「起きる」と「起こる」は、どちらも似たような使い方がされている動詞です。
特に普段のニュースなどでは、「地震が起きる」「事件が起こる」などの表現をよく目にするかと思われます。
この2つはどのように使い分ければいいのでしょうか?本記事では、「起きる」と「起こる」の違いについて詳しく解説しました。
起きるの意味・使い方
まずは、「起きる」の意味からです。「起きる」には「立つ・目覚める・寝床から出る」などの意味があります。
「起きる」は、人間や動物が主語になるのが大きな特徴です。
- 父は早く起きる。
- 転んでも起きる子供。
- 犬が起きる時間帯。
別の言い方をするならば、「起きる」=「生き物以外が主語になることはない」ということです。
「起きる」は元々、「横になっていたものが立つ」「眠っていたものが目覚める」などの意味がありました。
そのため、「太郎が起きる」などのように人を主語とするのが一般的です。
「起きる」に対応する他動詞は「起こす」で、「太郎を起こす」などのように用います。
起こるの意味・使い方
次に、「起こる」の意味です。「起こる」には「物事や状態が新しく生じる」という意味があります。
「起こる」は、病気や災害、事件などの状態が発生する時に使われます。
- 頭痛が原因で起こる病気。
- 大きな地震が起こる。
- 街中で事件が起こる。
言い換えれば、「出来事が主語になる」ということです。
「起こる」は、人や動物などが主語になることは基本ありません。
「起こる」に対応する他動詞は同じく「起こす」です。使い方としては、「事件を起こす」などのように用います。
起きると起こるの違い・使い分け
ここまでの内容を整理すると、
「起きる」=立つ・目覚める・寝床から出る。
「起こる」=物事が生じる・状態が生じる。
ということでした。
つまり両者の違いを簡単に言うと、「人に使うのが起きる、出来事に使うのが起こる」ということです。
「起きる」は、主に人を中心とした生き物を主語とします。対して、「起こる」の方は人には使わず、世の中で日々起こる出来事などを主語とします。
ただし、実際には必ずしもこのような使い分けをするとは限りません。
近年では、本来「起こる」とするべきところを「起きる」とするような事例も増えてきました。例えば、以下のような使い方です。
- 被害が起きる。
- 津波が起きる。
- 運動が起きる。
これは、「起きる」と「起こる」に対応する他動詞が、共に「起こす」であることに起因しています。
要するに、「被害を起こす」の「起こす」に対応する自動詞の形が、「起こる」ではなく「起きる」へ行ってしまい、「被害が起きる」のような言い方が生じたということです。
『日本国語大辞典』の「おきる」の項目にも、「穏やかな状態のところにそれを騒がせるような物事が生じる」という意味が書かれています。
そして、実際の用例として次のような例文も掲げています。
- 風波が起きる。
- 腹痛が起きる。
- 事故が起きる。
さらに同辞典には次のような記述も書かれています。
「(両語は)出来事の発生を表わす意義も似通うが、『起こる』は 発生した出来事が勢いや発展性、持続力などをもつ場合に使うことが多い。『事故』が 『起きる』に、『事件』が『起こる』になじむのはそのためである」。
出典:『日本国語大辞典』
これによれば、「起きる」を出来事や発生の意に用いても完全な誤りとは言えないことになります。
つまり、本来「起こる」と書くべき場面で、「起きる」を使っても間違いではないということです。
このような言葉の変化はかなり昔から始まっており、最近になって急に表れたものではありません。
元々は人間を主語とする「起きる」が、出来事の領域にまで意味を広げてきて、「起こる」は現在劣勢に立たされている状況だと言えます。
したがって、出来事の方に関しては「起きる」と「起こる」の両方が使われているというのが現状なのです。
ただし、逆の場合、すなわち、人や動物に対して「起こる」を使うようなことはしません。
【NG例】
- 母は早く起こる。
- 転んでも起こる子供。
- 眠っていた犬が起こる。
読んで分かるように、明らかに違和感のある文だということが分かるでしょう。「起こる」の方は、人に対しては使えないのです。
なお、レアなケースですが、「起こる」しか使えないという場合もあります。それは、複合動詞として用いる場合です。
「複合動詞」とは、独立した語が二つ以上結合し、新たに一つの動詞として意味を持つようになったものです。
- 拍手が湧き起こる。
- ブームが巻き起こる。
この場合は、「湧き起きる」とは言いません。また、「巻き起きる」とも言いません。
このように、他の語と一緒になった動詞である複合動詞として用いる場合は「起こる」の方を必ず用いることになります。
起きると起こるの例文
最後に、両者の使い方を具体的な例文で紹介しておきます。
【起きるの使い方】
- 母は健康のために毎朝6時に起きることを心がけている。
- 夜行性の動物は、寝る時間と起きる時間が人間と異なる。
- 子供達はまだ寝ているので、起きるまで待っておこう。
- 太平洋に面した島国は、津波が起きることがよくある。
- 食べすぎが原因で起きる病気は、糖尿病などが挙げられる。
- この地域で事件が起きるのは夕方であることが判明した。
【起こるの使い方】
- 日本で地震が起こることは、常に想定しておくべきである。
- 今回のような騒動が起こるのは、全く予想していなかった。
- 火事が起こる原因は、タバコや火遊びなどが挙げられる。
- 食生活を改めた結果、体調面に変化が起こるのを感じた。
- 反対運動が起こるようになったのは、現政府への不満からである。
- 学生を中心にタピオカブームが再び巻き起こるようになった。
「起きる」の方は、人や動物の行為を表す使い方が基本です。(例文1~3)ただし、例文4~6のように病気や災害、事件などの出来事に対して使われることもあります。
この用例は本来のものとは言えませんが、現在では慣用的に使われているものとなります。
対して、「起こる」の方は地震や火事、騒動などの出来事が主語となることが基本です。こちらは人が主語になるようなことはありません。
その他、「起こる」は変則的な用例として「巻き起こる」などの複合動詞としての使い方も覚えておくとよいでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「起きる」=立つ・目覚める・寝床から出る。(人や動物が主語)
「起こる」=物事や状態などが新しく生じる。(出来事が主語)
【出来事を主語とする場合】⇒原則「起こる」を使うが、「起きる」も使われる。
【人や動物を主語とする場合】⇒「起きる」のみ使う。
【複合動詞として用いる場合】⇒「起こる」のみ使う。
「起きる」と「起こる」の使い分けは少々複雑です。ただ、複合動詞として使う場面はそれほど多くありません。そのため、「生き物」と「出来事」のどちらを主語にするか?という視点で考えるのが分かりやすいです。前者の場合は「起きる」を、そして後者の場合は「起きる」と「起こる」の両方が使えると覚えておきましょう。