夏目漱石の有名な言葉で、「則天去私」があります。小説が好きな人は一度は聞いたことがあるかもしれません。
ところが、この四字熟語の意味を分かりにくいと感じる人は多いようです。そこで今回は、「則天去私」の意味や使い方、類語・反対語などを簡単に分かりやすく解説しました。
則天去私の意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【則天去私(そくてんきょし)】
⇒小さな私にとらわれず、身を天地自然にゆだねて生きて行くこと。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「則天去私」は「そくてんきょし」と読みます。
意味は「小さな自分にとらわれず、ありのままに自然に生きること」を表したものです。
例えば、ある学生が今までの小さな自分を捨てて、真剣にボランティア活動をしたいと考えたとします。誰かに褒められたいといった見返りなどは求めずに、純粋にありのままに頑張りたいといった目的です。
このような場合は、「彼の心境は則天去私である」などと言うことができます。
つまり、「則天去私」とは「利益や見返りなどを気にせず、ありのままに生きる様子」を表す四字熟語ということです。人間本来の自然な様子を表す言葉なので、多くは良い意味として使うのが基本となります。
則天去私の語源・由来
「則天去私」の「則天」は、「天に則(のっと)る」と書きます。「則る」とは「何かに従う」という意味です。
よって、「則天」とは「天(自然)に従い、全てをゆだねること」を表す言葉となります。
そして、「去私」は「私を去る」と書きます。言い換えれば、「自分中心の狭い考えを捨て去る」ということです。
以上、二つの言葉を合わせると「則天去私」=「天に従い全てをゆだね、自分の考えを捨て去る」という意味になります。転じて、「私心を捨てて、ありのままに生きる」という意味になるわけです。
元々この四字熟語は、「夏目漱石(1867年~1916年)」が晩年に発した言葉から生まれました。彼は人生の最後に、自分の利益や都合・立場を捨てるこ」が人間にとって重要だと悟ります。
そして、死に際に「天に則り私を去る」という言葉を残します。この言葉が、今もなお使われている則天去私の語源ということです。
私たちが知っている夏目漱石は、1000円札の肖像画の人というイメージが強いです。しかし、実際の彼は悟りの境地に達した徳のある人物だったということになります。
則天去私の類義語
続いて、「則天去私」の類義語を紹介します。
以上、四つの類義語を紹介しました。いずれも共通しているのは、「公平・私心がない・平静」といった意味です。
「則天去私」を言い換えた言葉はいくつかありますが、この中では「虚心坦懐」が比較的よく使われます。
則天去私の対義語
逆に、対義語としては次のような言葉が挙げられます。
反対語は、「自分の利益を追い求める」という意味の言葉です。どちらもよく使われていますが、後者の「エゴイズム」の方は特によく使われます。
「エゴイズム」は略して「エゴ」とも呼ばれ、日本語訳だと「利己主義」という意味になります。簡単に言えば、「自分勝手な考え方」という意味です。
則天去私の英語訳
「則天去私」は、英語だと次の二つの言い方をします。
①「live naturally」
②「selfless devotion to justice」
直訳すると、①は「自然に生きる」という意味です。また、②は「公正(justice)に対する無欲の献身(selfless devotion)」と訳せば分かりやすいかと思います。どちらでも使うことができますが、①の方が簡潔なので使われやすい表現です。
例文だと、次のような言い方です。
You should live naturally.(あなたはもっと自然に生きるべきだ。)
則天去私の使い方・例文
最後に、「則天去私」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 則天去私の境地に達するには、様々な経験が必要である。
- 常に周りのことを考え、則天去私を心がけるようにしよう。
- 晩年の夏目漱石が到達した思想が「則天去私」である。
- 過去への執着をなくし、則天去私の心で行動していく。
- 欲望を捨てて、則天去私の精神で物事に取り組みなさい。
- 則天去私の献身を胸に、お寺で修行をすることにした。
- 自己本位と則天去私はいずれも夏目漱石に関する言葉である。
則天去私は、その人の器の大きさを表した言葉です。例えるなら、仙人や仏様のような心です。
したがって、基本的には良い意味として使われる四字熟語と考えて問題ありません。多くの場合、「欲望や利益に執着しない」「相手や周りのためを思う」などといった人を対象とします。
また、「則天去私の境地」「則天去私の献身」などの言い方が多いので仏教的な要素が含まれそうですが、必ずしもそうではありません。
「自然に生きる」という意味でしたら、通常の文章であったとしても問題なく使うことができます。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「則天去私」=小さな自分にとらわれず、ありのままに自然に生きること。
「語源・由来」=天に従い全てをゆだね、私心を捨てることから。
「類義語」=「公平無私・敬天愛人・一片氷心・虚心坦懐」
「対義語」=「独断専行・エゴイズム」
「英語訳」=「live naturally」「selfless devotion to justice」
現代社会は、モノやお金など人が欲しいものであふれています。常に利益を意識して生活すると、疲弊してしまうこともあるでしょう。そんな時は則天去私の心でありのままに行動してみてはどうでしょうか?