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良薬は口に苦し 意味 例文 由来 使い方 類義語 英語

 

「良薬は口に苦し」ということわざがあります。

中国の故事成語が元になっており、古くから日本でも使われてきたものです。ただ、具体的な由来やそもそも本当の話なのか?といった疑問が多いことわざでもあります。

そこで本記事では、「良薬は口に苦し」の意味や使い方、漢文、類義語などを詳しく解説しました。

良薬は口に苦しの意味・読み方

 

最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。

【良薬は口に苦し(りょうやくはくちににがし)】

よく効く薬は苦くて飲みにくい。よい忠告の言葉は聞くのがつらいが、身のためになるというたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

良薬は口に苦し」は、「りょうやくはくちににがし」と読みます。意味は「良い忠告は、聞くのがつらいが自身のためにはなる」ということです。

具体例を挙げますと、例えば、食べるのが大好きでたまらない性格の人がいたとします。ところが、友人からは健康のためにもっと食事制限をした方がいいと言われていました。

何度もしつこく忠告されていたので、聞くのがつらくなるほど嫌でしたが、後から考えるとその友人のおかげで病気にならなかったと気付いたとします。このような時に、「友人のアドバイスは、良薬は口に苦しだった」などと言うわけです。

つまり、「良薬は口に苦し」とは「ためになる良いアドバイスほど、聞くのが辛いものである」という教訓を示したことわざという事です。

人からのアドバイスは一見すると非難されているようにも聞こえるため、なかなか素直に従うことができません。しかし、冷静になって考えれば、結局は自分のために言われていると理解できます。

良いアドバイスほど、実は素直に聞き入れにくいものなのです。逆に言えば、聞いていて心地良く感じるようなアドバイスは、本人にとって大した教訓にはならないということです。

なお、「良薬は口に苦し」は単に「よく効く薬は苦くて飲みにくい」といった意味で使われる場合もあります。こちらの意味で使われることは少ないですが、念のため覚えておくとよいでしょう。

良薬は口に苦しの由来・語源

良薬は口に苦し 語源 由来

 

「良薬は口に苦し」の由来はいくつかありますが、一般的には次の三つのどれかだと言われています。

『孔子家語(こうしけご)』 『韓非子(かんぴし)』 『史記(しき)』

一つ目は、『孔子家語』から広まったという説です。

『孔子家語』とは、孔子の話をまとめた『論語』から漏れた内容を一つの書物としてまとめたものです。その中に次のような記述があります。

原文孔子曰、良藥苦於口、而利於病。忠言逆於耳、而利於行。

訓読文孔子曰はく、良藥口に苦けれども、病に利あり。忠言耳に逆へども、行ふに利あり。

現代語訳孔子は言った、「良い薬は飲むと苦いが、病を治す力がある。忠言というものは素直に聞けないが、役に立つものである。」と。

そして二つ目は、『韓非子(かんぴし)』から広まったという説です。

『韓非子』とは中国戦国時代の思想家である「韓非」という人物が著した書物のことです。以下、実際の該当箇所となります。

原文)「夫良藥苦於口、而智者勸而飲之、知其入而已己疾也。忠言拂於耳。而明主聽之、知其可以致功也。

訓読文)「夫(そ)れ良薬は口に苦し、而(しか)るに智者の勧(つと)めて之(これ)を飲むは、其の入りて己(おのれ)の病(やまい)を已(や)むるを知ればなり。忠言は耳に払(さか)らふ。而(しか)るに明主の之(これ)を聴くのは、其の功を致す可(べ)きを知ればなり。

現代語訳)「そもそも良い薬は、苦くて飲みにくいものである。それなのに、智恵ある者が苦い薬を飲むのは、薬が体内に入り自分の病を治すことを知っているからである。人からの忠告は聞いていて気持ち良いものではない。しかしながら、賢い君主が忠告を聴くのは、実際に効果があることを知っているからである。

最後は、『史記(しき)』から広まったという説です。

『史記』とは、中国前漢の武帝の時代に司馬遷により編纂された歴史書のことです。その中の『留侯世家(りゅうこうせいか)』という話の中に次のような記述があります。

原文今始入秦、即安其樂、此所謂『助桀為虐』、且、忠言逆耳利於行、毒藥苦口利於病、願沛公聽樊噲言。沛公乃還軍霸上。

訓読文今始めて秦に入り、即(すなわ)ち其の樂(ラク)に安(やす)んずるは、此(こ)れ所謂(いわゆる)『桀(けつ)を助けて虐(ギャク)を為(な)すなり』、 且(か)つ、忠言は耳に逆うも行に利あり、毒藥は口に苦けれども病に利あり、願くは沛公樊噲の言(ゲン)を聽(き)け、と。沛公 乃(すなわ)ち還(かえ)りて霸上(ハジョウ)に軍す。

現代語訳やっと秦に入ったばかりで、すぐさま快楽に安住するのは、いわゆる、桀王の暴虐行為を手伝うようなものです。忠告は耳が痛くなるが行動に役立ち、薬は口に苦いけども病気には効く、とか申します。沛公樣、お願いですから樊噲の忠告をお聞きください。そこで沛公はやっと霸上に軍を引き返した。

以上が「良薬は口に苦し」の由来ですが、いずれも物語やエピソードの中に「良薬」という言葉が出てきます。

ただ、「良薬」の説明をした後に、必ず「耳が痛くなる忠告ほど役に立つ」という内容も書かれています。

したがって、故事成語に忠実に従うならば、本来このことわざが言いたいのは「苦い薬ほど良く効く」ということではなく、「厳しい忠告ほど役に立つ」ということだと分かります。「薬」を使っているのはあくまで本来言いたい主張をするための例えということです。

良薬は口に苦しの類義語

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「良薬は口に苦し」の「類義語」は以下の通りです。

忠言耳に逆らう(ちゅうげんみみにさからう)】⇒誠心誠意の忠告は、相手にとってなかなか素直に聞き入れないものである。「忠言」とは「忠告の言葉」を指す。出典は『史記(淮南王伝)』。

金言耳に逆らう(きんげんみみにさからう)】⇒たとえ真心から出たものだとしても、人の忠告は聞きにくいものである。「金言」とは「お手本とすべきすぐれた内容を持つ言葉」を指す。

薬の灸は身に熱く、毒な酒は甘い(くすりのきゅうはみにあつく、どくなさけはあまい)】⇒厳しい忠告は素直に聞き入れがたいが、誘惑などの甘い言葉には乗りやすいこと。身体にとって薬になるお灸は熱いが、毒になる酒は甘いことから。

苦言は薬なり甘言は病なり(くげんはくすりなりかんげんはやまいなり)】⇒苦言はしっかりと受けとめれば今後の成長につながるが、甘言は人をだめにしてしまう。「苦言」は「厳しい言葉」、「甘言」は「相手の気に入りそうな上手い言葉」を指す。

「良薬は口に苦し」と似た意味のことわざは多くあります。ただ、全く同じ意味のことわざ、すなわち「同義語」はありません。

例えば、「忠言耳に逆らう」や「金言耳に逆らう」などはほとんど同じ意味ですが「薬」という意味までは含まれていません。ここがわずかな違いだと言えます。

その他、「耳が痛い」なども広い意味では類義語に含まれます。「耳が痛い」とは「相手の言葉が弱点を突いていて、聞くのがつらい」という意味の慣用句です。

良薬は口に苦しの対義語

 

逆に、「対義語」としては以下のことわざが挙げられます。

佞言は忠に似たり(ねいげんはちゅうににたり)】⇒こびへつらうような言葉は、注意して聞かなくてはいけない。

「反対語」の場合は、「表面上良さそうなアドバイスは注意すべきである」という意味の言葉となります。

「佞言」とは三国志の言葉に由来するもので、言葉巧みに相手へ取り繕うような言葉を指します。一見すると真心を持った誠実な忠言と似ているので、注意しなければならないという戒めも込めたセリフです。

良薬は口に苦しの英語訳

 

「良薬は口に苦し」は、英語だと次のように言います。

 

Good medicine is bitter in the mouth.(良い薬は口の中では苦い。)

 

「Good medicine」は「良薬」、「bitter」は「苦い」、「in the mouth」は「口の中で」という意味です。これらの単語を合わせることで、「良薬は口に苦し」と訳すことができます。元々は中国の故事から来た言葉ですが、英語でもそのままのニュアンスで使うことができます。

良薬は口に苦しの使い方・例文

 

最後に、「良薬は口に苦し」の使い方を例文で紹介しておきます。

 

  1. 珍しい薬を処方されて飲んだのだが、だいぶ苦かった。良薬は口に苦しと言うから我慢しとこう。
  2. 良薬は口に苦しと言うけど、上司からの指導は本当に厳しかった。慣れるまでは苦労したよ。
  3. 先生からきつい言葉を投げかけられたが、良薬は口に苦しと言う。前向きに考えて生きていこう。
  4. 両親の厳しいしつけは、自分への愛情の裏返しでした。良薬は口に苦しと考えて改善するつもりです。
  5. 相当きつい言い方だったが、あれでも君のことを心配しているんだ。良薬は口に苦しと言うだろう。
  6. 自分の事を厳しく叱ってくれる人なんて貴重だよ。良薬は口に苦しと言うじゃないか。

 

「良薬は口に苦し」は、普段の会話やビジネスシーンなど様々な場面で使うことができます。ただ、一般には「良く効く薬は、苦くてまずい」という意味で使われることはほとんどありません。

多くの場合、「快くない忠告ほど、自身のためになる」という意味で使われます。これは、最近の薬の味がだいぶ改良され、苦いものが少なくなってきたという背景も影響していると思われます。

昔の薬は主に生薬系のものが多く、下痢止めなどの成分は熊の胆を使っていました。そのため、嫌がる子供を何とか飲ませる目的で、「苦いけど良く効く」という意味でよく用いられていたのです。

現在では医学も進歩していますので、「良薬」=「苦い」という定説が必ずしも成り立つとは限りません。

まとめ

 

以上、本記事のまとめとなります。

良薬は口に苦し」=良い忠告は聞くのがつらいが、自身のためになるよく効く薬は苦くて飲みにくい

語源・由来」=『孔子家語』『韓非子』『史記』

類義語」=「忠言耳に逆らう・金言耳に逆らう・苦言は薬なり甘言は病なり・薬の灸は身に熱く、毒な酒は甘い」

対義語」=「佞言は忠に似たり」

英語訳」=「Good medicine is bitter in the mouth.」

相手からの忠告は、どうしても聞き入れにくいものです。しかし、自分に思い当たるふしがあるのであれば、その忠告は素直に受け入れるべきだと言えます。今後はぜひ「良薬は口に苦し」ということわざを頭の片隅に入れながら生活して頂ければと思います。

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国語力アップ.com管理人

大学卒業後、国語の講師・添削員として就職。その後、WEBライターとして独立し、現在は主に言葉の意味について記事を執筆中。 【保有資格】⇒漢字検定1級・英語検定準1級・宅地建物取引士など。

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