「驚き桃の木山椒の木」という慣用句をご存知でしょうか?
現代では見慣れない言葉なので、死語だと思う人も多いようです。ただ、昔の映画やドラマなどではよく使われており、辞書にも正式に載っている言葉です。
本記事では、そんな「驚き桃の木山椒の木」の意味や語源、死語かどうかなどを詳しく解説しました。
「驚き桃の木山椒の木」の意味・読み方
最初に、この言葉を辞書で引いてみます。
【驚き桃の木山椒の木(おどろきもものきさんしょのき)】
⇒「驚き」の「き」に「木」をかけた語呂 (ごろ) 合わせ。たいそう驚いたの意。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「驚き桃の木山椒の木」は、「おどろきもものきさんしょのき」と読みます。意味は「たいそう驚いた」という様子を表したものです。
「たいそう」とは「非常に・たいへん」などの意味で、程度や分量がはなはだしいさまを表します。つまり、ただ単に驚くだけではなく、その人が非常に驚いた様子、大変びっくりした様子を「驚き桃の木山椒の木」と言うわけです。
例えば、有名芸能人が突然結婚を発表したときなどは、多くの国民がたいへん驚きます。このようなシーンにおいては、「驚き桃の木山椒の木」を使うことができます。
また、スポーツの試合で、格下の相手が勝利を収めたときなども非常に驚く場面なので、同様に使うことができます。
状況はどうであれ、その人がたいそう驚いたこと、とんでもなくびっくりしたことであれば、この慣用句は使うことが可能です。
「驚き桃の木山椒の木」の語源・由来
「驚き桃の木山椒の木」は、「驚き」の「き」と樹木を表す「木」との語呂合わせによってできた言葉です。
まず、「桃の木」というのは文字通り「桃がなる木」のことです。そして、「山椒」とはウナギなどにかける香辛料のことで、「山椒の木」とはその山椒の実ができる木のことを表します。
これらの木に、同じ韻である「き」を合わせて作られたセリフが「驚き桃の木山椒の木」ということになります。
実際には、「驚木」などという木はありませんが、語呂合わせという遊びの要素を入れて面白おかしく言うことで、「その人が驚く様子」を上手く表した慣用句にしているわけです。
なお、「驚き桃の木山椒の木」の由来は現在のところ分かってはいません。元ネタや誰が言い出したのかということも不明です。
ただ、日本では江戸時代に地口(じぐち)と言って、現代におけるダジャレのようなものが大流行していた時期がありました。したがって、少なくとも江戸時代頃には誕生していた言葉なのではという説があります。
この言葉が世に大きく広まりだしたきっかけは、映画『おとこはつらいよ』に登場する寅さんのセリフです。実際のセリフは以下のようになっています。
簡単に訳すと、「これは驚いた」「これはびっくりした」などの意味です。
この映画がヒットしたこともあり、「驚き桃の木山椒の木」という言葉が次第に世の中に浸透していったと言われています。
「驚き桃の木山椒の木」には続きがある
「驚き桃の木山椒の木」には、いくつかの続きのセリフがあります。
例えば、先ほどの「ブリキに狸に蓄音機だよ。」以外だと、1981年放送開始のアクションアニメ『タイムボカンシリーズ』が挙げられます。
さらに、本作品の主人公であるヤットデタマンが、ヒロイン役のコヨミに対して次のような言葉を使っています。
どちらの場合も「驚きを伝えるシーンで用いられている」という点は共通です。
また、その他の作品だと『がってん音頭』という歌にもこの言葉が登場しています。
以上、整理しますと、
- ブリキに狸に蓄音機
- ブリキに狸に洗濯機
- 一気に時を渡りきり
などの続きがあるということです。
このような言葉は「付け足し言葉」と呼ばれ、主に語呂を合わせる目的で本来の言葉の後ろに付け足されます。
付け足し言葉は一見すると無駄のようにも見えますが、調子を合わせたりリズムを出したりする効果があるため、古くから日本では用いられてきました。
ただ単に「驚き桃の木山椒の木。」だけだと文章や会話に勢いのようなものが出ません。後ろに付け足し言葉を使いテンポのよい文章にすることで、全体として調子が整ったリズム感のある文にすることができるのです。
「驚き桃の木山椒の木」の使い方・例文
「驚き桃の木山椒の木」は、次のような使い方をします。
- あの二人が結婚するなんて誰が想像しただろうか?驚き桃の木山椒の木だ。
- まさか自分が宝くじに当選するなんてね。「驚き桃の木山椒の木」とはこのことだよ。
- いつも偉そうにしている彼が、頭を下げて頼みに来るとは驚き桃の木山椒の木である。
- あいつの先輩への失礼な態度は、驚き桃の木山椒の木だ。見ていてヒヤヒヤするよ。
- 40歳で亡くなるなんて驚き桃の木山椒の木だね。人生何が起こるか分からないものだ。
- 君から誕生日プレゼントをもらえるなんて全く思っていなかったよ。驚き桃の木山椒の木だ。
- 久々に親戚の子供と再会したけど、短期間でかなり大きくなっていた。正直、驚き桃の木山椒の木です。
「驚き桃の木山椒の木」は、対象となる人が非常に驚くようなシーンで使われます。
良い意味での驚き、悪い意味での驚きのどちらにも使うことができますが、一般的には良い意味での驚きに対して使われることが多いです。何かの良い知らせを聞き、その人にとってポジティブな驚きであった場合に使われやすい慣用句だと言えます。
また、実際に使う際には必ずしも韻を踏んで用いるというわけではありません。多くの場合は、例文のように通常の文章の一部として用いるものだと考えて下さい。
「驚き桃の木山椒の木」は死語なのか?
「驚き桃の木山椒の木」は、現代では死語になりつつあると言われています。
使われるきっかけとなった寅さんの『おとこはつらいよ』シリーズは現在では終了していますし、ヤットデタマン主役のアニメも1980年代に放送されたものです。
そのため、若い世代、特に10代、20代、30代あたりの人にとってはほぼ目にする機会のない言葉だと言えます。ただ、それより上の世代(40代や50代以上)となると、まだまだ根強く使っている人が多いのも事実です。
したがって、この言葉は死語になりつつはあるものの、完全な死語というわけではないという結論になります。現に、多くの国語辞典やことわざ辞典などにも正式に載せられているという事実もあるからです。
ただ、現代では使う機会が確実に減って来ている言葉ですので、無理して使う必要性はありません。
そもそも、人間が本当に驚いたときは「驚き桃の木山椒」などと長いセリフを言っている余裕はないので、日常会話でとっさに驚いたときは別の表現を使うはずです。もしこの慣用句を使うとするならば、一種の言葉遊び、ダジャレの一種として使うのが妥当だと言えます。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「驚き桃の木山椒」=たいそう驚いた。非常にびっくりした。
「語源・由来」=「驚き」の「き」と樹木を表す「木」との語呂合わせから。正式な由来は不明。
「続き」⇒「ブリキに狸に蓄音機」「ブリキに狸に洗濯機」「一気に時を渡りきり」など。
「死語か?」⇒現代では死語になりつつはあるものの、完全な死語というわけではない。
「驚き桃の木山椒の木」を使う機会は、今後は減っていく可能性もあります。しかしながら、一つの慣用句として覚えておいて損はないはずです。ぜひ今回の内容を理解して、正しい意味を覚えて頂ければと思います。