『ロビンソン的人間と自然』は、高校教科書・現代の国語に出てくる評論文です。定期テストなどにも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。そこで今回は、本作のあらすじや要約、語句の意味などを含め簡単に解説しました。
『ロビンソン的人間と自然』のあらすじ
本文は大きく分けて、5つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①今日、私たちは「人間における自然と文化」の関係のありようを問い直すことが要求されている。歴史的には、急激な経済発展と人口増加に伴う大規模な「生態系」の破壊が開始された時期は、ヨーロッパで資本主義という経済体制が登場した時期と重なる。この経済体制のもとで前提されている、人間の自然に対する態度の特徴を明らかにするために、「ロビンソン・クルーソー」という小説が役に立つ。
②ロビンソン・クルーソーは、船が難破して孤島に漂着した際に、船の中に残された小麦をまいて、小麦の量をどんどん増やしていった。また、島で見かけた山羊を捕らえて飼うことで、山羊を増やしていった。彼は苦労と引き換えに「明日の自分の生活が計算できる」ということを手に入れた。将来の生活を予想し、自分に残された資材を合理的に配分し、合理的に時間を計算することで、自分の持てるものを殖やそうとした。
③ロビンソンのような「働き人間」が、どうして資本主義には不可欠なのだろうか?ロビンソン型の人間は、同じ時間で二倍の報酬を約束し、生産量を二倍にするよう要求すれば、不合理とは思わない。一方で、伝統的な考え方をする労働者は、これまでと同じ報酬を得てこれまでどおりの必要を満たすには、どれだけの労働をすれば足りるかと考えるからだ。
④資本主義的経済体制から離れると、明日の必要のために過労死するほどの労働を義務とするような生活観と、必要に応じて働き、後の時間は生活を楽しむような生活感は、どちらが「合理的」かはすぐには決められない。
⑤全地球規模での自然破壊を引き起こしたロビンソン的人間は、自然を合理的な計算と設計によって支配していこうとしたが、自分も自然の中に生きる一員だということを忘れ、自然に対して過重な負担をかけてしまった。自然と文化の関係を問い直すには、近代ヨーロッパ的人間の生活形態だけではなく、人間のさまざまな生活形態にも目を配り、人間にとって真に必要なものとは何か、真に生きるに値する人間的な生活とはいかなる生活かを検討すべきである。
『ロビンソン的人間と自然』の要約&本文解説
筆者はまず、私たち人類が置かれている自然と文化の関係について述べています。そしてこの事を明らかにするには、『ロビンソン・クルーソー』という小説が役に立つと続けます。
小説の中のロビンソンは、自分の残された資材を合理的に配分し、自分の持てるものを殖やすことに価値を見出す人間でした。このような財産を増やすことだけを目的とする人物が資本主義には欠かせないのだと続けます。
最後の段落では、私たちに求められる人間的生活について述べています。
私たちが自然と文化の関係を問い直す時に求められるのは、さまざまな人間の生活形態に目を配り、人間にとって真に必要なもの、真に生きるに値する人間的な生活かという根本的な問題を考えるべきである、という主張です。
全体を通して筆者が主張したいことは、最後の第五段落に集約していると言えます。
『ロビンソン的人間と自然』の意味調べノート
【起源(きげん)】⇒物事の起こり。始まり。
【担い手(にないて)】⇒中心となって物事をすすめる人。ささえ手。
【中産階級(ちゅうさんかいきゅう)】⇒ここでは、資本主義の担い手である労働者全体を意味する。
【孤島(ことう)】⇒陸地や他の島から一つだけ遠く離れている島。
【単純化(たんじゅんか)】⇒込みいっている物事を単純にすること。
【難破(なんぱ)】⇒暴風雨などにより、船が破損・座礁・沈没などをすること。
【漂着(ひょうちゃく)】⇒ただよい流れて岸に着くこと。
【資材(しざい)】⇒物を作るための材料。
【享楽(きょうらく)】⇒思いのままに快楽を味わうこと。
【労苦(ろうく)】⇒心身が疲れ苦しい思いをすること。苦労すること。
【保証(ほしょう)】⇒間違いがない、大丈夫であると認め、責任をもつこと。
【合理的(ごうりてき)】⇒物事の進め方に無駄がなく能率的であるさま。
【損益計算(そんえきけいさん)】⇒収益と費用を計算すること。
【余剰(よじょう)】⇒必要な分を除いた残り。余り。
【禁欲的(きんよくてき)】⇒欲望を抑えているさま。
【不可欠(ふかけつ)】⇒ぜひ必要なこと。なくてはならないこと。
【企業家(きぎょうか)】⇒企業をおこしたり、企業の経営に取り組んだりする人。
【常套手段(じょうとうしゅだん)】⇒決まって用いられるやり方。ありふれた方法や手段。
【不合理(ふごうり)】⇒道理・理屈に合っていないこと。筋の通らないこと。
【対極(たいきょく)】⇒反対側の極。反対側の最も遠い地点。
【風習(ふうしゅう)】⇒その土地や国に伝わる生活や行事などの習わし。
【蕩尽(とうじん)】⇒財産などを使い果たすこと。
【贈答合戦(ぞうとうがっせん)】⇒双方が戦い合うように、贈り物と返礼を繰り返すこと。
【面前(めんぜん)】⇒目の前。見ている前。
【増殖(ぞうしょく)】⇒増えること。また、増やすこと。
【過重(かじゅう)】⇒重すぎること。度を越えて重いこと。
【根本的(こんぽんてき)】⇒基本的であるさま。物事が成り立っているおおもとに関するさま。
『ロビンソン的人間と自然』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①作物をシュウカクする。
②彼らはコトウに上陸した。
③人生をキョウラクする。
④人員にヨジョウが出る。
⑤ホウシュウを受け取った。
次の内、本文の内容を適切に表したものを選びなさい。
(ア)ロビンソンは、一年間の生活が自分にどういうプラスとマイナスをもたらすかという損益計算をやり、享楽を増やすために、禁欲的に財産を増やすことだけをおのれの義務と考えるようになった。
(イ)ロビンソン型ではない伝統的な考え方をする労働者は、同じ時間で二倍の報酬が約束されるような要求がされた場合、この要求をそれほど不合理とは思わないだろう。
(ウ)資本主義的経済体制の中では、明日の必要のために過労死するほどの労働を義務とするような生活観と、必要に応じて働き、後の時間は生活を楽しむような生活感のどちらか合理的かはすぐに決めることはできない。
(エ)ロビンソン的人間は、自然をも自らの合理的な計算と設計によって管理し支配することができると信じたが、当の自分も自然の中に生きる一員だということを忘れてしまったために、生物や環境との協調関係を乱してしまった。
まとめ
以上、今回は『ロビンソン的人間と自然』について解説しました。自然について論じた評論は、入試においてもよく出題されます。ぜひ内容を正しく理解できるようになってください。