『境目』は、川上弘美氏による随筆文です。教科書・現代の国語にも収録されています。
ただ、本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、『境目』のあらすじや要約、語句の意味などを簡単に解説しました。
『境目』のあらすじ
本文は、内容により5つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①市と市の境目のあたりを踏んでみたりすると、妙な気分になる。左に踏み出せば✕市、右に踏み出せば□市、ここにとどまれば〇市。それはもう自在で痛快だった。だが一方で、人がつくった境目というものをひどく不可思議なものに感じた。
②人間どうしの境目もある。幼いころ、外国に住んだことがあったが、私はチャイニーズということで、西欧系の人から偏見を持たれた。わたし一人のまわりに、ぐるりと境目が引かれていたのだ。私はその中で、一人妙な感じだった。
③季節の境目というのもある。季節がうつるということは、それだけ死にちかづくことなので、せつなくおそろしいことである。だが、季節の境目をつくり、それぞれの季節を際立たせ、日々がへんぺいに続いているのではないことを知ると、それぞれの日々を大切にしたくなるのだ。
④「境目」は、もともと認識のためにつくられた。しかし、ときに境目が本来の目的から離れ、「差別」や「暴力」を呼び寄せることがある。悲しくくやしいが、珍しいことではない。いつだって自分が「差別」や「暴力」に寄り添ってしまう可能性はある。境目を引く行為は、非常に困難なものを呼び寄せる可能性を持つ行為なのだ。
⑤境目は困難を呼び寄せる可能性があるため、境目をつくらないようにしようという考えもある。外を見て境目をつくらないようにするのはまだいいが、内を見て境目をつくらないようにすると、それは「みんなが一緒がいい」という方向になってしまう。それはとても楽なことだが、楽しいことではない。外国でチャイニーズと言われた時、「わたしは違うんだ、でもまあいいか。わたしはわたしだもん。」と思った。わたしはあなたではなく、あなたは彼ではない。夏は春ではなく、秋は冬ではない。それは味のあることではないだろうか?
『境目』の要約&本文解説
私たちは、「〇〇市と××市」「欧米人と日本人」「春と夏」などのように「境目」を設定します。それは、ものを認識し、区別するために行っていることです。
例えば、「春と夏」などは、境目があることにより、それぞれの季節が際立ち、日々を大切にするようになります。
この「境目」を引く行為は、場合によっては差別や暴力を呼び寄せてしまう可能性もあります。その具体例として、本文中では筆者の幼い頃の体験が語られています。
筆者は、幼い頃、外国に住んだことがあり、そこでは周囲の西欧系の人たちから差別を受けました。「あなたはチャイニーズだから髪が真っ黒なのね。」「チャイニーズだからサンドウィッチの食べ方が反対なのね。」といった発言です。
境目というのは、このように困難を呼び寄せる可能性もあるということです。そのため、ときには境目をつくらないようにしようという考えも出てきます。
一方で、境目をつくらないようにしようとすることも、「みんなが一緒がいい。」という方向になってしまうため、楽ではあるが楽しいことではないと筆者は主張します。
したがって、最終的に筆者は境目の肯定をしています。差別や暴力の原因になるからと言って、境目を設定しなければ、人や物が独自に持つ固有性を正しく認識することはできません。
好き嫌いではなく、区別のための境目を引き、人や物の固有性を知ることは味わい深いことだと筆者は考えているわけです。
『境目』の意味調べノート
【境目(さかいめ)】⇒物事の分かれる所。分かれ目。境となる所。
【妙(みょう)】⇒不思議なさま。
【自在(じざい)】⇒意のままであること。思いのままであること。
【痛快(つうかい)】⇒胸のすくような心地よさ。
【不可思議(ふかしぎ)】⇒考えてもよく分からないこと。
【ごく】⇒非常に。きわめて。普通の程度をはるかに越えているさま。
【西欧系(せいおうけい)】⇒ヨーロッパ系。
【知名度(ちめいど)】⇒名前が知られている度合い。
【いちよう】⇒同一。同じさま。
【奇妙(きみょう)】⇒珍しく、不思議なこと。
【残暑(ざんしょ)】⇒立秋後の暑さ。秋になってもなお残る暑さ。
【ひっきりなし】⇒絶え間なく続くさま。切れ目のないさま。
【せつない】⇒悲しさで、胸がしめつけられるようである。
【ことごと】⇒あれこれ。この事あの事。
【際立たせる(きわだたせる)】⇒他との差異をはっきりさせる。
【へんぺい】⇒ひらたいこと。ここでは、時間の進み方がメリハリなく、ただ機械的であることを表している。
【いとおしむ】⇒大切にする。
【区別(くべつ)】⇒違いによって分けること。また、その違い。
【呼び寄せる(よびよせる)】⇒招いて来させる。
【とうてい】⇒(あとに打消しの語を伴い)どうしても。どうやってみても。
【かのごとく】⇒このように。こんなふうに。
【きざす】⇒芽生える。出てくる。
【保護色(ほごしょく)】⇒生物が外敵から身を守るために、周囲から目立たなくさせる体色や模様。
【まとう】⇒身につける。
【必ずしも~ず(ない)】⇒必ず~というわけではない。~とは限らない。
【爽快(そうかい)】⇒さわやかで気持ちがよいこと。
【味のある(あじのある)】⇒独特の趣や面白さが感じられる。
『境目』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ツウカイな気分になる。
②ザンショが厳しい。
③コンナンを呼び寄せる。
④ボウリョクを許さない。
⑤ホゴ色をまとう。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)筆者は幼いころ、外国に住んだことがあったが、そこでは人間どうしの境目があるということを思い知らされた。
(イ)季節がうつるということは、それだけ死にちかづくことであり、せつなくおそろしいことである。
(ウ)内を見て境目をつくるまいとすると、じきにそれは「みんなが一緒がいいね。」という方向になってしまう。
(エ)筆者は外国でチャイニーズと言われて差別を受けたとき、せつなくそして悲しい気分になった。
まとめ
以上、今回は教科書『境目』について解説しました。ぜひ定期テストなどの対策として頂ければと思います。