春に吹く風」のことを指します。春という季節に東側もしくは南側の方から吹く穏やかな風のことです。
そして、「駘蕩」とは「のどかなさま・のびのびとしたさま」という意味です。「駘」という字は「馬」と「台」を合わせた形成文字で、「のろい馬・鈍い馬」などの意味があります。
これは元々、馬が「銜(くつばみ)を外す」という意味から来たものです。さらに「蕩」は「草冠」+「湯」の形成文字で、「広い・のどか・のびやか」などの意味があります。
これらの漢字を合わせることで、「春風駘蕩」=「春の景色がのどかな様子。春の風が心地よい様子」という意味になるわけです。
なお、この四字熟語の由来は5世紀、中国南北朝時代の詩人である「謝朓(しゃちょう)」の詩にあります。以下、実際の詩の部分です。
「朋情は以って鬱陶たり 春物方まさに駘蕩たり」
(ほうじょうはもってうっとうたり しゅんぶつはまさにたいとうたり。)
簡単に訳すと、「友情などでは心は晴れないが、春の景色はまさにのどかである」となります。
人間関係のわずらわしさに対し、自然ののどかさやおおらかさを物語った一文となっています。この詩がきっかけとなり、後の中国や日本でも「春風駘蕩」が使われるようになったということです。
春風駘蕩の類義語
続いて、「春風駘蕩」の「類義語」を紹介します。
「春風駘蕩」の類義語はいくつかありますが、全く同じ意味の言葉(同義語)はありません。この中では「春日遅遅」が意味としては最も近いです。
その他、「春」を使った有名な四字熟語としては「小春日和(こはるびより)」がありますがこちらは類義語には含まれません。「小春日和」とは「晩秋から初冬にかけて現れる穏やかな暖かい晴天」のことです。
「小春」とは旧暦10月のことで、太陽歴だと 11月~ 12月上旬にあたり、厳しい冬を前に現れる温和な天気を指します。
「春風駘蕩」を使う時期としては、主に2月~3月の春先ですが、「小春日和」は11月~12月の初冬という違いがあります。同じ春を使う四字熟語でも意味が異なるので注意してください。
春風駘蕩の対義語
逆に、「春風駘蕩」の「対義語」としては「秋霜烈日」が挙げられます。
こちらは、秋の厳しく冷たい霜と夏の強い日差しの意からできた四字熟語です。温和でのどかな様子を表す「春風駘蕩」の反対語となります。
他には、四字熟語以外だと「粗暴(そぼう)」も反対語となります。「粗暴」とは「温和」の対義語で、「荒々しく乱暴な性質」を表した言葉です。
春風駘蕩の英語訳
「春風駘蕩」は、英語だと次のような言い方があります。
「be warm and mild(温かくてのどかな)」
「be genial and relaxed(温和で寛大な)」
一つずつ説明すると「warm」は「温かい」、「mild」は「のどかな、穏やかな」。「genial」は「温和な・優しい」、「relaxed」は「寛大な・くだけた」という意味です。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
It ’s warm and mild today.(今日は温かくてのどかな天候だ。)
He is genial and relaxed.(彼は温和でやさしい。)
春風駘蕩の使い方・例文
最後に、「春風駘蕩」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 春風駘蕩の自然の中にいると、人生の悩みや不安が消えていくのを感じます。
- 日中の気温も温かくなり、春風駘蕩たる春の風が心地よい季節となりました。
- 天気も良かったので、春風駘蕩に吹かれながらピクニックを楽しんできました。
- お彼岸も過ぎ、温もりを感じる日も多くなりました。今はまさに春風駘蕩な時期です。
- 彼は春風駘蕩とした人柄で常に温和なので、周囲の人から信用を得ているのだろう。
- このせわしない世の中にありながら、彼は誠に春風駘蕩としたお人柄で感心します。
- 彼女は常に春風駘蕩な雰囲気をまとっているので、男性陣からの人気も高い。
「春風駘蕩」は春の景色や春風などの自然を表す時と、人の性質に対して使う場合があります。
前者は、春が訪れたことをそれとなく知らせるような時に使います。この場合は、文字通り「春」という季節限定でしか使いません。
対して、後者は相手の性格や態度を褒めるような時に使います。この場合は「春」以外の季節でも使うことができ、純粋に相手の人柄が温和であることを伝えるときに使います。
どちらの場合も良いイメージを与えることができますので、状況に応じて上手く使い分けるようにしてください。
まとめ
以上、今回のまとめとなります。
「春風駘蕩」=「春の景色ののどかなさま・春風がそよそよと気持ちよく吹くさま」「温和でのんびりとした人柄」
「語源・由来」=「春に吹く風」と「のどかな様子」。中国南北朝時代の詩人「謝朓」の詩から。
「類義語」=「春日遅遅・温厚篤実・和顔愛語・温柔敦厚・平穏無事」
「対義語」=「秋霜烈日」
「英語訳」=「be warm and mild」「be genial and relaxed」
「春風駘蕩」は春という季節の到来を感じさせる四字熟語です。これを機に日常生活でも使ってみてはいかがでしょうか?