「南船北馬」という四字熟語をご存知でしょうか?
「南」と「北」が入っているので、何となく方角に関係する言葉ということは想像できるでしょう。ただ、正確な由来まで知っているという人は少ないかと思われます。
そこで今回は、「南船北馬」の意味や語源、使い方・類義語などを詳しく解説しました。後半では、間違えやすい「東奔西走」との違いについても触れています。
南船北馬の意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【南船北馬(なんせんほくば)】
⇒あちらこちらと絶え間なく旅を続けること。転じて、あちらこちらと忙しく動きまわること。
出典:学研 四字熟語辞典
「南船北馬」は「なんせんほくば」と読みます。
意味は「あちらこちらと絶え間なく旅をすること」もしくは「あちらこちらと忙しく動き回ること」です。
例えば、1週間というごく短い期間に様々な地域を回って旅行をした男性がいたとしましょう。
「北海道→仙台→神奈川→大阪→福岡」
上記のような場合、あちこちと絶え間なく旅をしているので、「彼は南船北馬である。」などのように言うことができます。
あるいは「旅行」でなくても構いません。会社の仕事の関係上、出張などであちこちと移動をしなければいけなくなったとします。そんなときも、「出張続きで南船北馬な状態だ。」などと言います。
「南船北馬」とはこのように、絶えずあちこち忙しく動き回ったり旅行したりする様子を表す四字熟語ということです。
南船北馬の由来・語源
「南船北馬」は、古代中国・漢時代の「淮南子(えなんじ)」と呼ばれる書物が由来です。「淮南子」の中に次のような記述が残されています。
「胡人便於馬、越人便於舟」
「胡人(こじん)は馬(うま)を便(べん)とし、越人(えつじん)は舟(ふね)を便(べん)とす」
これを簡単に訳すと、「北方には馬を便利とする山岳地帯が、南方には船を便利とする海が広がっている」となります。
中国では昔から南部の方は川や海が多いので、交通手段には「船」を用いていました。一方で、北部の方は山や草原・平原などが多かったので、「馬」を用いて移動をしていました。
このことから、中国全土を行ったり来たりして移動することを「南船北馬」と呼んでいたのです。現在使われている「あちこちを忙しく旅行する」という意味は、ここから転じた結果だと言われています。
つまり、この四字熟語は中国南北の風土の違いを交通手段の面から端的に表したものということです。
昔の旅では、車や電車・飛行機などのような便利な交通手段がありませんでした。そのため、長距離を移動をするような時は馬か船くらいしか用いていなかったのです。
船は今現在でもよく使われていますが、馬という動物は当時、移動手段としてよく使われていた乗り物だったのです。
南船北馬の類義語
続いて、「南船北馬」の「類義語」を紹介します。
以上、6つの「類語」を紹介しました。
四字熟語だと類義語は「東」や「西」を使ったものが多いです。「北」と「南」を使ったものはありますが、数としてはそこまで多いわけではありません。
この中でも、「東奔西走」はよく使われる四字熟語なので補足を入れておきましょう。
東奔西走とは「仕事や用事のために東へ西へとあちこち忙しく走り回ること」です。東奔西走には「旅」や「旅行」などの意味は含まれていません。
この点が、南船北馬と東奔西走の大きな違いだと言えます。
どちらも「忙しく動き回る」という点は共通していますが、東奔西走は対象が「仕事・用事」に限定されるの対し、南船北馬の場合は旅や旅行、仕事、用事などあらゆる移動に対して使われます。
南船北馬の英語訳
「南船北馬」は、英語だと次のように言います。
①「restless wandering」(休む暇のない放浪)
②「constant traveling」(絶え間ない旅行)
①の「restless 」は「休むことのない・静止することがない」という意味の形容詞です。そして「wandering」は「放浪・歩き回ること・さまようこと」などを表す名詞です。合わせることで、「忙しく動き回ること」という意味で使うことができます。
また、②の「constant」は「絶え間のない・一定の」という意味の形容詞、「traveling」は「旅」や「旅行」を意味する名詞です。こちらも合わせることで、「絶え間のない旅行」すなわち「忙しく動き回る旅行」と訳すことができます。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
Last week, I went for restless wandering.(先週、彼は休む暇のない放浪に出た。)
She is on a constant traveling.(彼女は絶えず旅行をしている。)
南船北馬の使い方・例文
最後に、「南船北馬」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
- 彼は旅行好きで毎年様々な国へ出かけている。まさに南船北馬だね。
- 南船北馬な人と言われている彼女だが、今月はどこに行くのだろうか?
- 一国の総理大臣ともなると、国の内外を問わず南船北馬になるのは当然である。
- 現在の彼は仕事が忙しく家にはほぼいない。南船北馬な暮らしとはこのことだ。
- このところ出張続きで仕事が忙しくてね。世界を股にかけての南船北馬なんだ。
- 30歳までに南船北馬して日本中を旅行するのが、現在の彼女の夢である。
上記のように、「南船北馬」は旅行・仕事・政治など様々な場面で使うことができます。一般的には、旅行や出張に対して使うことが多いようです。
また、「南」と「北」が入っているので、南北へ移動するときしか使えないのでは?と思うかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません、例えば、旅行で東京から大阪へ移動した際は西側への移動になりますが、この場合でも「南船北馬」は使うことができます。
重要なのは、方角でなくこの言葉が持つ本来の意味です。南船北馬は、風土の違いから「中国全土を行ったり来たりする」というのが元々の意味です。
したがって、そこから意味が派生した現在はどの方角に対しても使うことが可能なのです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「南船北馬」=あちらこちらと絶え間なく旅をすること・あちらこちらと忙しく動き回ること。
「語源・由来」=中国では風土の関係上、南は船、北は馬を使って移動していたため。
「類義語」=「東奔西走・東走西奔・東行西走・東奔西馳・南行北走・南去北来」
「英語訳」=「restless wandering」「constant traveling」
「南船北馬」は人が移動するときに使える言葉ですが、「東奔西走」とは異なる言葉です。「東奔西走」の場合は目的が仕事や用事に限定されると覚えておきましょう。