「おはなしします」を漢字で書く場合、二つの送り仮名の表記があります。
「お話しします」「お話します」。両方ともよく見る表記ですが、この場合どちらを使えばよいのでしょうか?
本記事では、「おはなしします」の正しい送り仮名について詳しく解説しました。
「お話しします」か「お話します」か
「おはなしします」という表記は、「お○○します」という謙譲語の形で、ビジネスにおける敬語表現としてよく用いられます。
この〇〇の部分には、文法上、動詞の連用形が当てはまることになります。「連用形」とは、活用形(単語が変化するときの形)の一つで、語尾に「ます」や「た」などが付くのが特徴です。
「返す」を例にすると、活用形は次のようになり、連用形は「返し」となります。
これと同様に考えますと、今回の「話す」の活用形に関しては次のようになります。
見て分かるように、「連用形」の部分は「話」ではなく「話し」です。
よって、「お〇〇します」の○○の部分は連用形である「話し」を入れて、「お話しします」が正しい表記になることが分かります。
「お話します」は正しい表記か?
ではなぜ「お話します」という表記も存在するのでしょうか?これについては、文化庁が出している『送り仮名の付け方』という資料が参考になります。
文化庁による『送り仮名の付け方 通則4』によると、次のような記述がなされています。
活用のある語から転じた名詞及び活用のある語に「さ」,「み」,「げ」などの接尾語が付いて名詞になったものは,もとの語の送り仮名の付け方によって送る。
〔例〕 (1) 活用のある語から転じたもの。
動き 仰せ 恐れ 薫り 曇り 調べ 届け 願い 晴れ ~
(2) 「さ」,「み」,「げ」などの接尾語が付いたもの。
暑さ 大きさ 正しさ 確かさ 明るみ 重み 憎しみ 惜しげ
【例外】
次の語は,送り仮名を付けない。
謡 虞 趣 氷 印 頂 帯 畳 卸 煙 恋 志 次 隣 富 恥 話 光 舞 折 係 掛(かかり) 組 肥 並(なみ) 巻 割
つまり、「おはなしする」を「お話する」と書こうとするのは、上記の【例外】に該当するという根拠によるものです。
しかしながら、「おはなしします」の「はなし」は名詞ではなく動詞の連用形を意味しています。
もし仮に名詞を意味しているのであれば、「はなし」は「話」と表記するのが正しいですが、そうではありません。
よって、「おはなしします」の表記は、やはり「お話しします」であるという結論になります。
「話」と「話し」の正しい使い分け
すでに説明したように、名詞として用いる場合は「話」と表記します。
この使い方は「話」だけでなく、「光」「志」「煙」「氷」「次」などにも当てはまるものです。
また、文法的な面から補足すれば「格助詞」が後ろに付く時も「話し」ではなく「話」と表記します。
「格助詞」とは助詞の一種で、「を・に・が・と・より・で・から・の・へ・や」などのように主に名詞の後ろに付く語を表します。
そのため、例えば「おはなしをする」のように「を」という格助詞が後ろにくれば、「お話をする」と表記します。「お話しをする」とは表記しません。
「お話をする」⇒「〇」「お話しをする」⇒「✕」
「話し」と表記するのは、連用形以外だと複合語の一部として用いるのが一般的です、
「話」も複合語の一部として用いないというわけではありませんが、「話」については「昔話」「立ち話」「土産話」などのように、複合語の末尾に「話」が付くことが多いです。
一方で、「話し」に関しては「話し手」「話し方」「話し相手」などのように複合語の先頭に付くことが多いです。一つの傾向として覚えておくとよいでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「おはなしします」=「お話します」ではなく「お話しします」とするのが正しい送り仮名の表記。
「話と話しの使い分け」=名詞として使う場合や格助詞が後ろに来る場合は「話」を使う。「話し」は連用形として使う場合、複合語の先頭に付くような場合に使う。
基本的には、「話」の方は名詞そのものを意味していると考えて問題ありません。一方で、「話し」の方は名詞ではなく動詞の一部、すなわち連用形を表したものです。文法的な違いを理解した上で、両者の正しい使い分けをして頂ければと思います。