「倫理」と「道徳」は、どちらも似たような使い方がされています。そのため、両者をどう区別すればよいのかという問題が生じます。
特に、「倫理」の方は哲学的な要素を含むため、意味を分かりにくいと感じる人も多いです。そこで今回は、「倫理」と「道徳」の違いを、具体例を交えなるべく分かりやすく解説しました。
倫理の意味・例
最初に、「倫理」の意味を辞書で引いてみます。
【倫理(りんり)】
①人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準となるもの。道徳。モラル。「―にもとる行為」「―観」「政治―」
②「倫理学」の略。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「倫理」とは「人として守り行うべき道・善悪の判断規準となるもの」などの意味です。
「倫理」は、単に人としての善悪ではなく、社会の中で人が生きていく上での守り事を表すような際に使われます。
例えば、コロナウイルスの蔓延を防ぐために、外出を自粛したりするのは社会にとってのルールです。また、環境破壊をしないように海や川、山などにゴミを捨てないようにすることも社会にとってのルールです。
このように、社会の秩序を守るために人が守るべきこと・規範などを「倫理」と呼ぶことになります。
「倫理」の語源を確認しておくと、「倫」は「人々の集まり・仲間」、「理」は「物事の筋道・決まり」を表します。
元々この言葉は、英語の「ethics」を日本の哲学者が訳したものと言われています。
「ethics」はラテン語の「ethica」から派生した語で、「ethica」はさらにギリシア語の「ethos(エートス)」を由来とします。
「エートス」とは「ある集団や集まりにおける模範的な態度」のことを意味します。そのため、「社会において人が守るべきことや善悪の基準」という意味で「倫理」が使われているわけです。
道徳の意味・例
次に、「道徳」の意味も辞書で引いてみます。
【道徳(どうとく)】
①人々が、善悪をわきまえて正しい行為をなすために、守り従わねばならない規範の総体。外面的・物理的強制を伴う法律と異なり、自発的に正しい行為へと促す内面的原理として働く。
②小・中学校の教科の一。生命を大切にする心や善悪の判断などを学ぶもの。昭和33年(1958)に教科外活動の一つとして教育課程に設けられ、平成27年(2015)学習指導要領の改正に伴い「特別の教科」となった。
③《道と徳を説くところから》老子の学。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「道徳」とは「人が善悪をわきまえて正しい行動をするために、守らなければならないもの」を表します。
一般に「道徳」は、個人にとっての守るべき行動規範を指すことが多いです。
例えば、上司や先輩などの目上の人に対して日常的にあいさつをするのはその人にとって守るべき行動です。また、親や兄弟、友人などに嘘をつかないことも善悪をわきまえているのであれば、守るべきことです。
このように、その人にとって守るべき個人的な行動規範のことを「道徳」と言うことになります。
「道徳」の語源も確認しておくと、「道」は「人が守るべきこと」、「徳」は「立派な行い・価値のある行ない」を表します。すなわち、「道徳」とは「人が守るべき立派な行いや価値のある行ない」を表すことになります。
転じて、「人間の行動規範や善悪の基準」を意味する言葉として使われているわけです。
小中学校で学ぶ科目で「道徳」がありますが、この道徳も善悪の基準や命の大切さなどを学ぶ授業なので、まさに人間の行動規範を表した内容だと言えます。
倫理と道徳の違い
ここまでの内容を整理すると、
「倫理」=社会において人が守るべきことや善悪の基準。
「道徳」=人間が守るべき個人的な行動規範や善悪の基準。
ということでした。
比較しても分かるように、両者はほとんど同じような意味です。
実際に「倫理」の方の辞書の記述を見ても、「倫理」≒「道徳・モラル」とも書かれています。ただ、厳密に言うと両者は異なる言葉だと言えます。
まず「道徳」の方は「人が守るべき個人的な規範」を指します。言い換えれば、「人として生きていくための常識」にあたるような内容を扱うということです。
例えば、相手に「ありがとう」と感謝の言葉を述べたり、「ごめんなさい」と謝罪の意を伝えたりするのは、すべての人間にとって当たり前のことです。人として生きていくのであれば、誰もが持つべき知識・判断力だと言えます。
このような、人として常識的に守るべきような内容を「道徳」と呼ぶわけです。
一方で、「倫理」の方は「社会において人が守るべき規範」を指します。言い換えれば、「社会にとってよい生き方はどのようなものか?」といったものです。
例えば、「生命倫理」という言葉があります。「生命倫理」とは別名「バイオエシックス」とも呼ばれ、「人の命をどう扱うか?」といった問題を考えていく内容のことです。
主に、人工授精や臓器移植、脳死問題など、人の生死に関わる新しい技術の利用が許されるかどうかを問うような際に使われます。
また、「環境倫理」という言葉もあります。「環境倫理」とは、人間が自ら環境を破壊しないように、生活様式や企業活動の形態を改めていこうとする模範を示したものです。
私たち人間は、自然に対して環境破壊を繰り返し行ってきたという歴史があります。その反省に立ち、人間が環境に対して負うべき義務は何か?といったことを問う目的で「環境倫理」が使われているのです。
「倫理」は単に「社会的な道徳」という意味ではなく、人間がよく生きるための内面的な規範・哲学的な規範といった意味合いが強い言葉です。
そのため、義務教育の学校の授業などで使われる「道徳」に対し、「倫理」は専門的な「学問」として扱われることが多いです。
倫理と道徳の使い方・例文
最後に、「倫理」と「道徳」の使い方を例文で紹介しておきます。
【倫理の使い方】
- 彼は会社経営を行っていく上で、倫理を通すことを非常に重視している。
- 人工授精に関しては、生命倫理に反するのではという意見も見受けられる。
- 人の臓器を他人へ移植することについては、倫理的な問題も指摘されている。
- 政治に携わる者としては、適切な政治倫理を持っていなければならないだろう。
- 介護や看護の仕事をする際は、倫理観に欠けた言動は控えるようにすべきである。
【道徳の使い方】
- 言葉遣いが荒く礼儀作法がないのは、道徳心に欠けていると言える。
- 親は自分の子供に対して、最低限の道徳教育も行わなければならない。
- 今回彼が行った行動は、道徳的にみても当然許されるものではないだろう。
- 彼女は道徳観がしっかりとしているので、物事の善悪を判断することができる。
- 義務教育では、英語や数学などの基本科目だけでなく道徳の授業も行われている。
「倫理」は、社会を含めた人の行動規範を表します。使い方としては、主に「倫理を通す」「倫理を守る」「倫理的」「倫理観」などが挙げられます。
一方で、「道徳」は個人としての規範や常識を表します。こちらは主に「道徳的」「道徳心」「道徳観」などの用例が多いです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「倫理」=人として守り行うべき道・善悪の判断規準となるもの。
「道徳」=人が善悪をわきまえて正しい行動をするために、守らなければならないもの。
「違い」⇒「倫理」は社会において人が守るべき規範を指し、「道徳」は人が守るべき個人的な規範や常識を指す。