城の崎にて 解説 あらすじ 教科書 語句調べ わかりやすく 簡単に

『城の崎にて』は、志賀直哉による小説文です。高校国語の教科書にも載せられています。

ただ、本文を読むとその内容が分かりにくい箇所もあります。そこで今回は、『城の崎にて』のあらすじや語句の意味、テスト対策などを含め簡単に解説しました。

『城の崎にて』のあらすじ

 

本作は、大きく分けて6つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①山の手線の電車に跳ね飛ばされてけがをした。その怪我による背中の傷を癒すため、一人で但馬の城崎温泉へ出かけた。三週間以上、我慢できたら五週間くらいいたいものだと考えて来た。

②頭はまだはっきりせず物忘れが激しくなったが、気分は落ち着いていて気候もよかった。一人きりで誰も話し相手はいない。読むか書くか、ぼんやりと部屋の外を見るか、散歩をして暮らしていた。自分はよくけがのことを考えた。一つ間違えば、今ごろは青山の土の下にあお向けになって寝ているところだったと思う。それは寂しいが、それほど自分は恐怖を感じなかった。自分の心は妙に静まり、何かしら死に対する親しみが起こっていた。

③ある朝、自分は一匹の蜂が玄関の屋根で死んでいるのを見つけた。他の蜂はいっこうに気にせず、その脇を忙しく這い回るだけだった。忙しく立ち働いている蜂はいかにも生きているものという感じを与えたが、その脇にいる一匹の蜂は、一つ所に全く動かずにうつ向きに転がっていて、いかにも死んだものという感じを与えて、寂しかった。それはいかにも静かだった。自分はその静かさに親しみを感じた。

④ある午前、宿を出て散歩に出ると、橋や岸に人が立って川の中の何かを見ながら騒いでいた。彼らは大きなねずみを川へ投げ込み、石を投げていた。ねずみの首に七寸ばかりの魚串が刺し通してあり、ねずみは必死に泳いで逃げようとする。自分はネズミの最期を見る気がせず、寂しい嫌な気持ちになった。今自分にあのねずみのようなことが起こったらどうしようと考えたが、けがをしたとき、自分もあのねずみと同じように、できるだけのことをしようとしたことを思い出した。

⑤またしばらくして、ある夕方、町から小川に沿って一人で歩いて行ったところ、いもりを見つけた。いもりを驚かして川の水へ入れようと思い、石を投げたところ、いもりは死んでしまった。かわいそうに思うと同時に、生きものの寂しさを感じた。自分は偶然に死ななかったが、いもりは偶然に死んだ。その事に感謝しなければならないような気もしたが、実際喜びの感じは湧き上がってはこなかった。生きていることと死んでしまっていることと、それは両極ではなく、差はないような気がした。

⑥三週間いて、自分は城崎温泉を去った。それからもう三年以上になる。自分は脊椎カリエスになることだけは助かった。

『城の崎にて』の意味調べノート

 

【致命傷(ちめいしょう)】⇒死の原因となるような重い傷。

【往来(おうらい)】⇒道路。ゆききの道。

【山の裾(やまのすそ)】⇒山のふもと。

【山峡(やまかい)】⇒山と山の間。

【激励(げきれい)】⇒はげまして、奮い立たせること。

【座敷(ざしき)】⇒畳を敷きつめた部屋。

【縁(えん)】⇒縁側。

【あわい】⇒あいだ。ここでは、「物と物との間」という意味。

【欄干(らんかん)】⇒橋・階段などの縁に設けた、人の墜落を防ぎ、また装飾とする工作物。てすり。ここでは、「自分」が滞在している二階の部屋の手すりを表す。

【冷淡(れいたん)】⇒関心や興味を示さないこと。思いやりがないこと。

【拘泥(こうでい)】⇒こだわること。必要以上に気にすること。

【嫉妬(しっと)】⇒自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎むこと。やきもち。

【助長(じょちょう)】⇒ある傾向をより著しくさせること。

【眼界(がんかい)】⇒目に見える範囲。視界。

【七寸(ななすん)】⇒約二十一センチメートル。一寸=約3.03センチメートル。

【車夫(しゃふ)】⇒人力車を引く人。車引き。

【頓狂(とんきょう) 】⇒あわてて間が抜けていること。だしぬけで調子はずれなこと。

【最期(さいご)】⇒死にぎわ。末期(まつご)。

【静寂(せいじゃく)】⇒静かでひっそりしていること。

【快活(かいかつ)】⇒気持ちや性質が明るく元気のよいさま。

【相違無い(そういない)】⇒間違いがない。確実である。

【沿うて(そうて)】⇒沿って。

【半畳敷き(はんじょうじき)】⇒畳一畳の半分の広さ。

【滴る(したたる)】⇒水などが、しずくになって垂れ落ちる。

【先ほど(せんほど)】⇒以前ほど。

【のめる】⇒前方に傾いて倒れたり、倒れそうになったりする。

【不意(ふい)】⇒思いがけないこと。突然であること。また、そのさま。

【両極(りょうきょく)】⇒両極端。ひどく隔たりのあること。

『城の崎にて』の教科書解説

 

『城の崎にて』は、志賀直哉の実体験を元にした小説だと言われています。作者である「自分」は、山の手線の事故で大怪我をし、城崎温泉に養生をしに出かけます。

その際に、三つの生き物の死に遭遇することになります。それが、「蜂」「ねずみ」「いもり」の死です。

まず「蜂の死」の場面では、「静か」という言葉が何度も登場しています。忙しく動き回る蜂に対して、死んだ蜂は全く動かずに静かにじっとしていました。この事に筆者は親しみを感じたと述べています。

常にせわしく動き回る蜂のように、生きること・働くことに忙しさを感じている人は、死後の静けさに親しみを感じてしまうということを示唆しています。

次の「ネズミの死」の場面では、ねずみが必死に生きようと川でもがき苦しむ様子が描かれています。このシーンに対して、筆者は寂しく嫌な気持ちになったと述べています。

人間に限らず、生き物は死ぬ前に苦しみを味わうことになります。死の直前に苦しみを味わない生き物など存在しません。

そのため、どんなに死に親しみを持ったとしても、いざ死が目の前に来てしまうと、生きようと必死にもがいてしまうのは、生き物の本能なのだと悟ります。

最後の「いもりの死」の場面では、偶然いもりに石を投げつけたところ、そのいもりが死んでしまう様子が描かれています。たまたま投げつけた石によって、いもりが偶然死んでしまったことで、作者は「生き物の寂しさ」を感じることになります。

自分は大怪我しても偶然に死ななかった。でも、いもりの方は偶然死んでしまった。この事により、作者は生きものの死というのは偶然に左右されていることに気付きます。

静かに土にかえる蜂、必死に生きようとするねずみ、偶然死んでしまったいもり、この三つの死と自分自身の死を顧みると、作者は、生と死は両極なのではなく、連続したものであると感じることになります。

通常であれば、生と死は正反対のものだと考えられます。しかし、最終的に作者は、生と死に違いはなく、両者はつながっているものだと捉えるようになったのです。

『城の崎にて』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

チメイショウの傷を負う。

②食べたい欲をガマンする。

テイネイに断った。

セイジャクな住宅街に入る。

⑤彼女はカイカツな女性だ。

解答①致命傷 ②我慢 ③丁寧 ④静寂 ⑤快活
問題2『外界にそれを動かす「次の変化」が起こるまでは死骸はじっとそこにしているだろう。』とあるが、この前の「変化」は何か?本文中の語句を用いて15文字程度で答えなさい。
解答夜の間にひどい雨が降ったこと。(15文字)
問題3『顔の表情は人間にわからなかったが動作の表情に、それが一生懸命であることがよくわかった。』とあるが、「動作の表情」とは、ここではどのような様子を表しているか?50文字以内で答えなさい。
解答ねずみが泳いで逃げようとしたり、石垣へ這い上がろうとしたりして、どうにかして助かろうと動く様子。(48文字)
問題4『それはねずみの場合と、そう変わらないものだったに相違ない。』とあるが、「それ」とは何を指すか?本文中の語句を用いて、40文字以内で答えなさい。
解答傷がフェータルなものだと聞いたとしても、したであろう助かろうとするための努力。(39文字)
問題5『ただ頭だけが勝手にはたらく。それがいっそうそういう気分に自分を誘っていった。』とあるが、「そういう気分」とは、どのような気分か?本文中の語句を用い、50文字以内で答えなさい。
解答生きていることと死んでしまっていることとは両極ではなく、それほどに差はないような感じがした気分。(48文字)

まとめ

 

以上、今回は『城の崎にて』を解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。