「音を上げる」という慣用句をご存知でしょうか?仕事やスポーツなどにおいてよく使われている表現です。
ただ、この「音」とはそもそも何を指しているのかといった疑問があります。また、「根を上げる」とはどう違うのかも気になる所です。
そこで本記事では、「音を上げる」の意味や由来、使い方、類語などを含め詳しく解説しました。
音を上げるの意味・読み方
最初に、基本的な意味と読み方を紹介します。
【音を上げる(ねをあげる)】
⇒苦しさに耐えられず声を立てる。弱音を吐く。降参する。「つらい仕事に―・げる」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「音を上げる」は「ねをあげる」と読みます。「おとをあげる」とは読まないので注意してください。「音」は「ね」と読むのがポイントとなります。
「音を上げる」とは「苦しさに耐えられず、声を立てる・弱音を吐く」といった意味を持ちます。
例えば、野球やサッカーなどの厳しい練習に耐えられず、部員がヒーヒーと悲鳴を上げるのは音を上げることだと言えます。また、仕事の労働時間が長くてきついと感じた時に、社員が「辛い」「辞めたい」などと弱音を吐くことも「音を上げること」だと言えます。
つまり、「音を上げる」とは、困難な状況に耐えられず、悲鳴を上げたり気弱なことを言ったりする様子を意味するということです。
その他、用例としてはあまり多くないですが、「降参する」といった意味もあります。この場合は、スポーツやゲームなどの戦いにおいて負けを認めるような時に使います。
音を上げるの語源・由来
「音を上げる」の「音」は、ここでは「弱音や泣き言」のことを表しています。
「音」という字は、「おん」「おと」「いん」「ね」など複数の読み方がありますが、その読み方によって意味が異なってきます。
- 「おん」と読む場合⇒おと、ねいろ、音楽など。(音声・音源・録音)
- 「おと」と読む場合⇒人や虫などの声。振動。(足音・雨音・轟音)
- 「いん」と読む場合⇒おと、音楽、便りなど。(母音・子音・福音)
- 「ね」と読む場合 ⇒人や虫などの声。(弱音・本音・初音)
今回は、上記で言うと「ね」の読み方をする場合に当てはまります。つまり、「人や虫などの声」を表したものということです。
「おと」は比較的大きな音声を指しますが、「ね」は人の感情に訴えるような比較的小さな音声を指します。そして、「上げる」は「声をあげる」「悲鳴を上げる」などがあるように「声を出す」という意味があります。
この事から「もう無理だ。限界だ。」のように弱音を吐くことを「音を上げる」と言うようになったわけです。つまり、「音を上げる」の「音」はその人の気弱な声を端的に表したものということです。
根を上げるは誤用
「音を上げる」の「音」を「根」として「根を上げる」と表記する人がいます。ただ、このような言葉は存在しません。
「音」は困難や苦難に対して吐いてしまう弱音のことですから、「根」という字を使うのは誤りであることが分かります。
誤用する人が多い理由ですが、「根を下ろす」という慣用句があるため、それと対になる「上げる」を使ってしまっているのだと思われます。
「根を下ろす」とは「草木がしっかりと根を生やす」という意味の慣用句です。転じて、「しっかりと位置を占める。定着する」などの意味で用いられています。
こちらは正式に存在する慣用句のため、普段の文章で使っても何も問題ありません。
音を上げるの類義語
「音を上げる」の類義語は以下の通りです。
「音を上げる」を言い換えた言葉はいくつかありますが、全く同じ意味の言葉(同義語)はありません。例えば、「挫折する」などは「声をあげる」という意味までは含まれていません。あくまで意欲を失うことのみを表した言葉です。
また、「断念する」「放棄する」「投げ出す」などもわずかに異なる言葉です。なぜなら、「音を上げる」には物事を投げ出したりするという意味までは含まれていないからです。
この慣用句は、音を上げた後に結果的に物事を投げ出したりするようなことはありますが、必ずしも物事をあきらめるというわけではありません。場合によっては音を上げた後に、その物事を何とか耐えて継続するようなこともあります。
その他、「ギブアップ」は格闘技などの武術で使われるのが基本となります。ビジネスでも使われる「音を上げる」とは異なる言葉です。
この中で意外とよく使われるのが、「さじを投げる」です。「さじを投げる」とは「救済や解決の見込みがない時に、手を引くこと」を表したことわざです。
薬を調合する際に使われる「さじ」を投げ出す意から、医者がこれ以上治療法がないとして病人を見放すことを由来とします。
音を上げるの対義語
逆に、対義語としては以下の言葉が挙げられます。
- 隙を見せない
- 隙を与えない
- 弱音を吐かない
- 弱みを見せない
- 泣き言を言わない
- 愚痴をこぼさない
- 気丈に振る舞う
対義語の場合は「弱音を吐かない・弱みを見せない」といった意味を持つ言葉が基本です。相手や周りに対して精神的な隙を見せない言葉が反対語となります。
音を上げるの英語訳
「音を上げる」は、英語だと次のように言います。
「make complaints」(弱音を吐く)
「give up」(あきらめる)
「complaint」は「不平・不満・ぐち」などを意味する名詞です。「make」を付けることで、「不平を言う」⇒「弱音を吐く」と訳すことができます。
また、「give up」は文字通り「ギブアップする」ということです。物事をあきらめたり断念したりするときによく使われる表現です。英語では日本語ほどそこまで言葉の違いを意識する必要はありません。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
He always make complaints to her.(彼はいつも彼女に弱音を吐く。)
She decided to give up the job.(彼女はその仕事をあきらめることにした。)
音を上げるの使い方・例文
最後に、「音を上げる」の使い方を例文で紹介しておきます。
- あまりに厳しい練習に、選手たちはついに音を上げるようになった。
- この仕事は肉体を酷使するきつい内容なので、音を上げる人が多い。
- 音を上げる人が多いと聞きましたが、自分はあきらめたくないです。
- 最後の問題は難しかったので、音を上げる人も多かったに違いない。
- 彼は忍耐強い性格だが、今回のミスにより音を上げてしまったようだ。
- 彼女は常に明るく前向きで、決して音を上げるようなことはない。
- 注目の決勝戦は、どちらかが音を上げるまでの我慢比べとなった。
「音を上げる」の用例としては、ビジネスやスポーツで使われることが多いです。どちらの場合も困難や苦しさに耐えられず、弱気な発言をする人・意気地のない発言をする人などを対象とします。
ただ、場合によっては例文6のように「音を上げない」という否定文で使われることもあります。この場合は、「根性のある人」「忍耐力のある人」といった良い意味になるのが特徴です。
また、先述したように「降参する」という意味で使われることもあります。この場合は、例文7のようにスポーツやゲーム、武道などの「戦い」において使われるものだと考えて下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「音を上げる」=苦しさに耐えられず、声を立てる・弱音を吐く。降参する。
「語源・由来」=「音(ね)」は「弱音や泣き言」を表すことから。
「類義語」=「挫折する・断念する・放棄する・ギブアップする・匙を投げる」など。
「対義語」=「隙を見せない・弱音を吐かない・泣き言を言わない・気丈に振る舞う」など。
「英語訳」=「make complaints」(弱音を吐く)「give up」(あきらめる)
「音を上げる」は「根を上げる」と誤用しやすい慣用句です。「音」というのは、弱音を表す「音」だと覚えておけば語源を忘れるようなことはありません。ぜひ正しい使い方を覚えて頂ければと思います。