恩恵や贈り物を受けたことへ感謝の意を示すことを「おれい」と言います。ただ、この場合、「お礼」と書くのかそれとも「御礼」と書くのかという問題があります。
両方ともよく目にする書き方ですが、どちらを使えばよいのでしょうか?今回は、「お礼」と「御礼」の使い分け、読み方の違いなどについて解説しました。
「お礼」か「御礼」か
まず両者の違いについてですが、この2つの言葉に明確な意味の違いはありません。
すなわち、どちらも同じ意味ということです。
では、そもそもなぜ「お礼」と「御礼」の2つの漢字表記が存在するのか?ということについて触れておきます。
元々、接頭語である「お」に漢字の「御」を当てて書き表すことは普通に行われていました。
戦後の「当用漢字音訓表(昭和23・2内閣告示・訓令)」が世に出るまでは、「お」を「御」と表記していたのです。
今日でも、のし袋や封筒の表書きなどに「御礼(おれい)」「御祝(おいわい)」などと書く習慣が残っているのはそのためです。
ところが、当時の「当用漢字音訓表」には、「御」=「ギョ・ゴ・おん」の3つの音訓のみが示されており、「お」という訓は掲げられていませんでした。
しかも、この内容は後に改正された「当用漢字音訓表」(昭和48・6 内閣告示訓令)や、現在の「常用漢字表」(昭和56・10、内閣告示・訓令)の音訓欄にそのまま引き継がれています。
そして、一部の例外を除き、次第に「お」を「御」と書く習慣は薄れていきました。
このような経緯もあり、現在では「御礼」と書く習慣は未だ根付いているものの、一般に用いる場合は「お礼」と書くことの方が多いのです。
したがって、常用漢字表に従った表記をするならば、「おれい」は「お礼」と書き「御礼」とは書かないことになります。
御礼はおんれいとも読む
ややこしいのは、「御礼」のことを「おれい」ではなく、「おんれい」と読む場合があるということです。
「おんれい」というのは、「おれい」よりも丁重でやや改まった言い方としての言葉です。この場合は、常用漢字表の範囲でも「御礼」と書くことができます。
また、一般にも例えば、大相撲における「満員御礼」や選挙における「当選御礼」のように、「御礼」と書き「おん礼」とは書かないケースもあります。
この「おん」は尊敬や丁寧の意味を表す敬語の接頭語で、「おほみ(大御)」という上代語の接頭語が語源とされています。
以下、実際に用いられていた「おほみ」の例です。
- おほみあかし(大御燈明)
- おほみかど(大御門)
- おほみかみ(大御神)
- おほみき(大御酒)
- おほみこころ(大御心)
この「おほみ」が後に、「おほん<おほむ>(御・大御・大)」と変化していきました。
- おほんうた(御歌)
- おほんかみ(大御神)
- おほんとき(御時)
- おほんまえ(御前)
そして、最終的に「おほん」が「おん」と変わりました。
- おんし(御師)
- おんうた(御歌)
- おんうち(御内)
- おんち(御地)
- おんて(御手)
- おんみ(御身)
- おんぞうし(御曹司)
- おんだいじ(御大事)
- おんちゅう(御中)
- おんのじ(御字)
- おんまえ(御前)
現在使われている接頭語の「お」も、この「おん」がつづまったものだと言われています。
いずれにせよ、「おんれい」と読むような場合は、漢字だと「御礼」と表記することになります。
メール文での使い分け
ビジネスメールなどでの「おれい」は、「お礼」と「御礼」のどちらも使うことができます。ただ、一般にビジネスでは「御礼」を使うことの方が多いです。
【御礼を使った文】
- 平素は格別のお引き立てを賜り厚く御礼申し上げます
- いつも弊社のサービスをご利用頂き、厚く御礼申し上げます。
- この度はお忙しい中ご足労頂きまして、厚く御礼申し上げます。
ビジネスでは、メールを送る宛先が「取引先や顧客といった社外の人」もしくは「上司や先輩といった社内の人」が中心です。
この場合、くだけた文書よりも改まった文書の方が相手に対して失礼のない印象を与えることができます。
そのため、ひらがな表記の「お」ではなく、漢字表記の「御」を使うことが多いのです。
「御礼」は、ビジネスメール以外でも、厳粛な会合や会席のスピーチなど改まった場面で使われる傾向にあります。
一方で、お礼も前に「お」がついているので丁寧な印象を与えることができますが、こちらはもっと一般的な場面で用います。
例えば、親しい間柄でのメールや知人間でのちょっとした文書などといった場面です。
「お礼」は「御礼」よりも堅苦しさがない表記なので、立場が対等の相手もしくは下の相手などに使う際は適しています。
公用文での使い分け
公用文では、「お礼」ではなく「御礼」の方を使います。公用文での使い分けに関しては、文化庁が公式にその見解を述べています。
以下、平成22年に文化庁が出した「公⽤⽂における漢字使⽤等について」からの引用です。
1 漢字使用について
(2)「常用漢字表」の本表に掲げる音訓によって語を書き表すに当たっては、次の事項に留意する。
ウ 次の接頭語は、その接頭語が付く語を漢字で書く場合は、原則として、漢字で書き、その接頭語が付く語を仮名で書く場合は、原則として、仮名で書く。例 御案内(御+案内) 御挨拶(御+挨拶) ごもっとも(ご+もっとも)
つまり、「お」や「御」などの接頭語を付ける際は、その後に続く言葉が漢字であれば漢字で書き、ひらがなであればひらがなで書く。ということです。
【例】
案内⇒ご案内 あんない⇒ごあんない
礼⇒御礼 れい⇒おれい
挨拶⇒御挨拶 あいさつ⇒ごあいさつ
曹司⇒御曹司 ぞうし⇒おんぞうし
その他、元々ひらがなの表記である「もっとも」なども前に「ご」を付けます。
以上の原則に従いまして、公用文では「お礼」ではなく「御礼」と表記するということです。
ただし、これは公用文に限った話ですので、その他の使い方にまで言及するものではありません。
公用文に関してはあくまでひらがなの後はひらがな、漢字の後は漢字で表記するというルールになっているだけです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
【お礼と御礼の違い】⇒意味自体に違いはないが、使い分けが異なる。
【一般に使う際】⇒常用漢字表に従い、「お礼」の方を使う。
【メールで使う際】⇒どちらも使えるが、「御礼」を使うことが多い。
【公用文で使う際】⇒「お礼」ではなく「御礼」の方を用いる。
私たちが一般に使う際には、「お礼」を使えば問題ありません。ただ、ビジネスメールなどで使ったりする際には「御礼」を使う方が望ましいです。その他、公用文に関しては「御礼」を使うという原則がありますのでそれに従うようにしてください。